復讐のパラドクス・ロザリオ

殻守

第5話 憧れた思い出

朝食を済ませ、片付けを終えるとエルケードはチゲルの葉を干して家を出た。正直気まずかったのだ。キツイ口調で言ってしまったことも、ミレーネが過去の思い出を語りたいと思っていることもエルケードは知っている。しかしエルケードは出来れば他人から過去の話をしてほしくは無いのだ。
「そうして家を出たもののすることもないところでちょうど僕の姿を捕らえたということですか。」
エルケードは今森の中にいる。そして彼の目の前の木には少年が登っておりその鋭い眼差しで辺りを見据えている。人間のそれとは違う緑の髪に緑の瞳。肌はほんのりと日に焼け、濃い緑色のローブを身にまとっていた。そしてその手には丈夫そうな弓を握り、腰には弓矢の入った筒が掛けてあった。
「すまないな、フォルス」
フォルスは風魔法の扱いに長けたグリーンシルフで、この村を守る『守護者』だ。この村は人口の9割がグリーンシルフだ。その中から1人、この村を守る『守護者』が選ばれる。辺りを木々に囲まれたこの場所ではどの魔法よりも風魔法が一番適しているという理由からだ。それに加えフォルスは、森のすべてを把握、味方につける『賢人の加護』を持つ。二年前に1度だけエルケードが彼と戦った事があり、その時は勝ったが森の中での戦闘ではなかったことに加えその時の彼はまだ1人前と呼べるレベルに届いていなかった。今戦えば、エルケードに勝ち目ない。
「いえいえ、むしろ嬉しいですよ。愚痴であれ、憧れの騎士が僕に話掛けてくれたんですからね。」
そう言ってフォルスは本当に嬉しそうに笑った。
エルケードは歯痒い気分になった。
「元騎士だ。それに今の俺はお前の憧れたエルケードとは程遠い。」
そう返すと彼は首を降り真剣な眼差しで、
「そんなことありません。僕は貴方に憧れた。それは揺るがない事実で今がどうであろうと関係ありません。そしてそれは今も代わりません。」
そんな彼の真剣な眼差しを見てエルケードは昔の自分を思い出した。
エルケードは小さい頃に騎士だった父に憧れた。父はレッドシルフとして産まれその炎と共に敵を切り、そして人々を守った。人間として産まれ落ちたエルケードに取って父が人生の目標であり、追い抜くために努力を惜しまなかった。その時の自分にフォルスはよく似ている気がしたのだ。
「…?何を笑っているんです?」
不思議そうにフォルスが聞いてきた。
「いや、何でもないさ。ありがとうフォルス。お陰で少し気分が楽になったよ。」
フォルスと話せて良かったと心の底で静かに思う。
「それならよかったです。ならもう暗くなることですしそろそろ帰って仲直りしないと。」
そう言われ辺りを見回すと確かに少し暗くなっていた。
「あぁ、ありがとうフォルス。」
彼に礼をいいその場を後にしたのだ。
帰ったらミレーネの好きな料理を作ってやろう。
そう思ったエルケードは商店に寄ってから帰ることにした。

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