(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~

巫夏希

旅する魔女・前編

 魔女が倒れていた。
 ……いや、正確に言えばそれを見つけたのは僕じゃなくてメリューさんなのだけれど。
 メリューさん曰く、

「今日も開店だと思って扉を開けたんだよ。するとどこかともうとっくに繋がっていたみたいでね、ある世界の路地裏と繋がっていたんだよ。そしてその前にぶっ倒れていた。放っておくわけにはいかないでしょう?」

 そうかもしれないけれど。
 見たことの無い人……人でいいんだよな? を招き入れるのはどうかと思うのだけれど。メリューさんはお人よしだから仕方ないかもしれないとはいえ、ちょっとやりすぎじゃないかなあ。

「どうした、ケイタ。もしかして気になっているのか? 安心しろ、どうやらただの魔女のようだ」

 ただの魔女ってなんだよ!
 そう心の中でツッコミを入れたけれど、そんなツッコミを入れたらきっと負けなのだろう。
 閑話休題。一先ず魔女の素性を調べることとしよう。どうせメリューさんは調べることなんてしないだろうし。くそっ、今日に限ってどうしてサクラはお休みなのか? お休みじゃなければ一緒に調査をお願いしたかったのだが……。
 魔女は今カウンターでチャーハンを食べている。とんがり帽子に黒いフード、シルバーブロンドの髪をしている。そして食べている姿はとても可憐で、荒野に咲いている一輪の花みたいな……それは言い過ぎかな。

「ねえ、君。どうして倒れていたのかな?」

 俺はなるべく警戒されないように、丁寧に訊ねた。
 俺の言葉を聞いて上を向く魔女。頬にご飯粒をつけたまま、口に入れたご飯を呑み込むと、

「実は私は旅をしていまして!」
「旅、ですか」

 魔女って旅をするものなのか?
 まあ、でも魔女ってなんか忌まわしき存在みたいなイメージあるしな。もしかしたらそういうイメージを地で行く場所なのかもしれない。

「でも、何で野垂れ死にみたいなことに?」
「失礼な! まだ死んでいませんよ! ……おっと、取り乱しまいた」
「噛んだ!?」
「失礼、噛みました」

 なんかどっかで聞いたことのあるようなやり取りだけれど、華麗にスルー。

「魔女は一人前になるために、広い世界を見る……それはお師匠様から言われていたことでした。ですから私もそれに倣って旅をしているのですが……その……」

 急に魔女の声が小さくなる。
 ん? 何か俺、変なこと言ったかな。
 そんなことを思ったけれど、すぐに魔女のほうから回答が来た。

「実はそんなにお金を持っていなくて……。私が倒れていたのも、路銀を持ち歩かなかったために、満足な食事が出来なかったことが原因でして……」

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