転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~
第五十三話 晩餐
扉を開けて入ってきたのは、カインの母であるサラにそっくりな女性だった。
良く見ると、似ているが別人であり、サラよりも少しだけ年下に見える。
「すいません。間違えました。母に良く似ていたもので……」
カインは恐縮し、二人に頭を下げる。
視線をサントスに戻すと、サントスは真面目な顔をし、カインを見つめている。
「カイン、お主の母の名前を聞いてもいいか?」
真剣な眼差しを向けてくるサントスに、カインは唾を飲み込む。
「はい、母はサラと言います」
カインの答えに、サントスと部屋に入ってきた女性は目を大きく見開いた。
「まずはこっちに座れ、二人を紹介する。それにしてもサラの子じゃったか……。どうりで親近感が沸くわけじゃわい」
カインはサントスの言うことが良く分からなかったが、サントスの隣に座った女性と女の子に向かって挨拶をした。
「カインです。家名は冒険者をしておりますので、伏せております。サントス様とは道中知り合うことになり、同行させていただきました」
カインは丁寧に頭を下げ、自己紹介をする。
「私は、ララ・フォン・ゲレッタよ。この子はリーラと言うわ。リーラ、ご挨拶しなさい」
ララの言葉に、リーラは一度立ち上がり、スカートの裾を摘んで軽く腰を下げる。
「リーラです。カイン様よろしくお願いいたします」
丁寧な挨拶の後に、リーラはララの隣に座り直した。
「それにしても、母の事を知っているのですか?」
カインの言葉に、サントスは眉間にシワを寄せながらも頷く。
「サラはな……、ワシの子じゃ。ララの姉でもある」
サントスの言葉にカインは驚いた。
「えっ!? 母からは冒険者をしている時に父と知り合ったと……」
カインの言葉に、サントスは話し始めた。
「あの子はな……ゲレッタ家が女人家系なのは先ほど話しただろう? それで婿をとってサラと結婚させようと思ったら、嫌がって家を飛び出してのぉ。それ以来じゃ……。もう飛び出して十五年以上は経つかのぉ。まさかお主のような子がおるとは……サラは元気か? その年で冒険者をしているということは、もしかして既にサラは……」
サントスが目に涙を浮かべている。隣のララもそうだ。リーラは話の内容がわからないので首を傾げている。
「いえいえいえ、母は元気にしております。今は王都の屋敷にいると思います」
カインは二人が勘違いをしていると思い、焦って誤解を解いた。
そして、冒険者としてではなく、素性を明かし、一貴族として話すことにした。
一息ついてからカインは話し始める。
「正直に言います。僕の名前はカイン・フォン・シルフォード・ドリントル。今は子爵を拝命し、ドリントルの街を治めております。父は、ガルム・フォン・シルフォード・グラシア。グラシア辺境伯になります。母のサラはそこに第二夫人としております」
カインは子爵の証をテーブルの上に置いた。
カインの言葉にサントスは驚きを隠せなかった。
「ま、ま、まさか、あのシルフォード子爵かっ! 五歳にして王女殿下とシルク様をお救いになり、叙爵され、王都の学園の試験では試験場を破壊し、学力でも主席となった、あのシルフォード子爵がサラの息子なのか……。エリック卿から話はいつも聞いておる! エリック卿は領地まで戻る時は必ずこの街を通るからな」
カインは自分の過去が、そこまで知れ渡っているとは思っていなかった。しかも恥ずかしい過去を説明されることになるとは思ってもなかった。
(たしかに言っていることは正解だけど、面と向かって言われると恥ずかしい)
「はぁ……。まぁそんなところです……」
カインは照れくさそうに頬を掻いた。
「それにしてもサラがシルフォード辺境伯に嫁いでいたとは……。貴族は嫌だといいながら、貴族の家に嫁いだか。あの子は小さい頃から行動的だったからのぉ。そうかそうか……。さすがに従兄妹とあっては婿にもらう訳にもいかぬしな。リーラ、カイン殿はお前の従兄になるのだぞ」
サントスの言葉は理解できたのか、リーラは頷く。
「カイン様はお兄様なのですね」
カインは自分が末っ子だったこともあり、「兄」と初めて呼ばれたことに、つい頬を緩ませる。
「サラのことを話して貰えるかな……」
カインが緩んだ顔をしているところに、サントスから声が掛かる。
その言葉で、カインは現実に引き戻された。
「詳しいことは知りません。ただ、母に聞いたことでしたら話せます」
カインは小さい頃に聞いたことを話し始める。
小さい頃にカインはサラにガルムとの出会いを聞いたことがあった。もちろんガルムにも聞いていた。
その頃のカインは前世の記憶が戻ったばかりであり、色々と情報を集めるために、ガルムやサラ、シルビアに色々と聞いていた頃だ。
◇◇◇
「母上、母上はどうして父上と結婚したのですか?」
カインはベッドで横になり、絵本を読んでくれるサラに聞いた。
