我が家の床下で築くハーレム王国
第39話幸せの形
ハナティアのその言葉の意味は、俺でもすぐに理解できた。俺もああして告白した以上、その想いに答えなければならない。
だけど、
「出産予定日だけえらく現実的なんだな。計画を立てた割には」
「そこは私も普通の女の子だし、子供は親を選べないって言うでしょ?」
「ちょっとそれは違うと思うけど」
出産予定日は来年。だけどハナティアはそれまでの準備として、もっと早くにトリナディアに来て欲しいと言う。それは結婚してほしいという意味でもあり、子作りの為にもっと側にいてほしいという意味でもあるのだと思う。
「ハナティアは……それを望んでいるのか?」
「私は翔平とずっと一緒がいいと思っているの。だからお願い」
「そんなのお願いとかじゃない、プロポーズって言うんだよ」
俺は戸惑っていた。それが決められた未来だったのかもしれないけど、簡単に正志達と別れる何て事はできない。
「具体的にはどれくらいにトリナディアでの暮らしを始めて欲しいんだ?」
「出産予定日の大体半年前くらいがいいの。その間に国王としての仕事も慣れてもらいたいし」
「つまり大学の夏休みが終わるくらいまでか……」
大学の夏休みは九月の末近くまである。その代わり入るのが八月と遅め。出産予定日の半年前なら、やはりその位の時期になるが、それはつまり残されている時間も少ないという事になる。
「あと二ヶ月で二人と別れろって事か?」
「翔平には申し訳ないけど、それが望みだから」
残りの二ヶ月で気持ちを切り替え、新しい生活に身を投じろと言われ、その返事を今すぐに出す事は俺にはできない。
「結婚したら地上に上がっちゃいけないのか?」
「残念だけどそれが決まりでもあるから……」
「そうか……だったら、少しだけ考える時間をくれないか?」
「うん。まだ二ヶ月はあるから、それまでは待ってる」
「ありがとうな」
こんな突拍子もない話、普通なら断ってもおかしくない。だけどハナティアが好きな以上、今の俺にはその決断をする時間が欲しかった。すぐには決められないこの問い。
果たして二ヶ月後に俺は答えを出せるのか、すごく不安になる。
「それじゃあおやすみ翔平」
「ああ、おやすみ」
地上での暮らしをやめる何て事は、俺にはとても重大な選択だ。だから時間がほしかった。
それを受け入れるまでの時間を。
(折角のプロポーズ、台無しにしたかもな俺……)
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
秩父旅行二日目、今日の日程はほぼ帰るだけなので宿での時間を主にお土産探しで堪能する事に。
「あれ、ハナティアちゃんは?」
「まだ寝てる」
「昨日寝るの遅かったのか?」
「少し話をしていたりしていたからな」
朝十時頃に正志と雪音と合流したのだが、ハナティアはまだ寝ていて三人だけでお土産を見る事にする。
(サクヤ達のお土産はこれが買えばいいか)
「翔平君は誰かにお土産買うんですか?」
「一応家族にと、サクヤ達にも買って行くけど雪音は」
「私もそんな感じです」
いつとの調子で雪音と会話をするが、俺はある事に気がついた。
(雪音、目が腫れてる……)
正志から聞いていたが、雪音は昨晩かなり泣いていたらしい。その原因が自分にあるのは分かっていたので、何ともいたたまれない気持ちになる。
「どうかされましたか? 翔平君」
「いや、何でもない」
気にしてはいけない事なのは分かっているが、やはり気になってしまう。でもそうなる覚悟の上で、俺はハナティへの想いを告げた。だから悩む必要なんてないのだ。むしろ悩むべき事なのは……。
(いつ二人にあの話をするか、だよな)
「おーい翔平、この人形ハナティアちゃんにプレゼントしようぜ」
「そんな不気味なものプレゼントできるわけないだろ」
「だったら、私が翔平君にプレゼントしますよ」
「俺がほしいとも言ってないからな」
もし二ヶ月後に俺は、トリナディアでの暮らしを選んだら今のこの時間も終わってしまう。でも正志が言う通りいつかはそれぞれが違う道を歩き出すのも事実だ。
