(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~

巫夏希

羊使いとプリンアラモード・5

「ほんとうに、この味は飽きが来ない。素晴らしいものだよ。昔はあまり出歩こうとは思わなかったが、このお陰で麓に降りるようになったからな。ボルケイノに行くには麓まで降りねばならないから、そこだけが非常に面倒な話ではあるがね」

 そう言ってヒリュウさんはまた一口プリンを食べるのだった。その笑顔はまさに子供そのものだった。
 聞くところによるとこの地方での甘味はあまり無く、プリン自体が物珍しいものだということだった。言われてみれば、甘味として売られているのはよく分からないクッキーのようなものだけだったし、軟らかい食感の甘味自体が珍しいのだろう。

「……ふう、美味しかった。やはり、これを食べないと何か上手くいかない感じがするのう」

 そう言ってヒリュウさんは器を机に置いた。
 器を見るととても綺麗だった。綺麗、とはいっても流石に食べた跡は少し残っているけれど、それでも綺麗といえるくらい残さずに置かれていた。まあ、プリンアラモードが大好きなヒリュウさんがそれを残すとは到底思えないし、当然のことかもしれないけれど。
 そのあとはキッチンを借りて容器とスプーンを洗った。もちろん洗ったのは俺だ。ヒリュウさんが「申し訳ない」と言って洗おうとしたが、ヒリュウさんはあくまでもお客さん。そんなことをしてもらっては、お客さんではなくなってしまう。きっとそれはメリューさんも思っているだろう。だから、俺はその受け入れをやんわりと断った。
 そうしてそのあとももう一杯コーヒーをいただいて、たくさんの羊のミルクと肉をいただいて、俺たちはヒリュウさんの家を後にするのだった。


 ◇◇◇


 後日談。
 というよりただのエピローグ。
 この話を聞いていて、違和感を抱いていたかもしれないけれど、ヒリュウさんから頂く羊肉とミルクは何も今回が初めてというわけではない。時たまヒリュウさんが大量に持ってくる、ということだ。だからヒリュウさんに提供する料理は普段より安めに設定してある。それに、ヒリュウさんの羊肉とミルクはとても臭みが少ない。だから、抵抗がある人でも食べたり飲んだりすることが出来る。おかげでメリューさんの料理の幅が広がる、ということだ。

「それにしても、ヒリュウさんのミルクはほんとうに美味しいのよね……。おかげでプリンアラモードの材料には困らないし」

 あれってヒリュウさんの羊から作られていたのか。てっきり、普通に牛乳から作られていたと思ったけれど。
 それを聞いたメリューさんは目を丸くする。

「牛乳は高いから、安いミルクを使うしか無い。けれど、どうしてクセが強いものばかりになってしまう。それだけは大変だったのだけれど……、そのタイミングでヒリュウさんから羊のミルクを貰った、ということ。もう、奇跡にも偶然にも近いことよ。本当に有り難いことだと思わなくちゃ」

 ボルケイノの事情はまだ深いことがたくさんある。そう思って俺はコーヒー牛乳を飲み干した。

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