転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~
第十四話 異世界ファビニール修行記2(12/9 修正)
「私はドランだ。ユウヤの古くからの友人だ。そして君に修行をつけるように呼ばれてきた」
四年の修行という名の魔物退治を終えてやっと師匠の家についたら、新しい師匠が出てきた。
ドランの見た目は二メートル位の身長があり、鍛え上げられた身体が服の上からでもわかる。
髪は銀色で、オールバックにしており、鋭い目つきでカインを見ていた。
「そうだ。カイン、このドランから剣技や体術を教わるといい」
ユウヤはドランの横に立ち、カインにそう告げる。
「師匠、わかりました。ドランさんよろしくお願いします」
カインはドランに頭を下げた。
「うむ、ここでやったら家が壊れてしまうからな、私の家の近くでやろう。転移するぞ」
「わかりました。ハクおいで!」
寄ってきたハクを一度送還した。
そしてドランがカインの肩に手を置き、魔法を唱えた。
「よし、いくぞ『転移』」
その瞬間にドランとカインは消え去った。
二人が転移したのを見届け、ユウヤは家の裏に向かう。
そこには、花が一面に咲き誇り、その中央には墓石が三つ並んでいた。
「聖也、恵。和也もこっちの世界に来ちまったが、立派になっていたぞ。あれなら俺たちができなかった事ができるかもしれない」
ユウヤは墓に手を合わせ拝んだあと、家に戻っていった。
◇◇◇
ドランとカインの二人は何もない草原についた。
「ここで修行をする。ここなら辺り一面何もないからな」
「まずは体術からやるか。好きなようにかかってこい」
カインは召喚でハクを呼び出し、好きなように遊んでこいと言った。
ハクは喜んで草原を駆け抜けていく。
「これで大丈夫です。いきます」
カインは魔物を倒してレベルが上がったことにより、大幅なステータスがあった。
目にも止まらぬスピードでドランに駆け寄る。
右手で殴り付けようと思った途端、いつの間にかカインは空を見上げていた。
「あれ?」
カインは起き上がり、なぜ倒れているのかがわからなかった。それだけ一瞬の出来事だった。
「カインくん。まだまだ遅いよ。どんどんこい」
また駆け寄り、今度はフェイントを混ぜながらボディに入れようとしたが、まるで当たる気配がない。ひたすらカインは攻め続け、修行は日が沈むまで続き、カインは疲れ果てて草原で大の字になって倒れていた。
「もうダメだ……動けない……」
「今日はここまでにしようか。少しの間これを繰り返す。そしたら次は武器を持ってやるぞ」
「……はい……ありがとうございました……」
遊び疲れて戻ってきたハクは、倒れているカインを心配そうに覗き込んでいる。
カインはハクを送還したあと、そのまま意識を失った。
意識を失ったカインをドランは肩に担ぎ、ドランの家に転移した。
「帰ったぞー。こいつの世話頼む」
ドランは肩に担いでいたカインを、そのままソファーに転がした。
「おかえりなさい。あなた。あら、かなりボロボロになるまでやったのね……」
着ていた服は草や土で汚れ、転がされたことによってボロボロになり、力尽きて意識を失っているカインを見て、ドランの妻は、夫に対して「ほどほどにね」と呆れた笑みを向けた。
「まぁ最初だし、こんなもんだろ」
その後、ドランに部屋まで運ばれ転がされたカインは、疲れでそのまま朝まで起きることはなかった。
日の光が部屋に差し込む。その明るさでカインは目覚めた。
「知らない天井だ」
いつか言ったセリフを口にしながら、起き上がり周りを見渡すと、六畳くらいの部屋にベッドが置いてあり、そこで寝ていた。
「ドラン師匠と訓練してて、そのまま意識が飛んだんだったな」
カインは身支度を整え部屋を出た。
リビングに行くと、ドラン師匠と女性の二人がいた。そしてソファの上には、白銀色の小さなドラゴンが寝ていた。
「おはようございます」
カインは二人に頭を下げて挨拶をした。
「おはよう。良く眠れたかな?」
声をかけてくれたのは女性だった。
「あ、まだ挨拶してなかったわね。ドランの妻のルリよ。よろしくね」
ルリは身長はカインと同じくらいあり、ドランさんと同じ銀色の髪を腰まで伸ばした、二十代に見える美人だった。
「初めまして、カイン・フォン・シルフォードです。カインって呼んでください」
