復讐のパラドクス・ロザリオ

殻守

第20話 不思議な少女

「…どうかしたんですか?」
幼い少女の声でエルケードは自分がひどく懐かしむ様な目で少女を見ていたことに気がついた。
「何でもないよ」
エルケードは無理に笑顔をつくり、少女の頭を軽く撫で歩きだした。
あの娘はミレーネではない。
そう自分に言い聞かせ少女から離れるように歩き出した。

しばらく歩いたところでエルケードは少女が着いてきていることに気がついた。足を止め、振り返る。少女はエルケードの着ているローブの裾をまたつかんでいた。さすがに振り払うわけにはいかず、
「どうかしたのかい?」
そう優しく言うと、少女は一瞬考えるように俯くと、
「私を家まで送ってください。」
裾を引っ張りながら上目遣いでそう言うその姿がミレーネが何かお願いをする時と全く同じでエルケードは途端に切なくなった。ふと辺りを見ると、既に陽は落ちていて暗闇が広がっていた。
…流石に1人で帰らせふわけには行かないか。
まだ年端もいかない少女をこの暗闇の中1人で帰らせるとなると何が起きてもおかしくない。もしかしたら親御さんも近くまで探しに来ているかもしれないな。と思いつつ少女を片目で見たあとに小さく溜息をつくと、何も言わずただただ小さく頷いた。すると少女は少しだけ嬉しそうにエルケードの手を引き、来た道を戻るように歩きだした。
少女はエルケードが走り抜けて来た林道に向かって歩いているように見えたが手前で右に方向転換、エルケードの手を引き森を脇に真っ直ぐ歩きつづけた。
「お兄さん…名前聞いても…」
「エルケードだ」
「それじゃあ、エル兄って呼びます。」
と言って突然、左腕に抱きつくと「エル兄、エル兄」と嬉しそうに何度もそう呼んできた。エルケードはその様子を見て優しい笑顔で微笑み頭を撫でていた。
「それで君の名前は?」
エルケードがそう尋ねると少しだけ困った様な顔し、
「ミニっていいます。」
と笑顔でいった。
いい名前だな。と頭を撫でると少しだけ照れくさそうにして腕を強く抱き締めた。

しばらく歩いたところでエルケードは思い出したように、
「そう言えば何で鉄のブーツ何て履いてるんだ?」
ミニは自分の足のブーツを見た後、不思議そうにエルケードの顔を覗き込み、
「普通のブーツですよ?」
とそういった。エルケードは怪訝そうに眉をひそめたが、すぐに笑顔をつくり、
「そうだな、変なこと言ってごめんな」
「面白い人ですね、エル兄は」
ミニはそう言うとエルケードの腕を離れ、
「この辺りでだいじょうです。」
と笑顔で言って手を振りながら闇の中へと去っていった。
エルケードはそのまま歩き続けていると少し浅めの崖を見つけたがそれ以外特に何かある訳ではなかった。エルケードが崖を覗き込むと、壁に穴が出来ているのが見えた。
恐らくミニはあの中だろう。しかし今行ったところで仕方が無い。
エルケードは一旦その場を後にし、森の中に入ると平たいスペースを見つけそこで眠ることにした。エルケードはミニからは普通ではない何かを感じとっていた。明日、あの穴の中を調べて見ようと決めエルケードは眠りについた。しかし彼は気づいていなかった。右腕がエルケードに問いかけている事に。

コメント

コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品