殺人鬼の3怪人と不思議な少女

鬼怒川 ますず

うっかり

会員証。
住んでいたアメリカでは馴染み深いはずのそれに、今この場で言われてしまい戸惑ってしまう。

ふとインカム越しから声が聞こえた。
私は耳を澄ましながらそれを聞いてみる。

『ネット喫茶って会員証とか必要だったんだな』

『知らなかったわ…』

『ヤベェ、用意してねーわ』

『おいてメェら何でそんな事もしらねぇんだよ!!常識だろうが!』

『だってスペースレンジャーさん、俺たちそういった娯楽施設とは無縁でしたもん。油断しましたよ』

『油断云々の前に日本にいる癖に知らないとか舐めてんのか!?』

『使った事ないですよ』

『クソッ!』

と通信先の彼らのつぶやきが聞こえた。

おい何やってんだお前ら。
日本人なら最初から教えろよ。

と心の中でツッコミを入れている間にも店員が私に紙とペンを渡す。

「すぃませーん、このカードと用紙に住所とお名前書いていただけますか? 他の事項は何でもいいっスから」

「あぁ、分かりました…」

私はペンを受け取ると用紙と睨み合う。

名前。
現住所。
電話番号。

記入事項はそれだけだ。

何だ難しくないものばかりだ。
私はホッとしながらペン先を紙に向けた。

スラスラ。

私は胸を撫で下ろしながらフーッと深く息を吐く。
まさか筆記だけでここまで疲れるとは思っても見なかったからだ。

ついでにカードにも名前を書いておく。

記入事項を書き終わってから私は店員に用紙を渡す。

「これで」

「うぅーす、少々お待ちくださいね〜」

店員がカウンターの向こう側に置いてあったパソコンに私が書いたものを書き込んでいく。
私はそれを待ちながら店員に気付かれないように小声でインカムに答える。

「…会員証の登録が終わりました」

『うむ、ご苦労。すまないなウチの馬鹿どもが会員証を用意させてなくて、少し驚いただろう」

「い、いえ…私も緊張していたせいか頭が錯乱してましたよ…」

『対象を確保次第この日本での任務は終わる。君たちも昇進するだろう。それまでの辛抱だ』

スペースレンジャーの言葉に私はこくんと頷き、そのタイミングで店員が私の方に顔を向けたので一旦通信を終える。

「はーい、会員証の登録終わりましたのでお時間の方をお願いします」

「3時間で」

「うーす、それでは4時から7時までですね〜。ドリンクコーナーや漫画の置き場について説明入りますか?」

「結構」

私は首を振ってそれらのサービスを断ると、すぐさま店員にお金を渡して決済を済ませ部屋の番号を聞く。
急いで終わらせようとして部屋に向かうフリをして対象と例の部外者3名を探そうとする。

「お客さーん、会員証忘れてますよー」

あぁそうだった。
私は任務のせいでお釣りと会員カードを受け取り忘れていた。

「sorry!」

母国語で答えながらカードとお釣を受け取る。
ふとカードに記入された名前を見た。
それにはさっき私が書いた名前が書かれていた。

死んだはずの私の本名が。

「……あれ?」


私はとんでもない失態をしてしまった。
おそらく…とんでもなくまずい事を…。

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