もしも超能力者が異世界の魔法学校に通ったら

ノベルバユーザー202613

第24話 急襲用特殊部隊

 翼の羽ばたきの音と共にしわがれた声が聞こえてきた。

「貴様、何者じゃ! 我が魔物達を一瞬にして壊滅させおって!」

 後ろを振り返ると、巨大な鷲のような魔物に乗ったベルゼビュートがいた。
 その横には背中の翼を羽ばたかせて飛ぶアスタロトもいる。
 その背後には空を飛ぶ魔物の大群が並んでいた。
 魔王二人は相変わらず凄い覇気だ。
 肌がピリピリする。
 アスタロトの質問に翔馬は答える。

「貴方方が我が主、ソフィア・ルーイ様のお命を狙っているという情報をお聞きし、参上した者だ。悪いが貴方達にはここで死んでいただく。覚悟して欲しい」
(ああ……このキャラ、苦手だ)

 騎士達はまだよかった。
 若く、彼女らの年齢は翔馬とあまり変わらないであろうからだ。
 しかし、魔王達は外見年齢だけを見ても翔馬よりも年上であり、実際の年齢も翔馬の二倍や三倍では済まないであろう。
 人ではないとは言え、そんな年上の者に偉そうな態度でため口を話す事に苦手意識を持ってしまう。
翔馬のセリフを聞いたアスタロトは激昂する。

「貴様……我らが誰だか分かって居らぬ様だな? 我が名はアスタロト! ヘル・ガーデンの王にして魔王一強固な肉体を持っている!」
(へー、肉体が強固なのかー、タングステン並かな? それともダイヤモンド並かな? タングステンくらいなら何とかなるんだけどな……)

 何せ魔王だ。
 ダイヤモンド以上の固い肉体を持っていても不思議ではない。

「ワシはベルゼビュート。パルミュラの王にして魔王一の軍勢を持つ。たった一人の人間がワシの精鋭を一掃するなど信じられん。ワシらは念入りにこの学園の事を調べて入念の準備をして事を起こしておるのじゃ。そこにお主の情報はない。お主、何者じゃ?」
「……」

 偽名を名乗ろうとして止める。
 日本ではそう言った文化はないが、小説などでは殺す人間に対して自分の名前を名乗ることが多かったことを思い出した。
 しかし、こうなった以上は殺るか殺られるかの二つに一つしかない。
 そしてソフィアのセリフから、自分が死んだらもう学園に魔王を倒す手立てはないらしい。
 ならば自分の本名と正式な所属を言ってもいいのではないだろうか。

(うーん、でも相手も名乗ったんだから俺もちゃんと名乗った方がいいよな!)

 そう結論付けて、翔馬は身なりを整え、背筋を伸ばし、敬礼をしながら真面目な声で答える。

「急襲用超能力特殊部隊(Assault Supernatural power Unit)、通称ASU所属、コードネーム・グラビトン、坂上翔馬。それが今から貴方方を屠る者の名前だ。冥土の土産に憶えておいて欲しい」

 超能力者が世界に生まれ始めた時、全世界の国家で最も早く超能力者を受け入れ、超能力者の部隊を編成し、安全と身柄の保障をしたのは他でもない日本であった。
 世界で一番早く超能力者を受け入れた日本が創設したASUは、結果的に世界中のあらゆる特殊部隊の中で最強と呼ばれるに至った。
 世界ランキングのトップ10位の内、六名がASU所属であることがその証拠であろう。
翔馬はASUの中で第3位。
 世界ランキングは第5位。
 それに世界で唯一の重力系能力者ということでかなり重宝され、お金や物に困ったことがなかった。
 それが翔馬のこの無欲さの原点ともいえるだろう。

「エーエスユー? 坂上翔馬? どちらも聞いた事がない名だな。まあいい。ベルゼビュート! こやつは我が抑える。貴様はその間に学園を強襲しろ」
「それがよさそうじゃな」

 アスタロトは筋肉脳のような見た目をしているのに状況判断がちゃんと出来るようだ。
 アスタロトの指示でベルゼビュートが動き出す。
 それと同時に、示し合わしたように地上の門の外に魔物達が一斉に姿を現し、門内に進入しようとしている。
 その数は魔王一の魔物を従えているとあって、百や二百ではすまない。

