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復讐のパラドクス・ロザリオ

殻守

第1話 愛した者

『エル…ケー…ド』
弱々しい少女の声が愛してやまない少年の名を呼ぶ。
少女は胸に大きな傷を負い、いつ命の灯火が消えてもおかしくはなかった。
『エルケー…ド』
それでも少女は今なお、自分を守ろうと必死になって戦っている少年の名を呼ぶ。
少年は常人離れしたその身体能力で寄せくる敵をいとも容易く、なぎ倒す。
気がつけば寄ってくる敵は既にいなくなっていた。
少年は地面に背を向け横たわる少女の元へと駆け寄り、慎重に抱きかかえた。そして恐ろしい程に軽くなっていることに彼は気づいた。しかしそれが自身の身体強化による影響からであることに彼は気づいていなかった。
『!…待ってろ、すぐに救護班の所に』
『まっ…て』
彼がその場を全力で離れようとした瞬間、彼女が彼を呼び止めた。
『まっ…て…エルケー…ド』
『…!』
少女は最後の力を振り絞るように少年の顔に手を当てた。
彼の目には涙が滲んでいた。
『ダメだよ…エド…私は…助から…ない』
『…!何を言っているんだ!まだだ!まだこの傷程度だったら…』
彼女の細い指が少年の涙を拭った。
『分かって…るんでしょ、エド…あなたにも…見えてるんでしょ…』
『違う…あんなの幻だ!きっと敵の魔法攻撃か何かで…』
『あれは本物だよ…エド』
少年は顔を上げ目の前に立つ者を睨みつけた。
真っ白なドレスに白い肌、白い髪をしている長身の女だ。その顔は何か掛けてあるらしく全く見えない。
『迎え巫女…!!』
迎え巫女、女そう呼ばれる存在だった。
迎え巫女は清らか魂を救う。そしてその魂は天界へと招かれる。
この世界では死を目前に控えた者前に迎え巫女に魅入られる者がいる。そしてその者の死は栄誉あるものとされている。逆に言えばまだ生きられるとしても迎え巫女に魅入られれば死が訪れることになる。そして迎え巫女から逃れることは出来ない。
迎え巫女がこちらに歩み寄ってくる。
少年は少女を静かに下ろすと先程まで敵を切りつけていた剣を抜いた。
『俺の愛する人から離れろ…!迎え巫女ぉぉぉ!』
またも常人離れした身体能力を駆使し目にも留まらぬ速さで迎え巫女を切りつける。そして胴体を真っ二つにするべく振り下ろした。しかしその刃は迎え巫女に届かない。いや確かに届いていた。だが何故かその刃は直前で大きく逸れたのだ。
迎え巫女は歩み続ける。
『クッ…ソ!止まれぇぇぇぇぇぇ!』
身体を捻らせ背後にいる迎え巫女を更に切りつける。
しかしそれもまた直前で大きく逸れてしまった。
『…!ふざけるな!』
乱舞、と表現するのがふさわしい程に激しい剣戟が迎え巫女を包む。しかしそのすべてが当たることはなかった。迎え巫女は止まらない。
『があぁぁぁ!』
渾身の一撃が迎え巫女の脳天を捉える。だがそれも当たることはない。そして迎え巫女は彼女の元へと辿り着いた。
『さぁ、迎えに来ましたよ』
美しい女の声がした。
『やめ…ろ』
少年の掠れた声がした。
『さぁ行きましょう、みんなあなたを待っています。』
というと迎え巫女は少女手をそっと握った。すると少女の身体は光に包まれ始めた。
『やめてくれ…』
彼の言葉届かない
『お願いだ…』
『エド』
不意に彼女の声がし、彼は顔を上げた。
『私はあなたが大好きだよ』
『あぁ俺もお前を愛している』
いつの間にか涙を流していた。さっき彼女に拭って貰ったはずなのに。
『だからねエド、私迎え巫女に選ばれたことはとっても光栄だと思ってるでもね…』
そして彼女は
『できることならもう少しあなたと一緒に居たかった。』
そう言って寂しく笑って消えていった。
『…』
少年だけが残った。
『…ゥ』
エルケードだけが残った。
『ウワァァァァァァァ!!』
そして戦場で1人、悲しく泣いた。
愛する恋人を無くした騎士は彼女の最後の言葉を一生忘れはしないだろう。そしてそれが彼を、終わらせることになろうとも。

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