カインはルリに頭を軽く下げて挨拶した。
「もうご飯できてるから食べなさい」
「ありがとうございます」
カインはルリに言われるがまま、椅子に座る。
出された料理はとても美味しかった。久しぶりにまともな料理を食べた気がする。
ずっと討伐した魔物を捌いて食べてただけのカインにとってはありがたいものだった。
思わず目から涙が流れる。
「あら。カインくん大丈夫?」
ルリが優しく聞いてくる。
「大丈夫です。四年間森の中でサバイバルをしていたので、久々に美味しい食事ができたのが嬉しかったんです」
「あら、そうだったの。これから修行の間は、うちで過ごすことになるから、毎日食べられるわよ」
ルリは美味しいと聞けたことで微笑んだ。
「ありがとうございます」
料理に関してはとてもうれしかった。食事をしていると、ソファーで寝ていた白銀のドラゴンが、こちらに寄ってきて首を傾げる。まだ一メートルくらいの子供のドラゴンだ。
「キュイ?」
見たことない人がいたから興味を持ったのだろう。
「カインだよ。よろしくね」
そう言って、ドラゴンの頭を撫でてやると、目を細めて喜んでいるようだった。
「飯食ったら、さっさと修行にいくぞ」
ドランから声が掛かった。
「はい! すぐにいきます!」
そうして、またきつい修行が始まった。
月日は流れ、一年近く経過した。
「よし、もうこれくらいで問題ないだろう。俺の修行はこれで終わりだ」
「ドラン師匠、ありがとうございました」
「今日はゆっくりしてから、明日ユウヤのところにいくといい」
そのままカインは息を荒くしながら座り込んだ。
翌朝、カインは身支度をし、皆で朝食を囲んだ。
「寂しくなっちゃうわね。またいつでも遊びにいらっしゃい」
「ルリさん、今までお世話になりました。また遊びにきます」
カインは毎日美味しい食事を出してくれたルリに、感謝をし頭を下げた。
「カイン、すまないがこの子を連れて行ってくれないか? ハクと同じく契約してやってくれ。この子にも広い世界を見せてやりたい」
そう言って、ドランさんは白銀のドラゴンを渡してきた。
「真名はあるが、まだ呼び名はない。カインがつけてやってくれ」
ハクは白いところからとったから、白銀からだと「ギン」かな。
「なら、ギンにする。それでいいかな?」
カインが問いかけると、白銀のドラゴンは「キュイ」と鳴き、そのままカインの頭の上に乗ってきた。一年一緒に過ごしたことにより、ギンとも仲良くなっていた。さすがに一メートルを超えるようになってきたこともあり、頭の上に乗られると重かった。
「ちょっとさすがに重いよ~」
カインは頭からギンを下ろし、抱き抱えた。ギンは気持ち良さそうにカインの腕の中で丸まっている。
「この子も気に入ったようだな。たまには顔を見せにきてくれ」
ハクの時と同じく契約を行い、ギンも魔法陣の中で消え、召喚で呼び出すと姿を現した。
「わかりました! またきますね。では『転移』」
カインが消えたことを確認し、ドランは一言だけ呟いた。
「我が子のことを頼むぞ」
やっとドランとの修行を終え、ユウヤ師匠のところへ戻ってきた。
「師匠! 戻ってきました」
ノックもせずにそのまま家に入っていく。
ユウヤもわかっていたようで、コーヒーを二杯入れ一つを渡してくる。
「ありがとうございます」
「まぁ座れや。話したいこともあるしな」
カインはソファーに座り、コーヒーを飲んだ。
目の前に座るカインに向かって、ユウヤは神眼をつかった。
鑑定は相手に違和感を与えるが、ユウヤは神となり、相手に気づかせないようにカインのステータスを確認する。
「良く頑張ったな。まだ半端だったら、俺が稽古をつけるつもりだったが、もう何も教える必要はなさそうだな。すでに十分強くなっている。ドランの奴も気合いれすぎたようだ。これから教えることは俺の過去のことだ。その前に見てもらいたいものがある」
ユウヤは家の裏に回り、一面花々で咲き誇っているところに案内してくれた。
「見てもらいたいのはこれなんだ」
案内された場所には墓が三つ建っていた。
ユウヤは目でそのうちの二つの墓を指した。
カインは二つの墓の前に立って、そこに彫られている文字を読んだ。
彫られた文字は日本語で書いてある。
『椎名 聖也 ここに眠る』
『椎名 恵 ここに眠る』
「これって……まさか……」