だから別れが来たって……。
『それがあなたの本当の意志?』
「え?」
「ん? どうした翔平、これ買いたくなったのか?」
「だから買わないって。それより……」
何であの声がここでも聞こえるんだ。
「それより何だよ」
「いや、気のせいだと思うから気にしないでくれ。それよりそろそろハナティアを起こしてくる」
「あ、おい」
少し怖くなった俺はその場を去りハナティアを起こしに向かったのだった。
「ハナティア、そろそろ起きろ……って、起きてたのかよ」
部屋に戻るとハナティアは既に起きていて、髪をとかして朝の支度を既に行っていた。
「さっき起きたの。翔平はどこに行ってたの?」
「正志達とお土産を見に行ってたんだよ。お前も行くか?」
「うん、サクヤに買いに行かなきゃ」
「他にも買って行ってあげろよな」
キャロル達が泣くぞ。
「あ、そうだ翔平」
「ん?」
「答えを出すのに急がなくて大丈夫だから。それだとかえって正志君達に迷惑かけちゃうと思うから」
「ああ……うん」
■□■□■□
昼頃に宿を出た俺達は、そのままどこにも寄らないで帰る事になった。本当はもっと観光を楽しみたいところだけど、明日も普通に大学があるのでそれはまた次の機会に。
「何か二日ってあっという間だな」
帰りの電車。朝から元気だった正志と雪音が眠ってしまい、俺とハナティアは暇だったので窓の外の景色を眺めながら話をしていた。
「でも私は楽しかったよ」
「それは俺もそうだけど。こういう風に旅行に行けるのも無くなるかもしれないって考えると、やっぱり寂しい」
「やっぱり二人と別れるのは嫌?」
「嫌だよ。もう三年も一緒だったんだし。でも何でかその別れも受け入れられそうな自分がいるんだよ」
「それは、皆がそれぞれの道を進み出すから?」
「それもある。でもそれ以上に思うことがある」
「思う事?」
「トリナディアでお前と暮らすのも、俺の幸せの一つなのかなって思うんだ」
まだ決めてはいない事だけど、それも俺の幸せのあり方の一つなのかもしれない。いつも何かと不幸ばかりが続いていた俺が見つけた一つの幸せ。それは人生の中で最高なものでもある。
「ハナティアはそれが幸せだと思うか?」
「私もそれは幸せの一つだと思う。だから翔平と結婚したいと思ったんだし、プロポーズもした。子供だって生まれる。これ以上に幸せな事はないもん」
「幸せは人それぞれだから一概には言えないけど、結婚するって事は確かに人生で一番の幸せな事なのかもな」
そんな会話をハナティアとしながら、ようやく東京の渋谷へと到着。そのまま現地解散という事になり、俺達はそれぞれの帰路へとついた。
「じゃあまた明日大学で」
「おう、じゃあな」
「また明日です」
それから駅から歩いて三十分ほどして我が家へと帰宅。荷物を整理した後、ようやく俺とハナティアは座る事ができた。
「あー疲れた。と言ってもまだ夕方にもなってないんだよな」
「昨日は朝早かったし、いいんじゃない? それより翔平」
「ん?」
「私眠くなってきたんだけど」
電車の疲れからか欠伸をするハナティア。釣られて俺も欠伸をしてしまう。そういえば朝から一度も寝てないんだっけ。
「夕飯の時間もまだだし、布団でも敷いて寝るか」
「うん……」
布団を二枚分敷いて俺は自分の布団に入る。しかしハナティアは眠いと言いながら、布団には入ろうとしない。
「寝ないのか?」
「え、あ、寝るけど……」
「俺は先に寝るからな。おやすみ」
「うん、おやすみ……」
目をつぶって、やって来た睡魔に身を任せて俺は眠りにつく。
だが、ハナティアは一人眠らずにずっと起きていた。
最近調子が良くないのは自分でも感じていた。子供を授かった影響もあるのかもしれない。けどそれ以上に私の調子を狂わせていたのは、
『あなたにだけは、幸せになってほしくない』
つい先日から私の耳に聞こえる、この呪いにも似たような声だった。翔平は何度も声を聞いていたと言っていたけど、
(私のこれは……)
柚お姉ちゃんが私を恨んでいるようにしか聞こえなかった。
(やっぱり私の幸せは……)
もしかしたらどこにもないのかもしれない。
