もしも超能力者が異世界の魔法学校に通ったら

ノベルバユーザー202613

第4話 地毛

「ええ!」

 突然女騎士に剣を突きつけられた翔馬は慌てふためく。
 その剣も間近に突きつけられて分かった。
 今の戦闘で多少刃が刃こぼれをしているものの、間違いなく何かを斬る事に特化している。

(そ、空を飛んで逃げようかなー……)

 翔馬が弱腰にそんなことを考え出した時だった。
 殺したと思っていた虫型の魔物の一体の首が動き出し、翔馬に向かって飛び出してきたのだ。

「……っ!? 下がりなさい!」

 それに気付いた騎士が翔馬に向かって走り出す。
 だが、急なことで動きだすのが遅く、とても間に合いそうにない。
 虫型の魔物は、翔馬の身体をクワガタのような鋏で殺そうと迫る。
 一方で、死が目前まで迫っているというのに翔馬は少しも動かない。
 ただ、小さく呟くだけ。

「グラビティ・アーマー」

 その瞬間、まず翔馬を鋏もうとしていた鋏が根本から切れ吹き飛んでいく。
 そして勢いのまま翔馬にぶつかろうとしていた頭も弾け飛んでいく。

「ふぅ、危ない危ない。お名前は分かりませんが、警告して下さって助かりました。ありがとうございます」

 先ほどまで自分に剣を突きつけていた騎士に対して、翔馬は律儀に頭を下げて感謝する。

「お前……、今、何をしたの? 詠唱をしていなかったように見えたけど……」
「詠唱……ですか?」
(詠唱? 超能力を使うのに詠唱が必要だなんて聞いたこともないけど。もしかして俺達が技に名前を付けて口に出しているのを詠唱って勘違いしているんじゃ……。あれは技がイメージしやすいのとかっこいいからってだけのことなんだけど)
「いえ……詠唱などは別に、必要ありませんが?」
 最後が疑問系になってしまう。
「詠唱が必要ない、だと……。お前……何処から来た!」
「え……森の中ですが……」
「は?」

(あ、それだけじゃ分からないか!)

 つい、今いた場所を行ってしまった。
 そのことに気付いた翔馬は慌てて言い直す。

「あ、すいません! ええっと、俺は坂上翔馬って言います。東京にある国立の六聖学園に通ってます……、ご存知ありませんか?」
「六聖学園? 聞いた事がない名前の学校ね?」
「はぁ、そうですか」

 あれだけ報道されて有名になった超能力を知らないのだ。

「怪しいやつ……、先ほどは邪魔が入ったがお前、やはり拘束させてもらう」
「え、ええ! な、何でですか! み、身分の証明なら……あっ!」

 財布の中にある健康保険証を取り出そうとして、ポケットに財布が入ってないことに気付く。
 服は外着の服ではあるが、ポケットには何も入っていない。

「身分の証明が出来ないみたいね? ならば拘束させてもらうわ。おとなしくしなさい」
「い、いやいやおかしいですよ! 俺に触ったら訴えますからね!」

 日本では罪を犯していない者を、ただ怪しいからといって拘束することは出来ない。
 警察に囲まれても逃げ出して何の問題もないし、例えパトカーを呼ばれたとしても乗り込む必要はまるでない。
 身分証明だって強制ではなく、あくまで任意の調査のはずだ。

「はあ? やれるものならやってみなさいよ」
「ええー、逆ギレ……」

 訴えたら負けるのは間違いなく向こう側だ。
 超能力者の翔馬は、その身分と能力の事情で国と少なからずパイプがある。
 相手の地位にもよるが、味方には出来なくても公平な裁判を約束させられる。
 馬車に乗っているのが何処の誰か知らないが、敗北必須の面倒くさい泥沼裁判をやりたいのであれば受けてたつ。
 翔馬も好戦的な視線を返すと、騎士も翔馬に負けじと睨み返してくる。
 二人の間に火花が散る。
 そんな時だった。

「翔馬とやら、矛を収めよ!」

 馬車の中から幼いながらも威厳のある声が草原に響いた。

「我らを助けてくれたのに、その恩人に対して拘束するなどと……。あまりに礼を失した態度じゃ。その騎士の主として謝罪する。すまなかったな」
「い、いえ、こちらこそ……突然現れて失礼な事を言ってしまってすいませんでした」

 やんごとなき身分のご息女らしい少女が先に謝ったのを聞いて、翔馬も慌てて頭を下げる。
(ちょ、ちょっと好戦的だったかな……。あー失敗した! こんな意味不明な状況過ぎなければ冷静に対処したのに!)
 今更後悔しても後の祭りなのだが。
 未知の状況と、容赦はしないとはいえ魔物を大量に殺したことで少し興奮したのだ。

「ふむ、品というほどではないが丁寧な態度じゃな。よかろう! ちょっと待っておれ!」

 そう言うと馬車の中からゴソゴソという衣切れの音がしてくる。

「あ、あのー」

 暇になったので、隣でムスッとしている騎士に、ずっと気になっていたことを聞く。

「何?」

 剣呑な声で聞いてくる。
 それも当然だろう。自分のせいでその主がわざわざ謝罪の言葉を口にしているのだから。
 しかも自分に質問を聞いてきているのはその元凶だ。

「す、すいません……」
「だ、か、ら、何って聞いてんのよ!」
「ヒイィ!」

 恐れをなして平に謝る翔馬に焦れた騎士が鬼のような形相をして怒鳴る。

「え、ええっとーその髪って染めたんですか?」

 騎士の甲冑の隙間からはみ出している髪を指して聞く。

「は? そんな浮ついたことするわけがないでしょ! 地毛よ地毛! そんなことも分からないの?」
「す、すいません。珍しかったもので」
「はぁ? 赤色の髪なんて別に珍しくも何ともないでしょう」
「え!」

 動じることなく当然といった顔をして話す騎士に、翔馬は動揺を隠し切れないでいた。
 しかもよく見れば騎士達の髪の色が統一されていない。
 最初は、ライトノベルの実写だからそれもありか、などと考えていたのだが、近くで見てみるとどう見ても染めただけでは出ない艶のある色をしていた。
 真っ赤な地毛なんて本の中でしか聞いた事がない。
 当然といった顔で頷いている女性騎士を見て、翔馬の混乱は更に深まっていく。
(ま、まさか……いや、そんな、でも……)
 そろそろ少年も気付き始めていた。
彼女らは日本語を喋ってはいるが日本人ではなくそもそもここが日本ではないということに。
 日本なら裁判になっても何とかなる。
 しかし、この何処かも分からない国ではどうか分からない。
(ブルリ……)
 先ほどの自分の無謀さに背筋を震わせる。
 入れといわれても当然逃げるが、最悪お尋ねものになるところだった。

「よし、準備オーケーじゃ! では……」

 翔馬が自分の状況に対応できず頭を抱えていると、馬車の中から声が聞こえてきた。
 中から鍵が開く音が聞こえ、扉が開く。
 その中から出てきたのは声の若さを裏切らない、年若い少女が出てきた。
 金髪に碧眼という王らしい組み合わせの髪と眼をしている。
 しかし、服は見たところ何処かの学校の制服だろう。
 黒と白を基調とした制服で、リボン以外は正直地味だった。
 しかも先ほどまで脱いでいたらしい。よく見ると皺だらけだった。
 しかし、生まれながらの品格からか、そんな格好でもそれとなく様になっていた。

「では、改めて名乗ろう。我はガリア王国第六十三代国王ソフィア・ルーイである!」

 少女は胸を張り、威厳たっぷりに言った。


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