カインは見覚えがあった、これは椎名和也の時に。
そこに彫られていたのはーー死んだ両親の名前。
「お前が思ってる通りだ。俺も聖也も恵も日本で死んだんだ。そして三人ともこの世界に召喚された。俺が勇者として、聖也は聖騎士、恵は賢者としてアーロンと死力を尽くして戦った。その戦いはギリギリでな、それで二人共命を落としたんだ」
ユウヤは悲しそうな目をしていた。
「昔の話をする前に、聖也と恵に手を合わせてやってくれないか?」
「……はい」
カインは二つの墓の前に膝をついた。そして手を合わせる。
「……父さん、母さん、事故で死んだと思ったけどこの世界にいたんだね。じいちゃんも俺が死ぬ一年前に亡くなってさ、一人で生活してたけど俺も十七で死んだんだ。通り魔が出てね、女の子が襲われそうで助けたら刺されちゃってさ……。でも、助けた女の子が沙織の妹の愛美ちゃんだったんだ。助けられてよかったよ。この世界でもさ、神様たちのおかげで人より強くいられるんだ。それで守れる人が増えたと思う。お父さんもお母さんもアーロンと戦って人々を守ったんだね。封印が解けたら今度は俺が敵を取るよ。まだ時間はかかると思うけど待っててね」
カインの目からは自然と涙が溢れ出た。和也だった頃の思い出が頭の中で蘇ってくる。
この時だけは、カイン・フォン・シルフォードではなく椎名和也だった。
「カインありがとう。二人共な、お前のことをいつも心配して、いつか元の世界に戻れるように必死で調べながら戦っていたんだ」
「もう一つの墓は?」
カインはユウヤに訪ねた。
「それは……メリネといって、俺の妻の墓だ。最初に俺たちを召喚し、最後まで助けてくれた聖女だった」
「ユウヤさんの奥さんだったら一緒に拝んでおかないとね」
カインは、メリネの墓の前に行き膝をついて手を合わせた。
「メリネさん、父さん母さんがお世話になったんですね。ありがとうございます」
メリネの墓に向かってるカインに向かって、後ろに立っているユウヤは一言だけ呟いた。
「……ありがとう」
墓に向かって一礼し、二人共無言で家に入った。
ユウヤはまた新しいコーヒーを淹れてくれた。
そして対面のソファに座った。
「……俺たちは、マリンフォード教国の召喚の儀でこの世界に呼ばれたんだ」
ユウヤの昔の話が始まった。
四年の修行という名の魔物退治を終えてやっと師匠の家についたら、新しい師匠が出てきた。
ドランの見た目は二メートル位の身長があり、鍛え上げられた身体が服の上からでもわかる。
髪は銀色で、オールバックにしており、鋭い目つきでカインを見ていた。
「そうだ。カイン、このドランから剣技や体術を教わるといい」
ユウヤはドランの横に立ち、カインにそう告げる。
「師匠、わかりました。ドランさんよろしくお願いします」
カインはドランに頭を下げた。
「うむ、ここでやったら家が壊れてしまうからな、私の家の近くでやろう。転移するぞ」
「わかりました。ハクおいで!」
寄ってきたハクを一度送還した。
そしてドランがカインの肩に手を置き、魔法を唱えた。
「よし、いくぞ『転移』」
その瞬間にドランとカインは消え去った。
二人が転移したのを見届け、ユウヤは家の裏に向かう。
そこには、花が一面に咲き誇り、その中央には墓石が三つ並んでいた。
「聖也、恵。和也もこっちの世界に来ちまったが、立派になっていたぞ。あれなら俺たちができなかった事ができるかもしれない」
ユウヤは墓に手を合わせ拝んだあと、家に戻っていった。
◇◇◇
ドランとカインの二人は何もない草原についた。
「ここで修行をする。ここなら辺り一面何もないからな」
「まずは体術からやるか。好きなようにかかってこい」
カインは召喚でハクを呼び出し、好きなように遊んでこいと言った。
ハクは喜んで草原を駆け抜けていく。
「これで大丈夫です。いきます」
カインは魔物を倒してレベルが上がったことにより、大幅なステータスがあった。
目にも止まらぬスピードでドランに駆け寄る。
右手で殴り付けようと思った途端、いつの間にかカインは空を見上げていた。
「あれ?」
カインは起き上がり、なぜ倒れているのかがわからなかった。それだけ一瞬の出来事だった。
「カインくん。まだまだ遅いよ。どんどんこい」
また駆け寄り、今度はフェイントを混ぜながらボディに入れようとしたが、まるで当たる気配がない。ひたすらカインは攻め続け、修行は日が沈むまで続き、カインは疲れ果てて草原で大の字になって倒れていた。
