我が家の床下で築くハーレム王国
第80話トリナディア大改革計画 国歌編③
その日の夜、いよいよ明日が最終日なだけあって正志と雪音は初日よりも元気だった。
「二人とも早く寝ろよ」
「何だよ翔平、お前は寝ないのか?」
「ちょっと用事があるから、今は寝ないんだよ」
「まさか翔平君、浮気をするつもりですか」
「違うから! と、とにかく先に寝ててくれ」
俺は大部屋を出て隣の部屋へ向かう。正志は人聞きの悪い言い方をするけど、別に俺は浮気するつもりなんてもっとうない。そうでなきゃ沙羅にあんな事を言わない。これもある意味では俺の人生の分岐点とも言えたと思う。
「沙羅、起きてるか?」
ノックして入ろうとするが、俺は一度その手を止めた。部屋の中から音楽が聞こえてきたのだ。その音は今まで聞いてきたどの彼女の音よりも、輝いていて、簡単には邪魔ができない雰囲気を醸し出していた。
(今は邪魔しない方がいいかな)
そっと扉にかけた手を離し、その場で彼女の音を堪能する。かつて天才と呼ばれた彼女は、事故の後もその腕は衰えていなかった。それを証拠に、この音を聞いていた俺は、どこか心が落ち着く感じがして、ずっとこの場所で聞いていたい気持ちにさせられた。
(どこか懐かしいな、この音楽)
国歌だというのに、奏でられているのは懐かしい音。この曲って確か……。
「翔平君、盗み聞きはよくないと思うよ」
扉の先から声がする。どうやら俺が扉の先にいる事に気が付かれてしまったらしい。
「何だよ、邪魔になると思って黙ってたのに」
「別にいいよ。それに翔平君の頼んでいたもの、出来たし」
「できたの?! そんな急がなくてもよかったのに」
基礎となる歌詞とイメージだけは渡してはいたけど、それ以外は一から沙羅が作ったと言って間違いない。それなのに彼女は作り上げてしまったのだ。わずか二日足らずで。
「これ音源。明日忘れちゃうとあれだから、渡しておくね」
「あ、ありがとう」
沙羅からCDが手渡される。俺はそれを受け取ったあと、彼女の部屋にあった小さな椅子に腰掛けて、改めて彼女と話をする事にした。
「なあ沙羅、さっき弾いていた曲って」
「うん、覚えているよね? 中学二年生の時に三人で作ったの」
「勿論覚えているよ。沙羅がメロディを作って、それに俺と美優で歌詞を考えたんだよな」
「それを皆で聞いたりして、それで恥ずかしくなったりして」
「あの頃は楽しかったよな」
「うん……」
蘇っていく思い出達。それら一つ一つはかけがえのないもので、絶対に失われては欲しくない記憶。その思い出の中で俺達が作った世界に一つだけの曲。
「ねえ翔平君」
「ん?」
「私少しでも立てるようになったら、ピアニストとして活動を再開したいと思っているの」
「お前ならきっとできるよ」
「本当に?」
「ああ、それは俺が保証する。お前ならもう一度立ち上がれるさ」
確証はない。だけど俺の中では確信があった。沙羅は今まで沢山の壁にぶつかっては、何度も乗り越えてきた。今回の件だってそうだ。それを間近で見てきたからこそ、俺は確信する。沙羅がもう一度あの場所へ立てる日が来ると。
「私ね二日間曲を作ってて分かったことがあるの。最初は翔平君のためと思って曲を作っていたんだけど、次第にそれすらも忘れて夢中で弾いてた」
鍵盤に触れながら沙羅は語りだす。俺はそれを黙って聞いていた。
「それでわかったの。やっぱり私にはピアノしかないんだって。誰の為でもなく自分のために弾くのが、私がここにいる意味なんだって。だからもう一度私は立ち上がる」
「俺も、いや俺達も応援しているよ」
「ありがとう、嬉しい」
「それに何より美優がお前の事を見ていると思う」
「そう……だよね」
「だから自信を持って前に進んでくれ、沙羅。俺も声は届かないかもしれないけど、ずっと応援しているから」
陰でしか応援できないけど、俺は彼女をこれからもずっと応援し続ける。たとえそれが声の届かない場所だとしても、俺はずっと沙羅の事を応援していく。
「うん、ありがとう翔平君」
