我が家の床下で築くハーレム王国

りょう

第38話ただ一人に向けられた言葉

 部屋に戻ると、髪を乾かしているハナティアの姿があった。どうやら彼女も二度目の温泉を堪能してきていたらしい。

「あ、おかえり翔平」

「ただいま」

 夜も更け気づけば時間は十二時過ぎ。そろそろ寝る時間だ。

「それぞれがそれぞれの道か……」

「どうしたの急に」

「ちょっとな」

 風呂での正志の言葉を思い出す。確かに俺達の三人の時間は今までのようにとはいかなくなる。それぞれが自分の叶えたい夢へ向けて歩き出し、それぞれが自分だけの道を見つけていく。
 寂しい話かもしれないけど、それが事実であるがゆえに三人で過ごす時間はこれからもっと減っていく。

「高校生の時、俺と正志と雪音はほとんど毎日いっしょだった。しまいには大学も同じところへ通うくらいだった」

「その話は聞いた事ある」

「でも俺達はもうすぐ今までのようにはいかなくなる。今回の告白で、それが決定づけられた」

「それはどういう意味なの? それくらいで三人がバラバラになる必要なんてないでしょ」

 周りから見ればそれくらいの話で、って見られてもおかしくはないかもしれない。でも俺はこれから本格的にトリナディアでの暮らしが始まる。大学も通えるかも分からない。
 その事を恐らく正志は分かっていた。それに雪音だって、元々トリナディアの事を知っているのだから、もしかしたらハナティアの事についても気づいている。
 そんな三人がいつまでも同じようにはいられない。

「本当は俺達それぞれ気づいていたんだよ。同じ大学に通えても、高校生の時と同じようにはいかないって。それが大人になるって事なんだと思う」

「そんなの私……寂しいよ。折角雪音ちゃんとも再会できたのに、また会えなくなるなんて」

「まあ、登下校とかは一緒だし、夏休みもまた四人で出かけるよていもあるから、簡単に別れるなんて事はないから心配するな」

「……うん」

 俺もハナティアも寂しいのは分かっている。でもすぐに別れるわけでもない。だからせめて残されているこの時間を、今は楽しむ事を俺は決意するのであった。

「ねえ翔平」

「ん?」

「私が……翔平達の関係を壊しちゃったのかな」

「馬鹿、そんな訳ないだろ。なんでそんな事言い出すんだよ」

「だって雪音ちゃんも翔平の事ずっと想っていたのに、私が現れたせいで」

「誰もそんな事思っていないからやめろ! ハナティアは何も悪くない!」

「……ごめん、ありがとう」

 予想外の事を口にしたハナティアを思わず起こってしまう。だって彼女は何一つ悪くないのに、どうしてこんな事を言い出すのか俺には分からなかった。

 じゃあ誰が悪いのか。

 そんなの分かる訳もなかった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「こうなる事は私も分かっていました。本当はハナティアちゃんも分かっていたのではないですか?」

 翔平と散歩から帰ってきた後、偶然にも風呂でまた二人きりになった時雪音ちゃんはそう言っていた。
 私は果たして最初から分かっていたのだろうか。
 翔平が私を選んでくれる事を。三人がバラバラになってしまう事を。

(そんなの分かりっこない)

 未来が見える能力があるわけでもないのだから、全てを見通せるなんて事はできない。だから雪音ちゃんにそんな事を言われた時は少しショックだったし、三人がバラバラになる事なんて考えたくもなかった。

「翔平、起きてる?」

 一時を過ぎた頃に私達は就寝の準備をして、そのまま布団の中に入った。その後なかなか眠れない私は、翔平に話しかけてみる事にする。

「どうした?」

「私ねあの事故の後、時々何で自分が生きてしまったのか疑問に思う事があるの」

「何で?」

「それは私が……柚お姉ちゃんを殺したようなものだからなの。私があの日、あんな事を言いださなければこうはならなかったと思う」

「それを責任に思っているのか?」

「うん。事故さえ起きなければ誰も傷つかずに済んだし、翔平が記憶喪失になる事もなかった。もっと言えば臓器移植なんて事も本当はなかった。その全ての原因が私だから、すごく胸が痛いの」

 それは今でも続いている私の中の罪悪感だった。それに加えて三人の関係も壊してしまった。それがとても辛くて、胸が苦しい。

「……俺は覚えてないから何も言えないけど、その命って姉ちゃんがくれたものなんだろ? だったら、生きる価値はあるだろ」

「どうしてそんな事が言えるの」

「誰にだって生きる理由がある。たとえその命が姉ちゃんのものでも、お前はその命を大切にして生きなければならない。その役目こそが、お前の生きる価値であり理由なんだよ」

 翔平が何を言いたいのかすごく伝わっていた。

 今生きている私こそが、柚お姉ちゃんの意志。

 それを彼は言いたいんだと思う。

「でも翔平、一つ忘れている事がない?」

 だけど私が感じている罪悪感にはもう一つの意味があった。

「忘れている事?」

「私達が儀式を行った場所が事故現場だって以前話したと思うけど、それがどういう意味なのか分かる」

「確かに言っていたけど……え? まさか」

「そう。柚お姉ちゃんもあの日同じように儀式を行っていたの。それが何を意味するかは分かるよね」

「……ああ」

 私の中のもう一つの罪悪感、それはその事故で失われた命が一つではない事。まだこの世界に生まれ落ちてもない一つの命が、私の小さなイタズラ心で奪われてしまった。

「それで今度は私が子供を授かって、産もうとしている。これも柚お姉ちゃんから継がれた意志なのかな」

「それは……」

 翔平は何も言わない。いや、何も言えないのかもしれない。でも私もその質問に答えは求めていなかった。それよりも答えがほしい事が一つある。

「ねえ翔平、これから雪音ちゃんや正志君と別れて私と暮らす覚悟が本当にある?」

「あるに決まっているだろ。俺はそれをもう決心したんだから」

「それならよかった。じゃあ一つ私からお願いしていい?」

「お願い?」

「うん」

 子供を授かって、翔平がこれからの事をちゃんと決心してくれて私はすごく嬉しいし、幸せだ。
 だからこそ、翔平にはこの願いを叶えてほしい。

 それは一生に一度しか頼めない願い。

 それを叶えるのは彼の答え次第。

「私の子供が産まれたら、ううん、それよりもっと前に二人とも別れて大学もやめて、ずっとトリナディアの王として私の隣にいて」

 それは彼の人生すらも変える事になる、ただ一つの頼み。一言で表すなら、

「それってつまり、地上での暮らしを一切やめてくれって事か?」

「子供産まれても私達がバラバラで暮らしてたら意味がないでしょ? だから家族になって、ずっとトリナディアで暮らそう、翔平」

 結婚してほしい。

 二十年以上我慢してきた私に、たった一つのプレゼントがほしかった。

 私がこの先も生きていく意味、そして私自身の幸せ。

 それらの思いを全てこの言葉に託した。

 それは姫としてではなく、一人の女の子としてただ一人の運命の人に向けた言葉だった。

「出産はまだ来年の話だけど、私はずっと翔平の近くにいてほしい。だからすぐに大学を辞めてでも、私と一緒に暮らして」

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