殺人鬼の3怪人と不思議な少女

鬼怒川 ますず

緊迫とは一体

葉隠と黒田は部屋の外、通路に立っていた。

「どうする、僕が様子見てこようか?」

黒田が心配そうな顔を浮かべながら葉隠に聞いてみるが、葉隠は大丈夫と言って神妙な顔でただ待ち続けた。

彼らが視線を向ける先先にはシャワー室と書かれた案内板が貼ってある。
そこで彼らの仲間である1人の男とさっき保護した少女が入っていた。

保護したというよりも、少女は彼らにとって興味本位のモルモットに過ぎないのだが。

「あの食人鬼の事だから変な事はしないだろう、それよりもあのお嬢ちゃんの事だ」

葉隠は横で同じように立っていた黒田に逆に問いかける。

「あのお嬢ちゃんは何に追われていると思う?」

「何って…政府の人間とか?」

「日本の特殊部隊が無駄な発砲するか普通、しかもこのお嬢ちゃんに向けて銃を撃って、しまいには俺たちも撃ち殺そうとしてきた」

「それって普通じゃない?映画のドンパチもそうでしょ」

「違う…それが不自然なんだよ。子供相手に発砲出来るんならとっくの昔にお嬢ちゃん相手にド派手にやって隠蔽しているはずだろ。」

訝しげに壁を睨みながら推測する葉隠。
そう言われてハッとこの矛盾に気づいた黒田はあの少女の姿を思い出して止まる。

「…あの子、何日も山の中を走ってたんだよね。それなら誰にも見られずにいつでも捕まえられるはず…だよね」

そう口走ると葉隠はコクリと頷いて答える。

奇妙な事だ。
無防備な少女を、武器を持ち訓練経験もあるであろう大人数十人の部隊が何日間も捕まえられないわけがない。
むしろ、部外者がいない山奥は彼らにとっては絶好の場所ホームグラウンドだ。

それなのに少女は銃痕の一つも無しに国道近くまで下り、建物にも入って部外者と接触している。

何か突っかかる部分があった。
不可解すぎる。
あまりにも過程が謎すぎる。

「あのお嬢ちゃん、普通じゃねーよな……俺たちみたいななにかを隠してるはずだ」

「何かって…よく漫画で見る特別な力とか?」

「考えられないが…建物を包囲してわざわざ発砲するくらいだ、相手も相当怯えてるんじゃねーかありゃ」

黒田の言った特別な力に未だに違和感がある葉隠だが、ふとシャワー室とは反対側の通路、入口の方から何やら人がやって来るのを感じた。
この時間帯なので利用者は少なくない数はいるが、今の時間に来るのは少し珍しい。

「僕たちが入った直後に入店って…深く考えれば追っ手かな」

同じく気配を感じた黒田は裾から注射針を一本取り出すと少し腰を低めにして身構える。
その様子を見て葉隠はいつも通り、何気なく右手をズボンの中に入れて護身用の包丁を手に取る。

「気をつけろよ…痛いのと俺たちの正体を知られるのだけは嫌だからな」

「安寧の生活の危機か、あの子もあのバカもとんだ疫病神かもね」

注意しながら喋っている間にもこちらに来る気配に気を許せない2人。
ジリジリ。
ただのネット喫茶で緊迫の空気を作る2人。

だがそれに相反してゆっくりと通路から顔を出してきたのは金髪の外国の女性だった。
女性はカードらしきものを持ち、それを睨みながら顔を青ざめながらこちらに進んで来る。

「…こ、こちらシュガー、目標を確保してすぐに戻ります……えぇ、戻ったらこのカードと会員データの削除…お願いしますね…はい」



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