我が家の床下で築くハーレム王国

りょう

第36話温泉トーク 女子編

「ハナティアちゃんは、ずっと翔平君の事が好きなんですか?」

 私と雪音ちゃんしかいない温泉で、彼女が発した最初の言葉がそれだった。突然そんな事言われた私は、少しだけ恥ずかしくなってしまう。

「ず、ずっとって訳じゃないわよ。翔平に他に好きな人がいるなら諦めるし、だからといってそれがこれからの計画に影響するわけでもないし……」

「やっぱり好きなんじゃないですか。昔から変わってないんですね」

「雪音ちゃんには言われたくない……」

 彼女とこうしてゆっくり話すのはいつ振りになるのだろうか。三カ月前に再会してからも、二人きりなんて事はなかったから、かなり久しぶりな気がする。

「もうあれから二十年ですか……。早いですね」

「早いというかなんと言うか、私にとってはあの頃からずっと時間が止まっているのかもしれない」

「まだ……気に病んでいるんですか? 柚姉の事」

「当たり前でしょ。私がああやって言い出さなければ、事故なんて起きなかった。そう思うと今でも悔しくて……」

「それでも柚姉がいなかったら、ハナティアちゃんは今ここにいないじゃないですか。それに誰よりも辛いのは、翔平君なんですよ」

「まあ、そうだけど……」

 私だけが辛いなんて事はないのは分かっている。けれど、一番責任があるのは自分だと感じてしまう時が、何度もある。それが分かったのは、この前の儀式の時だった。

「ねえ雪音ちゃん、これは誰にも言わないでほしいんだけど、私と翔平六月にあの儀式をやったの」

「え? あの儀式を? それってもしかして……」

「うん。私のお腹には新しい命が宿っているの」

「え、え、じゃあ翔平君は……」

「じきにお父さんになる。だからそろそろ、この曖昧な関係は終わりにしないといけない。これから先に進む為に」

 本当は誰にも話さない方がよかったのかもしれない。だけど親友である雪音ちゃんになら、話してもいいと思っていた。彼女なら理解してくれる、そう思っていたから。

「とは言ってもね、やっぱり私怖いのかな。翔平が本心ではどう思っているのか」

「いきなり父になるんですもんね」

「そう。普通だったらありえない話だから」

 それは私の中にある不安だった。翔平と一緒にいて、私が翔平の事が好きでも彼自身が私をどう思っているのか。それが分からなくて、怖かった。

「翔平君なら、きっと大丈夫ですよハナティアちゃん」

「そう、かな」

「大丈夫ですよ! 私が保証します」

「ありがとう、雪音ちゃん」

 二十年。いや、それよりももっと前から続いているこの想い。私はずっと大切にしてきた。たとえ翔平が記憶をなくしていようが、何も変わっていない。計画とかそういうのを一切関係なしで、私は翔平が好きだ。

「何か少しだけ悔しいです……」

「何か言った雪音ちゃん」

「あ、いえ。何でもありません。それよりもうそろそろ夕食の時間ではないでしょうか」

「あ、本当だ。じゃあお風呂出ようか」

「はい」

 もしその想いがいつか叶うなら、私はそれだけで嬉しい。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 昔から私はそうだった。

 ハナティアちゃんや翔平君と柚姉の三人で遊ぶ時は、いつも影みたいな存在で。誰かがこれをやろうと言えば、それについて行くだけ。
 そう、たとえ自分の気持ちを隠してでも、影でい続けた。

 でも不思議とそれだけの毎日でも楽しかった。皆でこの場所にいられる、それだけがたた私の幸せだった。

 あの事故が私達に起きるまでは。

「勝手に来ちゃ駄目って言ったでしょ三人とも。ここは私と彼以外は立ち入りしてはいけない場所なんだから」

「ごめんなさい。でも柚お姉ちゃんがいないといないと寂しくて」

「全く。ハナはいつも我が儘なんだから。翔平も雪ちゃんも危ないから絶対に来ちゃ駄目だから……きゃっ」

 私達はいつもの探検みたいな感覚で、あの場所へと立ち入り、その影響か分からないけど大きな地震を起こしてしまった。

「皆逃げ……」

 かなり大きな揺れに、柚姉は私達を逃がそうとした。だけどその直後に、私達の頭上から天井が崩れてきて……。

「おい雪音、どうした? ボーッとして」

「え、あ、すいません」

 昔の事を思い出している途中で、正志君に声をかけられ現実に帰ってくる。そういえば正志君に、夕飯食べ終わった後にどこかへ二人で出かけないかって誘われていたような。

「珍しいな一人で考え事だなんて」

「そうでもないですよ。それより正志君、今から少し外へ出かけませんか二人で」

「え、あ、それって俺がさっき誘ったはずじゃ」

「だからですよ。折角なので私から言い出してみました」

 嘘だ。本当はそんな気はなかったくせに私。

「何か台無しになったけど、仕方ない。今から行くか雪音」

「はい」

 正志君とは高校の時に出会った。元々翔平君と一緒に絡んでいたところに偶然にも私が入ったのだけれど、まさかここまで長い付き合いになるとは思ってもいなかった。
 でもその三年間で私は彼のある事に気付いていた。

「今日は晴れてよかったですね。すごく星が綺麗です」

「だよな」

 最初の内はほとんど会話をしないで歩く私達。こうして正志君と二人で歩くというのも何か新鮮な気持ちだからなのか、どう話を切り出せばいいのか分からない。
 その沈黙を破ってくれたのは、正志君の方だった。

「なあ雪音、一つ聞いていいか?」

「何ですか」

「お前はさ、その、まだ翔平の事が好きなのか?」

 本当はこんな質問をするのは、彼にとって酷な話なのかもしれないけど、私もその質問に答えを出さなければならない。

「私は……」

「答えてほしいんだ雪音。俺もいつまでもうじうじしていられないんだ」

「私は……まだ……翔平君の事が好きです」

 それがこれからの彼の為でもあるのだから。嘘をついてしまったらかえって彼を傷つけてしまう。だから私は正直な気持ちを答えた。

「やっぱりか……」

「ごめんなさい正志君。私は……」

「いいんだよ雪音。翔平も何かに気づいていると思うから。けど」

「けど?」

「翔平は自分の気持ちにも気づいている」

「翔平君自身の気持ち?」

「あいつ、多分今日ハナティアちゃんに告白すると思う」

「……え?」

 私はこの夜、初めて失恋をする事になった。

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