竜と王と剣と盾

ノベルバユーザー173744

シェールドでもいろいろな意味で、最強の強さを誇るフィアちゃんが完全敗北です。

一日寝込み、シエラシールは復活し、

「あー、よっく寝た~‼あ、寝過ぎって、逆にしんどいんだよね~」

と言いつつ、首を回し、肩を回しつつ、庭に出る。
ちなみに、方向音痴と言うよりも、自分がどこにいるか把握していなかったシエラシールは、小さい頃の記憶で、外、もしくは中庭に出ればある程度場所はわかるのである。

外の庭に出ると、こちらは、亡き兄リュシオン・エルドヴァーンの棟であり、首をかしげる。

「あれ?何で?まぁ、反対側の北は父さまの集めた財宝たんまりだけど、エージャは、どこに住んでるの?奥の棟は、殆ど儀式用で、部屋らしいものはないよ⁉」
「あ、おはよう、にいさま。何?」

フィアがキョトンとした顔をする。

「いや、ここってにいさまの棟でしょ?ほら、ここはチェニア宮で、方向は違うけど、玄関は東で、奥の間は西。で、父さまの棟に、グランにいさまの棟も向こう……北側。エージャは?もしかして中庭の中の別邸?」

幾つもの棟があり、書庫に武器庫、執務室や、書類の積み上がった棟もあるこの広大な邸宅は、子供の少ないカズール家には少々広い……のだが。

「エージャは、滅多に帰らないから、東南の、子供部屋の横の辺りの部屋だよ。で、その手前の棟は全部、清秀せいしゅうにいさまたちの棟。その内側が隼人はやとにいさまの家族の棟。で、にいさまたちの棟がここ。僕もここに部屋があるの」
「じゃぁ、六槻むつきは?」
「別邸全部改装して、六槻ちゃんのお部屋にしちゃった~‼」
「はぁぁ?か、改装……?」

呆気に取られるシエラに、目をキラキラさせて、

「うん‼ウェイトにいさまのお姉さんの、ナーニャねえ様がね?引き受けてくれたんだよ‼可愛いピンクと、所々に籐家具‼ナチュラルにって‼見に行く?六槻ちゃんはね?フワフワのピンクのパジャマ‼ネグリジェだと、お腹が冷えちゃうからって、デザインしてくれたんだ~‼」
「フィア……かなり力いれてるけど……に、にいさま、お金ないよ?払えないよ?」

その前に6LDKの屋敷は、元々、王族が静養の際に用いた屋敷である。

「大丈夫だよ~‼あれくらい‼それに、アヴィお祖父様も使わなかったでしょ?今の陛下も使わないし良いよって、エージャ言ってたし」
「でも、全部って、六槻泣くよ‼一人怖いって‼」
「ん?大丈夫。ナーガと、ナーガの息子置いてきた‼乗獣レベルランクは最高なんだけど、ナーガに似て癇癪持ちで、頑固で、乗獣をしつける資格をもつ人間がほぼ全員匙投げたの‼」
「よくないじゃん‼」

真っ青になるシエラに、にっと笑う。

「ほぼ全員って言ったでしょ?僕と、父さまと、ルード伯父上は平気なの。特にお母さんのディルサナードの主であるルード伯父上には、逆らえないんだ。で、グズグズしてた六槻ちゃんに『ほーら、これだっこしてねんねだぞ~。これは六槻のペット』ってだっこさせて寝させてる」
「ペット……あの、ナーガとディルサナードの間のナムグをペット……有り得ない」

遠い目をする。
ナーガ・デール・フィルセラ。
爵位をもつナムグは現在二頭。
一頭が、ナーガである。
もう一頭が、フィアの父、シルベスターの乗獣エール・ディーナである。
エール・ディーナは、シェールドでも珍しい、ナムグの中でも大型で、原種のナムグである。
出生地は、このカズールの西にある迷いの原。
ホワイトドラゴンと共に育ち、体格と翼が大きいのが特徴である。
ある時に、カズールに来たシルベスターに興味を持ち着いてきたまま、ずっとそばにいる。
乗獣の資格は実は持っていない。
乗獣の資格とは、一応空を飛ぶためにどこに行く等の許可が実は必要なのだ。
しかし、ナーガとエール・ディーナは資格はない。
その代わり、自由に飛んでも良いと言う許可を得ているのである。