「私はね、元々は冒険者だったのよ。一応Cランクまで上がったんだから。依頼でね、その時パーティーを組んでいた冒険者たちと、魔物の森で狩りをしている時にガルムと会ったのよ。ガルムは訓練のためと言って、少人数で狩りをしていたらしいのだけど、負傷したメンバーを背負いながら森から撤退しているときに会ったのよ。私も回復魔法が使えたから、その場でガルムの仲間を回復させてあげたの。それからの付き合いね。そして求婚されて結婚したのよ」
サラは頭の中で昔の話を思い浮かべながら話し始める。
「母上は平民だったのに、貴族と結婚できたのですか?」
「――うん。騎士の格好をしていたけど、私も貴族だなんて知らなかったしね。第一夫人は駄目だけど、第二夫人だったらって許可が出たのよ。ガルムが「絶対に君を嫁にもらう」と言って家に掛け合ったみたい。あの頃のガルムは結構積極的だったのよ。って、カインに話してもわからないわよね」
サラは思い出して顔を赤くした。
ガルムも同じようなことをカインに言っていた。無茶をして森の奥深くまで行ったことが失敗だったと。そしてけが人を抱えて撤退している最中にサラ達に助けられたと。冒険者のはずが、凛とした気品があったことに惹かれて求婚したと。最初は紹介したときに両親からも反対されたが、サラの冒険者とは思えない気品ある佇まいを見て結婚を認めてくれたのだと、ガルムは胸を張って教えてくれた。
「――そんな感じみたいです」
カインの説明を、サントスは涙ぐみながら聞いている。ララも、ハンカチを目元にあてて涙を拭いている。
「――そうか、シルフォード卿ありがとう。王都のパーティーでは何もなければ正妻が同伴することになる。だから今まで会うことがなかったのか……」
「いえ、私の祖父にあたるのですから、カインと呼んでください。母はあまりパーティーには出ておりませんでしたからね……」
カインは軽く頭を下げて言った。
「――すまぬ。それにしても、まさか今日は孫に助けられるとはな……。今夜は是非にでも泊まっていってくれ。カイン卿さえよければ、いつまで滞在しても構わんぞ」
サントスは笑顔でカインに話すが、さすがに領主として受けるわけにはいかなかった。
「お心遣いありがとうございます。お言葉に甘えて今日はお世話になりますが、明日、マルビーク領まで行った後、すぐに王都に戻らなくてはなりません。今日皆さんに御会いしたことは母にお伝えします。もちろん父にも」
「うむ……。では、今夜、サラとガルム卿宛の手紙を書くので届けて貰えるかな」
サントスの問いにカインは快く頷いた。
「もちろんです。王都に来たときは是非、母とも会ってください。今は姉と一緒に王都の邸宅におりますので」
「その時は頼んだ。ありがとう、本当にカイン卿に助けられてよかったよ」
「こちらこそ、父方の祖父母はもう他界しておりますので、祖父がいるとは思ってもおりませんでした。これからもよろしくお願いいたします」
その後も、雑談を続けていたところに、食事の準備が出来たとメイドが呼びに来た。
「では、食事にしよう。この街は近くに山々があり、山菜が美味しいのだ」
サントスの言葉にカインは喉を鳴らす。
そして案内されたダイニングに着き、帰ってきた義息子を紹介され一緒に食事をした。
テーブルには、切り分けられたステーキや、山菜を炒めたもの。他にも色々と綺麗に盛り付けられていた。
「今日は、新しく孫と会えた事を感謝する。乾杯」
カインは少しずつ取り分け食べていく。
「――美味しい」
山菜の甘みと、塩がいい塩梅となっており、旨みを引き出していた。
カインの言葉を聞いて、サントスも笑顔で頷く。
「エリック卿も、シルク嬢もこの街の山菜が好きでな、領地の行き来の際は必ず寄ってくれるのだ」
「シルクも好きなのですね」
カインはシルクが山菜を勢いよく食べているところを頭に思い浮かべる。
「「シルク」か……。先ほど言っておったカイン卿の婚約者とはエリック卿の次女のシルク嬢かな?」
サントスが満面の笑みを浮かべながら聞いてくる。
「えっ、それは……」
カインは額に汗を流し、動揺するようにハンカチで顔を拭いた。
「まぁ良い。まだ公表されておらんということは、訳ありじゃろ。その時がくるのを待つぞ」
「そう言って貰えると助かります」
カインはサントスの気遣いに頭を軽く下げた。
「よし! 今日はめでたい日だ。飲むぞっ! カイン、お前も飲め!」
サントスは勢いよくグラスを空けた。
「お父様……カイン様はまだ子供ですよ?」
ララからの鋭いつっこみを受けながらも、サントスは笑顔で酒を空け続けた。
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コメント
ノベルバユーザー304999
ペンギン
まあ.....貴族だから(油汗)
べりあすた
まさかのおじいちゃん
I♡ジョゼ(*^^*)
ほっ(^-^;
てっきり最近はやりの不倫かと…
ペンギン
結構バレてません...?
大丈夫なのでしょうか?広まらなければいいのですが...