(人から奪った幸せなんて……)
そんなの不幸だ。
だけど、
「出産予定日だけえらく現実的なんだな。計画を立てた割には」
「そこは私も普通の女の子だし、子供は親を選べないって言うでしょ?」
「ちょっとそれは違うと思うけど」
出産予定日は来年。だけどハナティアはそれまでの準備として、もっと早くにトリナディアに来て欲しいと言う。それは結婚してほしいという意味でもあり、子作りの為にもっと側にいてほしいという意味でもあるのだと思う。
「ハナティアは……それを望んでいるのか?」
「私は翔平とずっと一緒がいいと思っているの。だからお願い」
「そんなのお願いとかじゃない、プロポーズって言うんだよ」
俺は戸惑っていた。それが決められた未来だったのかもしれないけど、簡単に正志達と別れる何て事はできない。
「具体的にはどれくらいにトリナディアでの暮らしを始めて欲しいんだ?」
「出産予定日の大体半年前くらいがいいの。その間に国王としての仕事も慣れてもらいたいし」
「つまり大学の夏休みが終わるくらいまでか……」
大学の夏休みは九月の末近くまである。その代わり入るのが八月と遅め。出産予定日の半年前なら、やはりその位の時期になるが、それはつまり残されている時間も少ないという事になる。
「あと二ヶ月で二人と別れろって事か?」
「翔平には申し訳ないけど、それが望みだから」
残りの二ヶ月で気持ちを切り替え、新しい生活に身を投じろと言われ、その返事を今すぐに出す事は俺にはできない。
「結婚したら地上に上がっちゃいけないのか?」
「残念だけどそれが決まりでもあるから……」
「そうか……だったら、少しだけ考える時間をくれないか?」
「うん。まだ二ヶ月はあるから、それまでは待ってる」
「ありがとうな」
こんな突拍子もない話、普通なら断ってもおかしくない。だけどハナティアが好きな以上、今の俺にはその決断をする時間が欲しかった。すぐには決められないこの問い。
果たして二ヶ月後に俺は答えを出せるのか、すごく不安になる。
「それじゃあおやすみ翔平」
「ああ、おやすみ」
地上での暮らしをやめる何て事は、俺にはとても重大な選択だ。だから時間がほしかった。
それを受け入れるまでの時間を。
(折角のプロポーズ、台無しにしたかもな俺……)
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
秩父旅行二日目、今日の日程はほぼ帰るだけなので宿での時間を主にお土産探しで堪能する事に。
「あれ、ハナティアちゃんは?」
「まだ寝てる」
「昨日寝るの遅かったのか?」
「少し話をしていたりしていたからな」
朝十時頃に正志と雪音と合流したのだが、ハナティアはまだ寝ていて三人だけでお土産を見る事にする。
(サクヤ達のお土産はこれが買えばいいか)
「翔平君は誰かにお土産買うんですか?」
「一応家族にと、サクヤ達にも買って行くけど雪音は」
「私もそんな感じです」
いつとの調子で雪音と会話をするが、俺はある事に気がついた。
(雪音、目が腫れてる……)
正志から聞いていたが、雪音は昨晩かなり泣いていたらしい。その原因が自分にあるのは分かっていたので、何ともいたたまれない気持ちになる。
「どうかされましたか? 翔平君」
「いや、何でもない」
気にしてはいけない事なのは分かっているが、やはり気になってしまう。でもそうなる覚悟の上で、俺はハナティへの想いを告げた。だから悩む必要なんてないのだ。むしろ悩むべき事なのは……。
(いつ二人にあの話をするか、だよな)
「おーい翔平、この人形ハナティアちゃんにプレゼントしようぜ」
「そんな不気味なものプレゼントできるわけないだろ」
「だったら、私が翔平君にプレゼントしますよ」
「俺がほしいとも言ってないからな」
もし二ヶ月後に俺は、トリナディアでの暮らしを選んだら今のこの時間も終わってしまう。でも正志が言う通りいつかはそれぞれが違う道を歩き出すのも事実だ。
だから別れが来たって……。
『それがあなたの本当の意志?』
「え?」
「ん? どうした翔平、これ買いたくなったのか?」