「もうダメだ……動けない……」
「今日はここまでにしようか。少しの間これを繰り返す。そしたら次は武器を持ってやるぞ」
「……はい……ありがとうございました……」
遊び疲れて戻ってきたハクは、倒れているカインを心配そうに覗き込んでいる。
カインはハクを送還したあと、そのまま意識を失った。
意識を失ったカインをドランは肩に担ぎ、ドランの家に転移した。
「帰ったぞー。こいつの世話頼む」
ドランは肩に担いでいたカインを、そのままソファーに転がした。
「おかえりなさい。あなた。あら、かなりボロボロになるまでやったのね……」
着ていた服は草や土で汚れ、転がされたことによってボロボロになり、力尽きて意識を失っているカインを見て、ドランの妻は、夫に対して「ほどほどにね」と呆れた笑みを向けた。
「まぁ最初だし、こんなもんだろ」
その後、ドランに部屋まで運ばれ転がされたカインは、疲れでそのまま朝まで起きることはなかった。
日の光が部屋に差し込む。その明るさでカインは目覚めた。
「知らない天井だ」
いつか言ったセリフを口にしながら、起き上がり周りを見渡すと、六畳くらいの部屋にベッドが置いてあり、そこで寝ていた。
「ドラン師匠と訓練してて、そのまま意識が飛んだんだったな」
カインは身支度を整え部屋を出た。
リビングに行くと、ドラン師匠と女性の二人がいた。そしてソファの上には、白銀色の小さなドラゴンが寝ていた。
「おはようございます」
カインは二人に頭を下げて挨拶をした。
「おはよう。良く眠れたかな?」
声をかけてくれたのは女性だった。
「あ、まだ挨拶してなかったわね。ドランの妻のルリよ。よろしくね」
ルリは身長はカインと同じくらいあり、ドランさんと同じ銀色の髪を腰まで伸ばした、二十代に見える美人だった。
「初めまして、カイン・フォン・シルフォードです。カインって呼んでください」
カインはルリに頭を軽く下げて挨拶した。
「もうご飯できてるから食べなさい」
「ありがとうございます」
カインはルリに言われるがまま、椅子に座る。
出された料理はとても美味しかった。久しぶりにまともな料理を食べた気がする。
ずっと討伐した魔物を捌いて食べてただけのカインにとってはありがたいものだった。
思わず目から涙が流れる。
「あら。カインくん大丈夫?」
ルリが優しく聞いてくる。
「大丈夫です。四年間森の中でサバイバルをしていたので、久々に美味しい食事ができたのが嬉しかったんです」
「あら、そうだったの。これから修行の間は、うちで過ごすことになるから、毎日食べられるわよ」
ルリは美味しいと聞けたことで微笑んだ。
「ありがとうございます」
料理に関してはとてもうれしかった。食事をしていると、ソファーで寝ていた白銀のドラゴンが、こちらに寄ってきて首を傾げる。まだ一メートルくらいの子供のドラゴンだ。
「キュイ?」
見たことない人がいたから興味を持ったのだろう。
「カインだよ。よろしくね」
そう言って、ドラゴンの頭を撫でてやると、目を細めて喜んでいるようだった。
「飯食ったら、さっさと修行にいくぞ」
ドランから声が掛かった。
「はい! すぐにいきます!」
そうして、またきつい修行が始まった。
月日は流れ、一年近く経過した。
「よし、もうこれくらいで問題ないだろう。俺の修行はこれで終わりだ」
「ドラン師匠、ありがとうございました」
「今日はゆっくりしてから、明日ユウヤのところにいくといい」
そのままカインは息を荒くしながら座り込んだ。
翌朝、カインは身支度をし、皆で朝食を囲んだ。
「寂しくなっちゃうわね。またいつでも遊びにいらっしゃい」
「ルリさん、今までお世話になりました。また遊びにきます」
カインは毎日美味しい食事を出してくれたルリに、感謝をし頭を下げた。
「カイン、すまないがこの子を連れて行ってくれないか? ハクと同じく契約してやってくれ。この子にも広い世界を見せてやりたい」
そう言って、ドランさんは白銀のドラゴンを渡してきた。
「真名はあるが、まだ呼び名はない。カインがつけてやってくれ」
ハクは白いところからとったから、白銀からだと「ギン」かな。
「なら、ギンにする。それでいいかな?」
