我が家の床下で築くハーレム王国
第76話トリナディア大改革計画 国歌編②
「それにしてもすごいね翔平君。いつの間にこんなに友達ができていたなんて」
「高校生になってから、偶然二人と知り合ってな」
アルバイトの合間、正志と雪音を見ながら沙羅がしみじみと話しかけてくる。そういえば高校に入ってからの話をあまりしていなかったっけ。
「まあ他にも友達ができたんだけど、機会があったら紹介するよ」
「へえ、生意気に友達なんて紹介するんだ私に。いつの間にか立派になっちゃって」
「な、生意気なんて事はないだろ。俺だって知り合いの一人や二人くらい、中学時代にいただろ」
「果たしてそれが、友達と呼べるかは分からないけどね」
「う、うるせえ」
そんな俺と沙羅の会話を聞いていたのか、正志と雪音がニヤニヤしながらこっちを見てくる。
「な、何だよ」
「もう早速浮気現場を発見しましたね奥さん」
「これは離婚の危機ですね奥さん」
「紛らわしい事言うな!」
「離婚? もしかして翔平君、結婚してたの?」
「あ、いや、それは」
間違ってはいないから否定ができない。まだ正式に結婚はしてはいないものの、近い内式を挙げるのは確かだし、でもその事は沙羅には黙っておきたかった。
(せめて沙羅には何も知らないままで居て欲しい)
それが俺の小さな願いだった。
「院長、翔平君結婚するんだって」
「あらまぁ、それはおめでたいわね。お祝いしないと」
「お、お祝いなんてしなくていいですよ」
「それでお相手の方はどういう子なの?」
「この子ですよ」
「か、勝手に見せるなよ」
いつの間にか写メを勝手に撮っていたのか、雪音が携帯の写真を沙羅に見せる。
「へえ、髪型の色が変わっているけどそれ以外はすごく可愛いじゃない」
「ハナティアって言うんです。とある国の姫様なんです」
「ひ、姫なの? 翔平君、まさか姫に手を出すような人間になっていたなんて、私悲しい」
「待て待て、別に俺は手を出した覚えなんてないぞ?! ハナティアは、その、昔からの縁というか……」
「二月には子供も生まれます」
「えぇー!」
「これ以上余計な事言わないでくれ、頼むから」
結局沙羅にはトリナディアの事以外の全てを知られてしまった。俺はそれを否定できないので、もうヤケになって全て話す以外他なかった。
「それで結婚式には呼んでくれるのかしら」
「いや、呼びませんから!」
■□■□■□
そんな雑談を交えながらも、俺達は孤児院のアルバイトをしっかりとこなしていた。ここにいる子達の大半は小学生くらいの年齢の子が多く、沙羅の年齢の子がここにいる事自体が異例らしい。
大体の子は高校を卒業と共にここを離れるらしいが、沙羅は事情が事情なので仕方がない。
「本当は私も独立したいんだけど、多分この足じゃまともに生活はできないと思うの。働くにしても大学に行くにしても、どっちも難しい話だと思うから」
「そっか。だから院長さんに頼んだんだな」
「うん。唯一の身寄りがここくらいだから」
沙羅は語る。この場所がなかったら今の私がいないと。沙羅は中学生の頃はすごく元気な子で、ピアノの才能などもあってか、学校でも人気者だったんだ。
だけど事故をきっかけにすっかり元気をなくしてしまい、音楽の世界からもしばらく離れたままだった。
『翔平君、私もう音楽弾けないのかな』
あの時の絶望に染まった彼女の顔を忘れる事はできない。
『何でこんな目に私達が合わなきゃいけないのよ! 答えてよ翔平君』
あの時俺は彼女を救える言葉がなかった。もし救う言葉が見つかっていたとしても、きっと沙羅は音楽からも離れていたと思う。
(これは誰のせいでもない。悪いのは全部)
あの事故なんだ。
「中学生の時に交通事故、か。辛かったんだろうな彼女」
一日目の仕事終了後、雪音と正志を部屋に集めてその話をした。
「沙羅さんは、もう歩く事はできないのでしょうか?」