(仕方ない……使うか)

 本来ならば斥力フィールドだけを使う予定だった。
 しかし、想像以上に魔物が多かった。
 それに魔王を倒したからといって、魔物がそれで攻め込むのを止めるという保障もない。
 ならば、万が一の場合も考えて出来うる限り魔物を倒しておきたい。

死線デス・フィールド

 技名を唱えた瞬間、学園全体を二枚のバリアが覆う。
 翔馬が持つ技の中でも最強クラスの能力だ。
 引力と斥力の併せ技。
 外膜に引力を。
 内膜に斥力を。
 外膜に進入した瞬間、抗うことの出来ない圧倒的な加速を押し付けられ、内膜に侵入した瞬間、抗うことの出来ない後退を押し付けられる。前に進む力と後ろに進む力、その相反する力によって……魔物達は一斉にペシャンコになる。
 この技は、翔馬が十禁と呼ぶ万が一の時以外の使用を禁止した技だ。
 そのどれもが重力、グラビティの名は冠されていない。
 このデス・フィールドもその一つだ。
 その理由はこの技が……。

「敵を殺害するためだけの技だから……俺はこの技に尊き能力の名は冠させない」

 潰れていく魔物達を見ながら翔馬は呟いた。
 殺害以外では使い道のない技。
 入った者に等しく死を与える加速と減速の併せ技。
 翔馬を含め、超能力者は自分の能力をある意味で崇拝しているといってもいい。
 日本で色々あったが、それなりに平和に過ごしてきた身として、相手を殺害するためだけの技に自分の能力の技名を冠したくなかったのだ。

「なっ! わ、ワシの軍勢が! と、突撃やめーぇい!」

 興奮のあまりアスタロトは叫ぶ。
 先ほどまでは何も言わずとも魔物達が動いたことから、恐らくは口に出さずとも何らかの命令方法があるのだろう。
 それでもなお、目の前の光景を見て叫ばずにはいられなかった。
 アスタロトは事の重大性を理解し、険しい顔で翔馬を睨む。

「貴様、何をした?」
「……大変申し訳ないが能力の内容まで話す義理はない」

 名前を名乗ったところで翔馬にそれほど不利にはならないが、能力を説明すればそれだけ自分を不利にする。

「……ふん、まあよい。貴様が何をしたところで鋼の肉体を持つ我の敵ではないのだからな! はぁああああ――――……」

 アスタロトが身体に力を入れた瞬間、一気に筋肉が盛り上がり、大の大人二人分ほどだった身体が数倍に膨れ上がる。

「ま、まずい! よすんじゃアスタロト! こんなところで暴れる気か!」

 ベルゼビュートが叫ぶ。
(お、おおぉぉぉ……)
 翔馬は目の前で膨れ上がっていくアスタロトを見上げていた。

「ふぅぅぅぅぅぅ……、嬉シイゾ。全力デ戦カエルコトナド数百年ブリダ。強敵ト合間見エルコノ感覚! ダカラ戦イハヤメラレナイ!」
「でっかー……」

 肉体強化能力者は何人か知っているが、ここまで身体が大きくなる人間はいなかった。

「ベルゼビュート! 離レテイロ! 巻キ込マレテモ知ランゾ!」

 ベルゼビュートが離れると同時に、アスタロトが翔馬に迫ってくる。

「速い!」

 一瞬で翔馬の前に現れると翔馬の身体ほどもある拳をぶつけてくる。

「グラビティ・アーマー!」

 慌てて重力を身体に纏う。
 その拳が翔馬に当たった瞬間……拳の方がはじけ飛ぶ。

「「「えっ……」」」

 三人の声が重なった。
(え、もしかして……)
 今度は翔馬が拳を固め、アスタロトのお腹めがけて殴る。

「待ッ……グホアァ!」

 翔馬の拳がアスタロトのお腹に当たった瞬間、その肉体がバラバラにはじけ飛ぶ。

「……本当に鋼の強度だったんかーい!」

 翔馬はつい叫んでしまう。

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