(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~

巫夏希

こころとからだの栄養補給・転

「串カツ、か。うん、いいチョイスをしているね。ちょうど食べたいと思っていたところだ」

 そう言って小皿にソースを注いで、適当に一本選んだ男はそれをソースに漬けた。軽くじゅう、という音が聞こえたような気がする。まあ、衣の揚がっているいい香りがしているところをみると、大方作り立てなのだろう。揚げたてのコロッケにソースを漬けるとそういう音が鳴るともいうし。
 男はそれを口にする。それを口にしたまま、串カツをビールで流し込む。
 その様子は酒をまだ飲めない俺が見てもとても幸せそうにみえた。

「やっぱ揚げ物は揚げたてに限るね。さすがだよ、あの女性が作ったのかい?」
「そうですね。このお店の料理はすべてあのひと……メリューさんが作っています」

 ふうん、と頷いて再びビールを一口。

「あ、ウーロンハイをもらってもいいかな?」
「ウーロンハイ、ですね。かしこまりました」

 俺はそう言って、裏方――厨房に注文を伝える。
 ウーロンハイが登場するまでそう時間はかからなかった。やはり時間はかからないものなのだ。だって焼酎にウーロン茶を混ぜたものだからな。飲みやすいし。あと、脂っこい料理にも似合うらしい。実際に飲んだことがないから、あくまでもいろんな人から教えてもらったり自分で調べたりしたことで得た知識でしかないけれど。
 串カツをあっという間に平らげてしまい、ウーロンハイもちょうどいい感じに減ってきている。
 それを見計らったのかどうかは定かではないが、メリューさんは三品目、卵焼きを持ってきた。卵焼きにはネギが入っており、これがアクセントになっているのだ。たまに昼のとき作ってくれるのだが、これがまた美味しい。

「卵焼きか。いいねえ、ちょうど口の中が脂っこい感じになっているわけだし、ベストなチョイスだな」

 そう言って卵焼きを箸で掴んで口の中に放り込む。
 そしてウーロンハイで卵焼きを流し込んでいく。
 それが一つのルーチンワークになっているようにも見える、そんな感じだった。



 締めの料理はラーメンだった。

「……ラーメンか。しかも中華そば風。昔懐かしい感じがするな。まさかこんなレトロな喫茶店でこんな感じのラーメンが食べられるとは思いもしなかった。いや、そもそも喫茶店で酒が出ること自体が普通じゃないか……」

 ごもっともな言葉だった。
 たぶん俺の世界でも酒を提供する喫茶店はそう多くないだろう。そこはきっと喫茶店の皮をかぶったスナックかバーに違いない。あくまでも俺の勝手な推測だけれど。
 ラーメンにはメンマ、チャーシュー、ノリにネギとコーンが乗っている。まさに中華そばのテンプレートといってもおかしくない。しかしながらメリューさんのこだわりが生きている商品の一つともいえるそれは、メリューさんの気まぐれで出来る料理であるとはいえ、自信作の一つでもあった。だったらメニューとして定常提供すればいいのだろうが、メリューさんの気まぐれな性格と、お客さんの食べたいものを提供するスタイルがあるためか、それが出来ないのだった。

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