俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第二十四回 NEXT魔物大量襲来⑤

ルカの側近とでも言えばいいのか親友と言えばいいのかという立場に挟まった男性とルカの二人で男を追いかける。
すると男の影が奥の路地裏に入る。あそこは行き止まりだったとルカは記憶している。
どうしようか。
答えは決まっている、追いかけに来たのだから何故そうしたのか問い詰めるに決まっている。

「伏せろ!」

ルカが今までになく深く険しい、一言で言えば怖い声で叫ぶと男は伏せずに「はっはっはっは!!」と笑った。
気のせいかその声は震えていた。
ルカが人の心を読んだのは何も一回や二回じゃないし経験も浅くはない。

彼が、男がやりたくてこうしているわけではないのは見たら分かった。

「貴様……」

「っ……今日が貴様らの、命日だ!」

心からの言葉ではないのは、額から流れるその冷や汗と恐怖に染まったその目で分かった。しかし男の杖は高級なものでルカでも破壊はむずかしい。
ミスリルで作られた上にどこから入手したのか賢者の魔石が埋め込まれている。
賢者の魔石は組織が多数持っていると聞いたことがあるが、この男はもしや関係があるのか。

「本心からじゃ、ないな?」

「ふんっ、何と言おうと今日が貴様らの命日だっ!」

まるで話を聞いてくれないのも納得しよう、彼にとってはきっとそんな場合ではないのだろうから。賢者の魔石の重い一撃をルカは経験で返した。
確かに賢者が錬成してばらまいたそれは強い。これを複製できる錬金術師は指で数えられるくらいだ。

しかしルカもそれをろくに扱えない者の一撃を防げないほど弱くはない。
腕は若干しびれているものの、特に影響はないと思われる。

『裂月破』

ルカがそうつぶやくと男の頭上に月の形をし、月が目の前にいるかのようなくらい光っている月(仮)が現れ、そこからさらに光が広がった。
光が男を包み、男が見えなくなるとそこから悲鳴が聞こえる。

月から刃が飛び出て光の膜で対象が出れないようにして切り裂くえげつない技だが、どれくらい切り裂くかは使用者が好き勝手設定できる。

「ふう……君には色々聞きたいことがあるんだ、死なせるわけには行かないよ。メリィ、行くよ。早く合流しないと心配される」

「はい!」

メリィ、というのは男性のあだ名だ。メリストライム・ハイリスト。これが彼の本名だがルカに呼びにくいとばっさり切り捨てられたのだという。
あだ名をつけられたときメリィは半泣きだったという。

やはりさっきの技としても日常生活としてもルカはえげつないのだった。

『長距離移動転移』

転移魔術とちがって長距離移動転移は魔力を大量消費するしなにより短距離の移動ができないし一度来たことのある場所にしか転移できない。
しかしこちらの方が使い手が多く珍しくないと切り捨てることもできる。

転移魔術が珍しいと騒がれているのは魔力消費が少なく、好きな場所に場所さえわかれば転移できるという二つのことが主だ。
ルカは天性的に才能を持っているわけではなかったので持っていなかったが。

「欲しかったなぁ」

「え? どうしました?」

「いや、転移魔術のことだよ。もしそれがあったらぼくも簡単に人生を送ってくることができたかもしれないのになぁ」

「そう、ですね」

ルカの人生はギルドマスターになれたくらいなのだから簡単ではない。血反吐を吐くくらい努力を重ねてやっと認められた人生なのだ。
心から天才を恨んだことも、ある。
この世界を壊そうを考えたことも、ある。

でも彼には生きる目標があり、そのおかげで昔の最悪な人生を今は笑い話にして語れる。

「アヤ」

その生きる目標の性格によく似た少女の名を、ルカは呼んだ。

「そうですね。彼女はよく似ています」

「でも本物はぼくに会いに来てくれないっていう難点があるんだよ。ぼくから会いに行こうとしても神様の世界まで行けないでしょ?」

「あの方はヤバい方です。大賢者なのに人間じゃなくて、神様の世界まで行ってしまって……わたしとしても彼女は」

良き親友でした、と言いたかったメリィだったが、ルカの横顔を見て止める。長距離移動転移魔術の転移が終わり、彩とサテラの姿、そして聖女の姿が見える。
ルカは上着を強くつかみ、唇を噛んだ。
彼にとってその存在はただの友人ではなく――――――。

「今ならちゃんと好きって言えるのにな」

―――人生の中で一番重要な相手と言ってもいいような、そんな存在だった。

久しぶりに見るいつも余裕なルカの甘酸っぱい顔にメリィは思わず微笑んでしまった。彼の甘酸っぱい恋物語は何度聞いても同情できる。
ルカを助けて、手を差し伸べた大賢者を、メリィもある時期は想っていたのだから。

諦めた理由は、現在の彼の嫁だろう。

「テーラ様、今どこで何をしてるのでしょうね」

「テーラのことだから、今も神界でぼくらのことを見ているんじゃないかな?」

さらりと言ったけれど、そういう解釈をすると先程の告白も聞こえたことになる―――。












「うん、聞こえたわ」

「そうだな」

「草生える」

「この世界でそんな言葉づかいをするな」

とある真っ白ではなく雲に飾りをたっぷり付けたような家(仮)に銀髪の腰までの髪をした美しい少女―――大賢者テーラと。
彼女の身をその体尽くしても守ると誓った騎士であり執事―――セバスチャン。

「セバスチャンも狂ってるけどね、ああボクには負けるなぁはっはっは!! ていうかルカったら~ボクはしばらくもう会えないのに」

「……人の恋心に草生えると言ったお前が一番負けてほしいな」

あ。と言ってテーラは固まった。

「でも今一番重要なのはそれじゃない。リーゼルトとライティアをどうしようかってことだよ。このまま野放しにしてたら……いや、大丈夫か」

「俺らが出る必要は最小限だ。どちらにしろライティアに勝たせたりはしないがな」

そうだね、と言ってテーラは机に置かれた紅茶を飲み干した。
そして席を立ち、ふっと不敵な笑みを浮かべた。

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