復讐のパラドクス・ロザリオ

殻守

第16話 果たすために

突如として森から天に向け伸びた影の柱は村民を怯え、そして恐怖させるには充分だった。しかしそれでも守護者がいるから大丈夫だとか今ならまだエルケード様がいるといい誰もがこの事態を危険視するものはいなかった。教会からその影を見たベルフは口元を釣り上げ笑みを浮かべた。

フォルスはただただ焦っていた。身体強化を限界まで上げていないエルケードは正直に言ってこの環境下であれば倒せない相手ではない。そして全方位に風の刃を展開した瞬間、フォルスは勝利を確信していた。だがフォルスはすっかり忘れていた。何故自分が彼の前に姿を晒し立ち塞がったのかを。彼の右腕から感じたどす黒い気配を。
「…ッ!」
冷静さを失ったフォルスは木々をなぎ倒しながら広がっていく影に向け、風の刃を放った。しかし刃は影に触れた瞬間に消失した。そして直感で気がついた。この影は自分の持つ『加護』と同等のものだと。その瞬間、
「!?」
影の中心にある柱の方からフォルスの登っている木に向け巨大な黒い腕が伸びてきた。そしてその腕は木を叩き折った。フォルスは堪らず地に足を付けた。すると広がっていた影は消失し、影の柱は次第に小さくなっていった。そして柱があった位置にはエルケードが左手に剣を握り立っていた。しかし、
「なんだ…あれは…」
エルケードの右腕は影を纏い禍々しさを放っていた。通常の人の腕よりも1回り大きくなっており指先1本1本が鋭く変化していた。その手の甲には赤く逆十字が浮かび上がっていた。

―あぁ、こういうことか
エルケードは右腕から影を解き放ち腕を影が覆い尽くして気がついた。この影が自分に囁きかけてくる声に、
―あの男の魂が喰いたい
と言う声に。
そしてエルケードは直感で気がついた。この影が求めるのが魂だとするならば13の宝石の汚れを拭うということは最低でも13人を殺さなければならないことに。
「…」
エルケードは左の剣を握り直し、前に突き出し右腕を後ろに引き構えを取った。
「フォルス」
そしてエルケードは自らに言い聞かせるように
「いくぞ。」
そういった。

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