「リハビリは続けているらしいけど、回復は芳しくないんだってさ。だから三年経った今でも車椅子生活なんだよ」
「まさかお前にそんな友達がいたなんてな」
「ちょっとした縁があってな。あれでも沙羅はテレビで何度か出ていたくらいの天才ピアニストだったんだよ」
「そういえば聞いた事があるなとは思いましたけど、有名な方だったんですね」
「原西沙羅、俺も確かに聞いた事があるな。もしかして俺達が手伝わされる事になったのって」
「昨日沙羅が曲を作る条件として出してきたんだよ。三日間孤児院で泊まり込みで働く事を。俺もさかなり無理な条件を出したから、断れなくてさ」
今沙羅は隣の部屋で曲を作ってくれているらしいが、聞く限りではうまくいっているようには思えない。彼女もピアノに触れる事が久しぶりだと言っていたけど、二週間で本当に出来上がるのか少し不安になる。
「お前さ沙羅さんには夏休み明けの事話すのか?」
「いや、今の所は」
「黙ってお別れする気なのか? たぶんそれだと本人悲しむぞ」
「それは俺も理解しているんだけどさ。せめて沙羅には何も知らないでいてほしいんだ。そうすればきっと、これ以上辛い思いをする必要なんて無くなる」
「でも黙っているのはどうかと……」
「分かっているよ」
でも知らない方が彼女だって幸せだと俺は思う。
■□■□■□
『黙ってお別れする気なのか? 多分それだと本人悲しむぞ』
音楽を一度止めると、隣の部屋からそんな会話が聞こえてきた。恐らくこの声は翔平君の友達の声。
(黙ってお別れ? どういう事なの?)
ただでさえこの話には不自然な点があった。それでも彼の頼みだから断れなかったけど、翔平君は私に何か隠し事をしているのだろうか。
『でも俺は、沙羅には何も知らないでこのまま生きてほしいんだ。これ以上辛い思いをさせるのは嫌だし、今この場所にいるのが沙羅の幸せだとは思うんだ』
今度は翔平君の声が聞こえる。
(私の幸せ……それは……違うよ翔平君)
私が幸せに感じる瞬間は、今この時なんだよ。
「高校生になってから、偶然二人と知り合ってな」
アルバイトの合間、正志と雪音を見ながら沙羅がしみじみと話しかけてくる。そういえば高校に入ってからの話をあまりしていなかったっけ。
「まあ他にも友達ができたんだけど、機会があったら紹介するよ」
「へえ、生意気に友達なんて紹介するんだ私に。いつの間にか立派になっちゃって」
「な、生意気なんて事はないだろ。俺だって知り合いの一人や二人くらい、中学時代にいただろ」
「果たしてそれが、友達と呼べるかは分からないけどね」
「う、うるせえ」
そんな俺と沙羅の会話を聞いていたのか、正志と雪音がニヤニヤしながらこっちを見てくる。
「な、何だよ」
「もう早速浮気現場を発見しましたね奥さん」
「これは離婚の危機ですね奥さん」
「紛らわしい事言うな!」
「離婚? もしかして翔平君、結婚してたの?」
「あ、いや、それは」
間違ってはいないから否定ができない。まだ正式に結婚はしてはいないものの、近い内式を挙げるのは確かだし、でもその事は沙羅には黙っておきたかった。
(せめて沙羅には何も知らないままで居て欲しい)
それが俺の小さな願いだった。
「院長、翔平君結婚するんだって」
「あらまぁ、それはおめでたいわね。お祝いしないと」
「お、お祝いなんてしなくていいですよ」
「それでお相手の方はどういう子なの?」
「この子ですよ」
「か、勝手に見せるなよ」
いつの間にか写メを勝手に撮っていたのか、雪音が携帯の写真を沙羅に見せる。
「へえ、髪型の色が変わっているけどそれ以外はすごく可愛いじゃない」
「ハナティアって言うんです。とある国の姫様なんです」
「ひ、姫なの? 翔平君、まさか姫に手を出すような人間になっていたなんて、私悲しい」
「待て待て、別に俺は手を出した覚えなんてないぞ?! ハナティアは、その、昔からの縁というか……」
「二月には子供も生まれます」
「えぇー!」
