俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~
第十話 面倒事の増加と深い記憶の想い
ギルドに戻ると、既に噂は広がっていた。リーゼルトの体が血だらけなのも、ルカが戻っていないのも、人数が減っているのも全てその噂が本当だということを物語っている。
はぁ、とリーゼルトは面倒くさそうにため息をついた。リーゼルトの隣にはユリウスが自分一人で反省会を開いている。
「私はミルフィです。リーゼルト様ですか?」
「あぁ? ああ。そうだが」
「ギルド第一受付嬢ミルフィです。サテラ様の代わりに受付を担当しております」
にこりと微笑むミルフィを一瞥するリーゼルト。受付嬢サテラはあまり傷を負っていなく、彼女ならばすぐにでも復帰したがる本性を持っている。
それに、このギルドには治癒魔術を持っている者も少なくはない。
「サテラってどうしたんだ?」
「分かりません。突然失踪致した後、姿を見ておりません」
「はあ」
「リーゼルト様ならサテラ様の居場所を知っているかと思いましたが……」
残念だが、知らない。とリーゼルトが返すと、ミルフィは残念そうに眉をひそめた。しかし、行きそうな場所なら思いつく。
ギフトを開けられた嬉しさの前に、面倒くさい事しか増加しない予感がする。
サテラもレスナも居ない今、このユリウスがリーゼルトの計画の助けになる気もしない。重い腰を上げて、リーゼルトは受付嬢の居場所を探すことにした。
「……探してやっから、そんな顔すんじゃねえ。行きそうな場所なら思いつく。おいユリウス、付いてこないと置いてくぞ」
「あ、ありがとうございます! サテラさんは私の唯一の友達で!」
「感謝すんじゃねえ。俺はそういうことに慣れてねえんだ。感謝するんなら俺に行きそうな場所を思いつかせてくれたサテラに、だ」
「ま、待つのじゃリーゼルトぉお、我を置いて行くでないっ」
扉から出ていこうとする俺の姿を見て、ユリウスが後ろからしがみつく。やめてくれ、とリーゼルトが言うと素直に手を離した。
ミルフィはそれをみて、ほほえましい笑顔で二人を見送ることにした。
その後、リーゼルトとユリウスがやってきたのは、あの狂人……人間かどうかはわからないが、狂人と戦った場所だった。
ギィ、と扉を開けると、びくっと動く影を見つけた。
「おい、受付嬢サテラ居るか? てめえの友達が心配してるぞー?」
「こっ、来ないでください! お願いします! 来ないでください! 私、貴方の敵になりたくないんです!」
必死に、サテラは訴えた。何のことか聞こうとしても、一向に応えてくれない。リーゼルトはそろそろうんざりし始める。
「言いやがれ」
冷たい言葉が、ただでさえ暗い部屋を暗くして、ただでさえ冷たい部屋に冷酷な風を吹き込ませた。奥に居るサテラは黙っている。
しばらくして、サテラは覚悟したような口ぶりで言葉を繋げていった。
「私は、組織の人間と協力していますから。お願いします、このことは口外しないようにお願いします。私は死んでもあなたに情報は渡しませんから!」
「……」
サテラは確かに覚悟していたようだった。自分から組織に手を伸ばしていたわけではないのも、その口調から分かっていたはずだ。
でもリーゼルトの中の怒りは、鮮明に彼女を許すなと伝えている。此処で許してしまったら、ボスと戦えることは無い、と。
リーゼルトは、その怒りに従った。ただし、半分だけ。
「分かった。俺はお前を許さねえ。だからお前も俺を許さなくていい。ユリウス、サテラをギルドに連れて行け。俺は考えることがある」
「わ、我は伝説の竜だぞ!?」
「すまん。この一回だけでいい……色々、頭が爆発しそうなんだ」
様々なことが絡み合って、リーゼルトにひとつずつ考えることすら許してくれはしない。何故、と考えようとしても、途中で他の糸が絡んでしまう。
その糸をほどこうとしても、その糸をほどく最中にまた他の糸が絡まるのだ。
人生はそう簡単ではない。リーゼルトは痛いほどよく知っているはずなのに。
今は、泣きたい気分だった。誰か頼れる人に、頭を撫でられながら慰めの言葉をかけてもらいたかった。でも、できない。
いつもリーゼルトは誰かの「頼れる人」だったから。それはできないのだ。
(ああ……誰か助けてくれ。もう限界だ―――)
もうこれほど諦めを見てしまうのなら、いっそボスに殺されてしまえ。
宿の扉を開けて、ベッドに寝転がる。腕を目に当てると、頬に涙が一筋。
「みんな、俺より上で。俺はいきなりそれを超えて。他の組織も出来上がって、なのに本物の自分の敵は少しも情報をつかめていない―――」
自虐ネタは進んでいく。そんなつもりはないのに、吐き出すように言葉は零れる。自分の恥ずかしさを、隠すように。
「選ばれし者なんて、似合わない。もういっそ、消えてしまえばいい―――」
奥深くに意識が落ちてしまってもいい。レティラーとやらに会ってみてもいい。元の世界に帰ったって文句は言わない。
夢で吸血鬼のレキラーと再会しても悪くない。ただ、自由になりたい。
ハーレムもチートも欲しいし、最強の名も欲しいし、異世界観光だってしたい。
―――そんなことをしている場合じゃないのは、分かっていることなんだ。
「うっ、ぐ」
何で自分はこんなところに留まっているんだ、みんな成長しているっていうのに。
考えれば考えるほど、自分を卑下していく。自分を壊していく。
何で守れない。何で信じられない。何で、自分の感情さえコントロールできない。
