(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~

巫夏希

トリック・オア・トリート? 後編

 それにしても、かぼちゃのクッキーか。
 うん。とっても甘くて美味しい。しかもその甘さというのは自然な甘さだというのがなおいい。

「昔、チョコチップクッキーをあなたにご馳走したのを覚えているかしら?」

 メリューさんは俺の前に立って、そう言った。
 確かに少し昔の話になるけれど、そんなこともあった。そのときは未だ店員が俺とメリューさんとティアさんしかいなくて、とてもあわただしい毎日だったのを覚えている。
 そんな時に、メリューさんが急に店を閉めた。
 その時に俺に手渡されたもの――それがチョコチップクッキーだった。

「……ええ、覚えていますよ。あの味、今も忘れられません」
「そうか」

 メリューさんは一拍置いて、俺の言葉に頷いた。

「……まあ、色々とあった。ケイタにも迷惑をかけた。……だが、今は続けられてとても嬉しいよ。色々と楽しいことが増えたからな」
「そう言ってもらえて嬉しいですよ。あの時俺も引き留めた甲斐があったってものです」
「たしかに……な」

 メリューさんは何か思い出したかのように、俺に問いかける。

「そうだ、ケイタ。……私にコーヒーを淹れてくれないか? たまにはお前の淹れたコーヒーが飲みたくてね。いいだろう、別に悪い話じゃない」
「コーヒーですか? だって、ミルクティーがあるんじゃ……」
「空気を読め、ケイタ」

 そう言ったのはいつの間にかメリューさんの隣に立っていたティアさんだった。相変わらずハードカバーの本を読んでいる。

「ティア、いつの間に……!」

 どうやらメリューさんが呼んだわけではないようだ。
 となるとティアさんが勝手にやってきた、ということか。何というか、性格が悪い。

「私のことはどうだっていい。……ケイタ、あなたはこの状況でコーヒーを淹れない、ということ? だとすればそれはあなた、メリューに対する冒涜と言っても過言ではない。いえ、冒涜よ。はっきり言ってしまったほうがいい。それは少し前に学んだことだからね」
「……、」

 二対一。
 はっきり言ってこの状況で口論をするつもりはない。何故なら、負けてしまうのは目に見えているからだ。
 そう思って俺は、コーヒーを淹れるべく――正確に言えばその前に制服に着替えるべく――カウンターの裏へと向かうのだった。



 結局そのあと、メリューさんにコーヒーを注ぐのがサクラたちに見つかってしまい、全員にコーヒーを淹れることになるのだが、それはまた別の話。

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