「これ以上余計な事言わないでくれ、頼むから」
結局沙羅にはトリナディアの事以外の全てを知られてしまった。俺はそれを否定できないので、もうヤケになって全て話す以外他なかった。
「それで結婚式には呼んでくれるのかしら」
「いや、呼びませんから!」
■□■□■□
そんな雑談を交えながらも、俺達は孤児院のアルバイトをしっかりとこなしていた。ここにいる子達の大半は小学生くらいの年齢の子が多く、沙羅の年齢の子がここにいる事自体が異例らしい。
大体の子は高校を卒業と共にここを離れるらしいが、沙羅は事情が事情なので仕方がない。
「本当は私も独立したいんだけど、多分この足じゃまともに生活はできないと思うの。働くにしても大学に行くにしても、どっちも難しい話だと思うから」
「そっか。だから院長さんに頼んだんだな」
「うん。唯一の身寄りがここくらいだから」
沙羅は語る。この場所がなかったら今の私がいないと。沙羅は中学生の頃はすごく元気な子で、ピアノの才能などもあってか、学校でも人気者だったんだ。
だけど事故をきっかけにすっかり元気をなくしてしまい、音楽の世界からもしばらく離れたままだった。
『翔平君、私もう音楽弾けないのかな』
あの時の絶望に染まった彼女の顔を忘れる事はできない。
『何でこんな目に私達が合わなきゃいけないのよ! 答えてよ翔平君』
あの時俺は彼女を救える言葉がなかった。もし救う言葉が見つかっていたとしても、きっと沙羅は音楽からも離れていたと思う。
(これは誰のせいでもない。悪いのは全部)
あの事故なんだ。
「中学生の時に交通事故、か。辛かったんだろうな彼女」
一日目の仕事終了後、雪音と正志を部屋に集めてその話をした。
「沙羅さんは、もう歩く事はできないのでしょうか?」
「リハビリは続けているらしいけど、回復は芳しくないんだってさ。だから三年経った今でも車椅子生活なんだよ」
「まさかお前にそんな友達がいたなんてな」
「ちょっとした縁があってな。あれでも沙羅はテレビで何度か出ていたくらいの天才ピアニストだったんだよ」
「そういえば聞いた事があるなとは思いましたけど、有名な方だったんですね」
「原西沙羅、俺も確かに聞いた事があるな。もしかして俺達が手伝わされる事になったのって」
「昨日沙羅が曲を作る条件として出してきたんだよ。三日間孤児院で泊まり込みで働く事を。俺もさかなり無理な条件を出したから、断れなくてさ」
今沙羅は隣の部屋で曲を作ってくれているらしいが、聞く限りではうまくいっているようには思えない。彼女もピアノに触れる事が久しぶりだと言っていたけど、二週間で本当に出来上がるのか少し不安になる。
「お前さ沙羅さんには夏休み明けの事話すのか?」
「いや、今の所は」
「黙ってお別れする気なのか? たぶんそれだと本人悲しむぞ」
「それは俺も理解しているんだけどさ。せめて沙羅には何も知らないでいてほしいんだ。そうすればきっと、これ以上辛い思いをする必要なんて無くなる」
「でも黙っているのはどうかと……」
「分かっているよ」
でも知らない方が彼女だって幸せだと俺は思う。
■□■□■□
『黙ってお別れする気なのか? 多分それだと本人悲しむぞ』
音楽を一度止めると、隣の部屋からそんな会話が聞こえてきた。恐らくこの声は翔平君の友達の声。
(黙ってお別れ? どういう事なの?)
ただでさえこの話には不自然な点があった。それでも彼の頼みだから断れなかったけど、翔平君は私に何か隠し事をしているのだろうか。
『でも俺は、沙羅には何も知らないでこのまま生きてほしいんだ。これ以上辛い思いをさせるのは嫌だし、今この場所にいるのが沙羅の幸せだとは思うんだ』
今度は翔平君の声が聞こえる。
(私の幸せ……それは……違うよ翔平君)
私が幸せに感じる瞬間は、今この時なんだよ。
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