「ああ―――」
もう何も考えない方がいいのだろう。リーゼルトはそのまま眠りについた。
はぁ、とリーゼルトは面倒くさそうにため息をついた。リーゼルトの隣にはユリウスが自分一人で反省会を開いている。
「私はミルフィです。リーゼルト様ですか?」
「あぁ? ああ。そうだが」
「ギルド第一受付嬢ミルフィです。サテラ様の代わりに受付を担当しております」
にこりと微笑むミルフィを一瞥するリーゼルト。受付嬢サテラはあまり傷を負っていなく、彼女ならばすぐにでも復帰したがる本性を持っている。
それに、このギルドには治癒魔術を持っている者も少なくはない。
「サテラってどうしたんだ?」
「分かりません。突然失踪致した後、姿を見ておりません」
「はあ」
「リーゼルト様ならサテラ様の居場所を知っているかと思いましたが……」
残念だが、知らない。とリーゼルトが返すと、ミルフィは残念そうに眉をひそめた。しかし、行きそうな場所なら思いつく。
ギフトを開けられた嬉しさの前に、面倒くさい事しか増加しない予感がする。
サテラもレスナも居ない今、このユリウスがリーゼルトの計画の助けになる気もしない。重い腰を上げて、リーゼルトは受付嬢の居場所を探すことにした。
「……探してやっから、そんな顔すんじゃねえ。行きそうな場所なら思いつく。おいユリウス、付いてこないと置いてくぞ」
「あ、ありがとうございます! サテラさんは私の唯一の友達で!」
「感謝すんじゃねえ。俺はそういうことに慣れてねえんだ。感謝するんなら俺に行きそうな場所を思いつかせてくれたサテラに、だ」
「ま、待つのじゃリーゼルトぉお、我を置いて行くでないっ」
扉から出ていこうとする俺の姿を見て、ユリウスが後ろからしがみつく。やめてくれ、とリーゼルトが言うと素直に手を離した。
ミルフィはそれをみて、ほほえましい笑顔で二人を見送ることにした。
その後、リーゼルトとユリウスがやってきたのは、あの狂人……人間かどうかはわからないが、狂人と戦った場所だった。
ギィ、と扉を開けると、びくっと動く影を見つけた。
「おい、受付嬢サテラ居るか? てめえの友達が心配してるぞー?」
「こっ、来ないでください! お願いします! 来ないでください! 私、貴方の敵になりたくないんです!」
必死に、サテラは訴えた。何のことか聞こうとしても、一向に応えてくれない。リーゼルトはそろそろうんざりし始める。
「言いやがれ」
冷たい言葉が、ただでさえ暗い部屋を暗くして、ただでさえ冷たい部屋に冷酷な風を吹き込ませた。奥に居るサテラは黙っている。
しばらくして、サテラは覚悟したような口ぶりで言葉を繋げていった。
「私は、組織の人間と協力していますから。お願いします、このことは口外しないようにお願いします。私は死んでもあなたに情報は渡しませんから!」
「……」
サテラは確かに覚悟していたようだった。自分から組織に手を伸ばしていたわけではないのも、その口調から分かっていたはずだ。
でもリーゼルトの中の怒りは、鮮明に彼女を許すなと伝えている。此処で許してしまったら、ボスと戦えることは無い、と。
リーゼルトは、その怒りに従った。ただし、半分だけ。
「分かった。俺はお前を許さねえ。だからお前も俺を許さなくていい。ユリウス、サテラをギルドに連れて行け。俺は考えることがある」
「わ、我は伝説の竜だぞ!?」
「すまん。この一回だけでいい……色々、頭が爆発しそうなんだ」
様々なことが絡み合って、リーゼルトにひとつずつ考えることすら許してくれはしない。何故、と考えようとしても、途中で他の糸が絡んでしまう。
その糸をほどこうとしても、その糸をほどく最中にまた他の糸が絡まるのだ。
人生はそう簡単ではない。リーゼルトは痛いほどよく知っているはずなのに。
今は、泣きたい気分だった。誰か頼れる人に、頭を撫でられながら慰めの言葉をかけてもらいたかった。でも、できない。
いつもリーゼルトは誰かの「頼れる人」だったから。それはできないのだ。
(ああ……誰か助けてくれ。もう限界だ―――)
もうこれほど諦めを見てしまうのなら、いっそボスに殺されてしまえ。
宿の扉を開けて、ベッドに寝転がる。腕を目に当てると、頬に涙が一筋。
「みんな、俺より上で。俺はいきなりそれを超えて。他の組織も出来上がって、なのに本物の自分の敵は少しも情報をつかめていない―――」
自虐ネタは進んでいく。そんなつもりはないのに、吐き出すように言葉は零れる。自分の恥ずかしさを、隠すように。
「選ばれし者なんて、似合わない。もういっそ、消えてしまえばいい―――」
奥深くに意識が落ちてしまってもいい。レティラーとやらに会ってみてもいい。元の世界に帰ったって文句は言わない。
夢で吸血鬼のレキラーと再会しても悪くない。ただ、自由になりたい。
ハーレムもチートも欲しいし、最強の名も欲しいし、異世界観光だってしたい。
―――そんなことをしている場合じゃないのは、分かっていることなんだ。
「うっ、ぐ」
何で自分はこんなところに留まっているんだ、みんな成長しているっていうのに。
考えれば考えるほど、自分を卑下していく。自分を壊していく。
何で守れない。何で信じられない。何で、自分の感情さえコントロールできない。
「ああ―――」
もう何も考えない方がいいのだろう。リーゼルトはそのまま眠りについた。
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