こうして国家作りから始まった一連の話は終わりを告げた。最終日は昼までの仕事でいいということで、俺達は最後までしっかりこなして、三日間の住み込みアルバイトを無事終えたのであった。
「ところでさ翔平君」
「ん?」
「結婚式には呼んでくれるの?」
「お前も院長さんみたいな事言うなよ……」
■□■□■□
そして別れの時間。
「それじゃあ院長さん、沙羅、お世話になりました」
「「お世話になりました」」
俺たち三人は一緒に頭をさげる。院長さんも沙羅も笑顔で見送りに来てくれていた。
「また来てくださいね、翔平君。そして後ろのお友達も」
「ぜひまた来ます。何だったら後ろの二人は暇な時にこき使っていいので」
「何だとっ!」
「それは聞き捨てなりませんよ翔平君」
「冗談だから本気にするなよ」
一同に笑いがこみ上げる。次来れる日がいつになるかは分からないけど、またここに顔出せる日が来たらいいなと俺は心の中で思う。
「じゃあ皆さん、お元気で」
「またな沙羅」
「じゃあまた、沙羅さん」
「お世話になりました」
最後に一礼して、俺達は二人に背中を向けて歩き出す。もう振り返ることはない。俺も沙羅もそれぞれの道を歩みだす。次会う時は沙羅がどんな姿になっているか胸を躍らせながら、俺達は孤児院と沙羅としばらくのお別れをしたのであった。
「また来れるといいな。今度はハナティアも連れて」
「その時何人子供がいるんだろうな」
「馬鹿、そういう冗談はやめてくれよ」
「私も楽しみにしていますよ、翔平君の子供」
「雪音まで……勘弁してくれよ二人とも」
「「さっき友達を売った罰ゲームだ(です)」」
「行ってしまいましたね、沙羅」
「うん。でもまた会えると思うから」
「そうですね。翔平君も成長した姿が観れるといいですけど」
「ねえ院長」
「はい?」
「私これから頑張る」
「そうですか。私も協力はしますが、できるだけ孤児院の方の仕事も手伝ってくださいね」
「うん、勿論手伝うよ」
原西沙羅。これから数年後、帰ってきたピアニストとして世界で有名な存在になる事になるが、それはまだ先の話。
「二人とも早く寝ろよ」
「何だよ翔平、お前は寝ないのか?」
「ちょっと用事があるから、今は寝ないんだよ」
「まさか翔平君、浮気をするつもりですか」
「違うから! と、とにかく先に寝ててくれ」
俺は大部屋を出て隣の部屋へ向かう。正志は人聞きの悪い言い方をするけど、別に俺は浮気するつもりなんてもっとうない。そうでなきゃ沙羅にあんな事を言わない。これもある意味では俺の人生の分岐点とも言えたと思う。
「沙羅、起きてるか?」
ノックして入ろうとするが、俺は一度その手を止めた。部屋の中から音楽が聞こえてきたのだ。その音は今まで聞いてきたどの彼女の音よりも、輝いていて、簡単には邪魔ができない雰囲気を醸し出していた。
(今は邪魔しない方がいいかな)
そっと扉にかけた手を離し、その場で彼女の音を堪能する。かつて天才と呼ばれた彼女は、事故の後もその腕は衰えていなかった。それを証拠に、この音を聞いていた俺は、どこか心が落ち着く感じがして、ずっとこの場所で聞いていたい気持ちにさせられた。
(どこか懐かしいな、この音楽)
国歌だというのに、奏でられているのは懐かしい音。この曲って確か……。
「翔平君、盗み聞きはよくないと思うよ」
扉の先から声がする。どうやら俺が扉の先にいる事に気が付かれてしまったらしい。
「何だよ、邪魔になると思って黙ってたのに」
「別にいいよ。それに翔平君の頼んでいたもの、出来たし」
「できたの?! そんな急がなくてもよかったのに」
基礎となる歌詞とイメージだけは渡してはいたけど、それ以外は一から沙羅が作ったと言って間違いない。それなのに彼女は作り上げてしまったのだ。わずか二日足らずで。
「これ音源。明日忘れちゃうとあれだから、渡しておくね」
「あ、ありがとう」
沙羅からCDが手渡される。俺はそれを受け取ったあと、彼女の部屋にあった小さな椅子に腰掛けて、改めて彼女と話をする事にした。
「なあ沙羅、さっき弾いていた曲って」
「うん、覚えているよね? 中学二年生の時に三人で作ったの」