カインが問いかけると、白銀のドラゴンは「キュイ」と鳴き、そのままカインの頭の上に乗ってきた。一年一緒に過ごしたことにより、ギンとも仲良くなっていた。さすがに一メートルを超えるようになってきたこともあり、頭の上に乗られると重かった。
「ちょっとさすがに重いよ~」
カインは頭からギンを下ろし、抱き抱えた。ギンは気持ち良さそうにカインの腕の中で丸まっている。
「この子も気に入ったようだな。たまには顔を見せにきてくれ」
ハクの時と同じく契約を行い、ギンも魔法陣の中で消え、召喚で呼び出すと姿を現した。
「わかりました! またきますね。では『転移』」
カインが消えたことを確認し、ドランは一言だけ呟いた。
「我が子のことを頼むぞ」
やっとドランとの修行を終え、ユウヤ師匠のところへ戻ってきた。
「師匠! 戻ってきました」
ノックもせずにそのまま家に入っていく。
ユウヤもわかっていたようで、コーヒーを二杯入れ一つを渡してくる。
「ありがとうございます」
「まぁ座れや。話したいこともあるしな」
カインはソファーに座り、コーヒーを飲んだ。
目の前に座るカインに向かって、ユウヤは神眼をつかった。
鑑定は相手に違和感を与えるが、ユウヤは神となり、相手に気づかせないようにカインのステータスを確認する。
「良く頑張ったな。まだ半端だったら、俺が稽古をつけるつもりだったが、もう何も教える必要はなさそうだな。すでに十分強くなっている。ドランの奴も気合いれすぎたようだ。これから教えることは俺の過去のことだ。その前に見てもらいたいものがある」
ユウヤは家の裏に回り、一面花々で咲き誇っているところに案内してくれた。
「見てもらいたいのはこれなんだ」
案内された場所には墓が三つ建っていた。
ユウヤは目でそのうちの二つの墓を指した。
カインは二つの墓の前に立って、そこに彫られている文字を読んだ。
彫られた文字は日本語で書いてある。
『椎名 聖也 ここに眠る』
『椎名 恵 ここに眠る』
「これって……まさか……」
カインは見覚えがあった、これは椎名和也の時に。
そこに彫られていたのはーー死んだ両親の名前。
「お前が思ってる通りだ。俺も聖也も恵も日本で死んだんだ。そして三人ともこの世界に召喚された。俺が勇者として、聖也は聖騎士、恵は賢者としてアーロンと死力を尽くして戦った。その戦いはギリギリでな、それで二人共命を落としたんだ」
ユウヤは悲しそうな目をしていた。
「昔の話をする前に、聖也と恵に手を合わせてやってくれないか?」
「……はい」
カインは二つの墓の前に膝をついた。そして手を合わせる。
「……父さん、母さん、事故で死んだと思ったけどこの世界にいたんだね。じいちゃんも俺が死ぬ一年前に亡くなってさ、一人で生活してたけど俺も十七で死んだんだ。通り魔が出てね、女の子が襲われそうで助けたら刺されちゃってさ……。でも、助けた女の子が沙織の妹の愛美ちゃんだったんだ。助けられてよかったよ。この世界でもさ、神様たちのおかげで人より強くいられるんだ。それで守れる人が増えたと思う。お父さんもお母さんもアーロンと戦って人々を守ったんだね。封印が解けたら今度は俺が敵を取るよ。まだ時間はかかると思うけど待っててね」
カインの目からは自然と涙が溢れ出た。和也だった頃の思い出が頭の中で蘇ってくる。
この時だけは、カイン・フォン・シルフォードではなく椎名和也だった。
「カインありがとう。二人共な、お前のことをいつも心配して、いつか元の世界に戻れるように必死で調べながら戦っていたんだ」
「もう一つの墓は?」
カインはユウヤに訪ねた。
「それは……メリネといって、俺の妻の墓だ。最初に俺たちを召喚し、最後まで助けてくれた聖女だった」
「ユウヤさんの奥さんだったら一緒に拝んでおかないとね」
カインは、メリネの墓の前に行き膝をついて手を合わせた。
「メリネさん、父さん母さんがお世話になったんですね。ありがとうございます」
メリネの墓に向かってるカインに向かって、後ろに立っているユウヤは一言だけ呟いた。
「……ありがとう」
墓に向かって一礼し、二人共無言で家に入った。
ユウヤはまた新しいコーヒーを淹れてくれた。
そして対面のソファに座った。
「……俺たちは、マリンフォード教国の召喚の儀でこの世界に呼ばれたんだ」
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