俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第二十五回 NEXT魔物大量襲来⑥

今彩はとてもドタバタしていた。
アーナーに力を引き上げてもらった上に治癒魔術をプラスしてもらいあちこちに笑顔を引きつらせてまで治療に向かっているのだ。
ルカとサテラが今も何か頑張っているのだろうな、と思うと手を止めるわけには行かない。
ただ、彩のやっていることがこのうちの誰よりも難しい事であるのは確定だ。

ルカの強さであんな侵入者に負けるとは彩も思っていない。というか経験があればそれほど差がない者には勝てるのだ。
使いようによっては結構な差が開いているものにも勝てるかもしれない、それが経験。

「私が二人いてもあいつには勝てんな」

そう、経験でまける。
煽るという方法もあるが彩を精神的に乱れさせるのなら方法はたくさんある。動揺はしやすいタイプなので引っかかる可能性は高いだろう。
どちらにしろ彩が今ルカに勝てるとは思っていない。力的にも、経験的にも。

「アヤ」

「ヴェ、ヴェリト!? 貴様も参加していたのか、けがはないか?」

「うん。でもちょっと噛まれちゃったかな、ほら」

彩が考え事をしていると後ろから声がかけられ、振り返るとそこにはつい最近までともに冒険をしていたヴェリトがいた。
そう言えば最近は会っていないが、この依頼を受けていたのだ。

ヴェリトがきれいに着こなしたいかにも冒険者らしい軽装の長袖を捲ると今も出血している痛々しい嚙みつき跡があった。
うわ、と若干引きながらもここまでたくさんのグロイでは済まないくらいの傷を見てきた彩はためらわない。
傷が悪化しないうちに速攻で治癒魔術をかける。
特に魔物に噛まれた傷は毒などが入りやすく治癒魔術かポーションを早急にかけないと命の危険もあるのだ。

「ありがとう。それでね、結構たくさん報酬が出たんだよ。侵入者は出ちゃったみたいだけど、こういうイベントの時はいつも出るからみんな慣れてるんだよ」

「おう。だがこんな魔物大量襲来的なのを「イベント」というのか、ヴェリトは。やけにうれしそうじゃないか、ランクが上がるのか?」

「アヤは知らないの? あそこにランクが上がる人が張り出されてるじゃないか。僕はようやくDランクに上がるんだよ! 嬉しいなあ」

ヴェリトが受付近くの掲示板をゆびさすと、そこには確かにランクが上がる者達の名前と上がるランクが示されていた。
活躍したほどランクが上がるらしい。
これでBランクに上がった者もいて、彩はこれでようやくCランクだ。

「私はランクをひとつ飛ばしたか……これで目標に一歩近づいたな」

「アヤは何処まで行くのが目標なの?」

「今はBランクだが、そこからはまたやりたいことがあるんだ。そこからはランクを上げるのか上げないのか分からないな。その後の選択にもよる」

「そっか」

やはりBランクには上がりづらいようで、Cランクだった者がBランクに上がるというのはあるが大半がDランクまでの者達なのでBという文字はあまり見ない。
ずらっと見ていくうちに、気になる文字を見つけた。

「シエラ……Sランク!?」

「にゃっはは、そんなに私のことが気になるのにゃ?」

「うええっ!?」

AランクからSランクに上がったらしい少女の名はシエラ・リュース。冒険者であり賢者だと彼女は言う。賢者なのなら強そうだ。
穏やかな魔術を使うリオンとは真逆の爆発系魔術を使うらしい。
水を爆破させたり火で爆発させたりなど爆発の使い道は様々なのだが。

「ほら。あっちにも怪我人がいるにゃ、さっさといくにゃよ~♪」

「あ、ああ」

彩はシエラの言う通りにまだ怪我人たちが呻いている場所へと駆けていく。彩の姿が見えなくなったところでシエラが毒々しい笑みを浮かべた。

「この世界は……どうなるのにゃ~?」

シェラ・ミーゼリア。
ライティアが機密組織のボスになる前、この機密組織とよく似た組織があった。それは機密チームと呼ばれた。
機密組織はそれを模造したものでもある。
そんな機密チーム……もとい機密組織の元ボスであるのが彼女、シェラだ。

「活躍地点は君じゃわからないのにゃ……ライティア・リーゼルト」

そう言って彼女は転移魔術で自分の部屋へ転移する―――と思ったが。

「君はじゃまだよ~、シエラ……いや、シェラだっけ。いちいち覚えてないけどとりあえず死ね」

「あ、リヤ……なんでなのにゃ!? 私の実力は―――」

「うるさい、にゃあにゃあ不快なんだよクソが。カス組織のボスのくせに今まで生かされて幸せだったと思え!」

今までの穏やかな声とその可愛らしい顔とは似合わない凶悪なセリフを吐いたのはアリヤだ。シェラがスパイだと疑いも入ったことがあると彼女は知っている。
それに彼女の実力があるのにライティアに関して何も知らないということ。

組織の核心まで入ろうとしないこと。

その点だけでもスパイかそうではないか関係なしにアリヤは躊躇うことなく切り捨てる。

「あるのに使えなかったら、あってもいみがないんだよ」

「ぁ―――」

シェラの短い人生は、アリヤが両手に下げた血にまみれたナイフによって終わった。










「あいつ」

彩はシエラが転移したことに気付いて驚いて向こうを見る。賢者でありここまでの実力を持っているということは、組織に居る確率が高い。
自称賢者の可能性もあるが、この実力を組織が見逃すはずがないと思っている。

「どちらにしろ、今の私が関与できることではないか」

そう言って彩は最後の怪我人の治療を終えた。




―――彼らは歯車が回り始めていることに気付かない。
―――終わりへ近づく終焉の鐘はもう鳴っているのだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品