「勿論覚えているよ。沙羅がメロディを作って、それに俺と美優で歌詞を考えたんだよな」
「それを皆で聞いたりして、それで恥ずかしくなったりして」
「あの頃は楽しかったよな」
「うん……」
蘇っていく思い出達。それら一つ一つはかけがえのないもので、絶対に失われては欲しくない記憶。その思い出の中で俺達が作った世界に一つだけの曲。
「ねえ翔平君」
「ん?」
「私少しでも立てるようになったら、ピアニストとして活動を再開したいと思っているの」
「お前ならきっとできるよ」
「本当に?」
「ああ、それは俺が保証する。お前ならもう一度立ち上がれるさ」
確証はない。だけど俺の中では確信があった。沙羅は今まで沢山の壁にぶつかっては、何度も乗り越えてきた。今回の件だってそうだ。それを間近で見てきたからこそ、俺は確信する。沙羅がもう一度あの場所へ立てる日が来ると。
「私ね二日間曲を作ってて分かったことがあるの。最初は翔平君のためと思って曲を作っていたんだけど、次第にそれすらも忘れて夢中で弾いてた」
鍵盤に触れながら沙羅は語りだす。俺はそれを黙って聞いていた。
「それでわかったの。やっぱり私にはピアノしかないんだって。誰の為でもなく自分のために弾くのが、私がここにいる意味なんだって。だからもう一度私は立ち上がる」
「俺も、いや俺達も応援しているよ」
「ありがとう、嬉しい」
「それに何より美優がお前の事を見ていると思う」
「そう……だよね」
「だから自信を持って前に進んでくれ、沙羅。俺も声は届かないかもしれないけど、ずっと応援しているから」
陰でしか応援できないけど、俺は彼女をこれからもずっと応援し続ける。たとえそれが声の届かない場所だとしても、俺はずっと沙羅の事を応援していく。
「うん、ありがとう翔平君」
こうして国家作りから始まった一連の話は終わりを告げた。最終日は昼までの仕事でいいということで、俺達は最後までしっかりこなして、三日間の住み込みアルバイトを無事終えたのであった。
「ところでさ翔平君」
「ん?」
「結婚式には呼んでくれるの?」
「お前も院長さんみたいな事言うなよ……」
■□■□■□
そして別れの時間。
「それじゃあ院長さん、沙羅、お世話になりました」
「「お世話になりました」」
俺たち三人は一緒に頭をさげる。院長さんも沙羅も笑顔で見送りに来てくれていた。
「また来てくださいね、翔平君。そして後ろのお友達も」
「ぜひまた来ます。何だったら後ろの二人は暇な時にこき使っていいので」
「何だとっ!」
「それは聞き捨てなりませんよ翔平君」
「冗談だから本気にするなよ」
一同に笑いがこみ上げる。次来れる日がいつになるかは分からないけど、またここに顔出せる日が来たらいいなと俺は心の中で思う。
「じゃあ皆さん、お元気で」
「またな沙羅」
「じゃあまた、沙羅さん」
「お世話になりました」
最後に一礼して、俺達は二人に背中を向けて歩き出す。もう振り返ることはない。俺も沙羅もそれぞれの道を歩みだす。次会う時は沙羅がどんな姿になっているか胸を躍らせながら、俺達は孤児院と沙羅としばらくのお別れをしたのであった。
「また来れるといいな。今度はハナティアも連れて」
「その時何人子供がいるんだろうな」
「馬鹿、そういう冗談はやめてくれよ」
「私も楽しみにしていますよ、翔平君の子供」
「雪音まで……勘弁してくれよ二人とも」
「「さっき友達を売った罰ゲームだ(です)」」
「行ってしまいましたね、沙羅」
「うん。でもまた会えると思うから」
「そうですね。翔平君も成長した姿が観れるといいですけど」
「ねえ院長」
「はい?」
「私これから頑張る」
「そうですか。私も協力はしますが、できるだけ孤児院の方の仕事も手伝ってくださいね」
「うん、勿論手伝うよ」
原西沙羅。これから数年後、帰ってきたピアニストとして世界で有名な存在になる事になるが、それはまだ先の話。
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