ナーガは、野生種。
迷いの原を出たナムグがシェールドの中央にある太古の森、金の森を中心に生活している。
迷いの原は、文字通り見た目は普通の草原だが、一歩歩くごとに方向感覚がおかしくなり、数日迷い続けたあげく、もとの場所に戻ってしまう。
歩けばそうだが、ドラゴンやナムグには翼があり、迷うことはない。
しかし、その退屈な日々よりも冒険を選んだ祖先が住み着いた金の森では、大きな体は必要なく、翼も長距離を飛ぶ以外必要がなかったため、体が一回り小さく、その代わり、足腰が発達し、走るのが早くなっていった。
俊敏さである。
その為、ナーガは瞬発力と判断力にたけているが、長距離を飛ぶのはエール・ディーナ。
しかし、ナーガは年が上であることと、エール・ディーナはのんびりした性格のため、仲が良い。

ナーガはディルサナードとの間に子供をもうけたが、それぞれ親の名に恥じぬ乗獣として騎士団で働いている。
末っ子のまだ名前のない男の子のナムグと、フィアの乗獣のリアンの双子の弟ケイン・ジュエルのみ主がいない。
ケインは、ナーガの子供の中で数少ない雄のナムグだが、気が弱く、自信がない。
双子の姉のリアンが、背中を押しても隠れてしまうのである。
乗獣試験には合格しているのだが、主に合わず、今でも姉とその恋人のアルフリードのそばにいる。

「あれ?3頭もいたの?」
「あ、皆、おいで」

声をかけるととことこと近づく。
しかし、小柄なアルフリードの後ろに座るナムグに、

「ちっちゃいナムグの後ろに大きい子がいる……」
「えっと、手前の子が、僕の2頭目の乗獣の、アルフリードだよ。金の森の一角で火事があって、助けたんだ。この子、翼が二対あって、保護したんだよ。で、こっちが、リアン。僕の乗獣。女の子。で、後ろの子が……ほら、来てきて、ケイン・ジュエル」

モジモジと、恥ずかしそうなナムグはおずおず出てくる。
その大きさに、

「えぇぇ~‼ナーガより大きくない?それに、毛並みも立派‼骨格も‼こんな綺麗なナムグっていないよ?主は?」
「気が弱くて……見つかってないんだよね。それに自信がないみたいで……」
「えぇぇ~‼こんなにすごい子って早々いないよ~‼私、ナムグいないよね?もしよかったら、私の乗獣になってくれない?嫌なら良いけど」

問いかけるシエラに、目を丸くし、

『ぼ、ぼくは……あの、あの……兄さんたちや、姉さんたちほど……で、ででで……出来が良くない子です……』
「ナーガやディルサナードが言ったの?兄弟とか?」
『いいえ‼』

ぶんぶんと首を振る。

『父も母も兄弟も……言いません。一番小さい弟も『兄ちゃん。ちゃんと見えてないんだよ~‼』って、前が見えてないのか……』

シエラは思う……真面目すぎる。

「じゃぁ、できは悪くないじゃない。兄弟や両親の言うことは間違いないよ。じゃぁ、聞くよ?私の乗獣になってくれる?」
『……ぼ、僕で良いですか?が、頑張っても……兄さんたちに追い付けなくて……情けなくてウジウジして、リアンは、『考えすぎよ』って言ってくれるけど……もっと頑張らないとって……』
「頑張らないとって、乗獣試験に合格してる時点で、普通はすごいんだよ?」
『でも、兄弟は皆持ってます……』
「だから、それが普通じゃないの‼」

呆れると言うよりも、不憫になる。
どれだけ劣等感にさいなまれてきたのだろう……。

「どれだけ試験が厳しいか、クリアした時点で自分を誉めなさい。それに、それ以上頑張ろうって思える自分を誉めなさい。よく頑張った。良い子だよ。君は」

背伸びをして、鼻を撫でると、項垂れて、

『……ぼ、僕、貴方のお家に行きます。そ、それで、いっぱい貴方と空を飛びたいです……良いですか?』
「もちろん‼よろしくね。私はシエラシール。シエラで良いよ?」
『はい‼シエラ……よろしくお願いします』



フィアは呆気に取られ、そして、負けたー‼と思った。
これがシエラシール……自分が追いかけてきた人間の強さだと……再び理解したのだった。

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