「だから買わないって。それより……」
何であの声がここでも聞こえるんだ。
「それより何だよ」
「いや、気のせいだと思うから気にしないでくれ。それよりそろそろハナティアを起こしてくる」
「あ、おい」
少し怖くなった俺はその場を去りハナティアを起こしに向かったのだった。
「ハナティア、そろそろ起きろ……って、起きてたのかよ」
部屋に戻るとハナティアは既に起きていて、髪をとかして朝の支度を既に行っていた。
「さっき起きたの。翔平はどこに行ってたの?」
「正志達とお土産を見に行ってたんだよ。お前も行くか?」
「うん、サクヤに買いに行かなきゃ」
「他にも買って行ってあげろよな」
キャロル達が泣くぞ。
「あ、そうだ翔平」
「ん?」
「答えを出すのに急がなくて大丈夫だから。それだとかえって正志君達に迷惑かけちゃうと思うから」
「ああ……うん」
■□■□■□
昼頃に宿を出た俺達は、そのままどこにも寄らないで帰る事になった。本当はもっと観光を楽しみたいところだけど、明日も普通に大学があるのでそれはまた次の機会に。
「何か二日ってあっという間だな」
帰りの電車。朝から元気だった正志と雪音が眠ってしまい、俺とハナティアは暇だったので窓の外の景色を眺めながら話をしていた。
「でも私は楽しかったよ」
「それは俺もそうだけど。こういう風に旅行に行けるのも無くなるかもしれないって考えると、やっぱり寂しい」
「やっぱり二人と別れるのは嫌?」
「嫌だよ。もう三年も一緒だったんだし。でも何でかその別れも受け入れられそうな自分がいるんだよ」
「それは、皆がそれぞれの道を進み出すから?」
「それもある。でもそれ以上に思うことがある」
「思う事?」
「トリナディアでお前と暮らすのも、俺の幸せの一つなのかなって思うんだ」
まだ決めてはいない事だけど、それも俺の幸せのあり方の一つなのかもしれない。いつも何かと不幸ばかりが続いていた俺が見つけた一つの幸せ。それは人生の中で最高なものでもある。
「ハナティアはそれが幸せだと思うか?」
「私もそれは幸せの一つだと思う。だから翔平と結婚したいと思ったんだし、プロポーズもした。子供だって生まれる。これ以上に幸せな事はないもん」
「幸せは人それぞれだから一概には言えないけど、結婚するって事は確かに人生で一番の幸せな事なのかもな」
そんな会話をハナティアとしながら、ようやく東京の渋谷へと到着。そのまま現地解散という事になり、俺達はそれぞれの帰路へとついた。
「じゃあまた明日大学で」
「おう、じゃあな」
「また明日です」
それから駅から歩いて三十分ほどして我が家へと帰宅。荷物を整理した後、ようやく俺とハナティアは座る事ができた。
「あー疲れた。と言ってもまだ夕方にもなってないんだよな」
「昨日は朝早かったし、いいんじゃない? それより翔平」
「ん?」
「私眠くなってきたんだけど」
電車の疲れからか欠伸をするハナティア。釣られて俺も欠伸をしてしまう。そういえば朝から一度も寝てないんだっけ。
「夕飯の時間もまだだし、布団でも敷いて寝るか」
「うん……」
布団を二枚分敷いて俺は自分の布団に入る。しかしハナティアは眠いと言いながら、布団には入ろうとしない。
「寝ないのか?」
「え、あ、寝るけど……」
「俺は先に寝るからな。おやすみ」
「うん、おやすみ……」
目をつぶって、やって来た睡魔に身を任せて俺は眠りにつく。
だが、ハナティアは一人眠らずにずっと起きていた。
最近調子が良くないのは自分でも感じていた。子供を授かった影響もあるのかもしれない。けどそれ以上に私の調子を狂わせていたのは、
『あなたにだけは、幸せになってほしくない』
つい先日から私の耳に聞こえる、この呪いにも似たような声だった。翔平は何度も声を聞いていたと言っていたけど、
(私のこれは……)
柚お姉ちゃんが私を恨んでいるようにしか聞こえなかった。
(やっぱり私の幸せは……)
もしかしたらどこにもないのかもしれない。
(人から奪った幸せなんて……)
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