俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第十七回 初めての依頼と

鳥が鳴く音が聞こえる。
宿の階段を降りるとロビーには数人の冒険者らしきものたちが集まっていた。

しかしそれも数人のみで、彩は苦笑いを浮かべた。
高くも安くもない宿だがどちらかというと低級の宿だからである。

「あーユリウス、今日は依頼でも受けるか?」

『うむ、我も依頼とはどんなものなのかこの目で見てみたい』

彩の声とユリウスの声は小さいため宿には届いていない。
頷いて、彩はギルドに向かって全速力で走る。魔力で強化してもそこまではやくはならなく、体感で約三分くらいでギルドについた。

「こんにちは、今日は依頼を受けますか?」

ウェラが満々の笑みを浮かべて接してくる。

「ああ」

「でしたら向こうの掲示板に依頼が書いてあります、どうぞじっくり見てください」

「分かった」

 手短に会話を済ませて、彩は横にある掲示板コーナーに向かう。
 そこにはFランクからAランクの依頼まであるが、Sランクからは載せられていない。

 一番最初に目に留まった依頼はゲラパラという種の木の樹液を採ってこいというものだった。ゲラパラの樹液はポーション代わりにされることも多いが、その木がある場所は少ないためあまり利用されていないのだという。

「これで」

 彩はその依頼書を持って受付に置いた。

「分かりました。では頑張ってきてくださいね!」

「おう」

 その表情に不覚にも微笑み返してしまった。
 これが彼女のマドンナである原因のひとつだろうか。

 ちなみにゲラパラの木はくねくねしていて非常に見つけやすい。

「そ、お、れっ」

 屋根に飛び乗って歩くのは体力が持たないが、風景を見るのが楽しい。初めてチャレンジした時は落ちてしまったが今では楽しさしか湧いてこない。

 それからは無言で歩き続けていたため割愛する。

 都市の中でも隅っこにあり、しかも一番小さい森にゲラパラの木は生えている。
 森はそこまで不気味じゃないし、魔物もそれほどいない。

「おっと」

 木の樹液を入れ物に入れていると、握っていた刃物で手を切ってしまった。
 まあいいや、と思い、彩は反対の手で樹液を採取する。

「あ、君もこの依頼を受けに来たのかい?」

「ああそうだ。貴様もなのか?」

「あの依頼は何個もあってね、よほどこの依頼主は樹液が欲しいみたいだよ」

「同じ依頼主だと言いたいのか?」

「うん、依頼主は変わっていないし、欲しい量もずっと同じ」

 少年が彩に微笑みながらそう言った。
 これはまた変な趣味を持った依頼主だ、と彩は思った。普通なら怪しむところだが、さすがにあれこれ怪しんでいては冒険者ライフが難しくなる。

 ユリウスと脳内会話をして、入れ物に蓋をして帰ることにする。

「ボクも終わらせちゃったからさ、一緒に行かない?」

「あぁ、分かった」

 何かあってもユリウスが飛び出してきてくれるから問題はない。
 とりあえず行きと同じように屋根に飛び乗って歩いたが、少年は付いてこずに屋根の下を歩いていた。怪しまれないようにしているのか。

 道中彩が樹液の入った瓶を落としそうになったが地面に落ちる前に少年がキャッチしてくれた。
 彼の名はヴェリト。
 此処の冒険者ギルドにとても憧れて彩と同じように昨日登録した者のようだ。

「ヴェリトって強いのか?」

「自分で言うと変だけど、自信なら結構あるつもりだよ」

 出る所は出て、攻める所は攻めるという性格なのだろう、謙虚でもなく自意識過剰でもなく、ヴェリトの言葉は妙に心地よかった。
 彩は微笑んで、「私は最弱だ」とそう言った。

「そうなの? 強そうだけど、ここまで生きてこれたのは仲間がいるから?」

「詳しくは教えられないが、居るぞ」

 本当に居る。彩の隣に。
 しばらく話していると、ギルドの中についたようなのでヴェリトと共に樹液を受付に提供して報酬をもらう。

 彩は宿に戻らないといけないため、一旦少年とは別れた。

「はぁー、簡単な依頼なのに妙に疲れたな」

「彩は妙に男慣れしてないのう……そのハヤトとやらにしか懐かんのか?」

「え!? な、懐いているってわけではないんだ!!」

「恋心なのだ! これは恋心なのだ!」

 彩が少し声を荒げただけなのに、ユリウスが興奮している。
 はぁ……と苦く息を吐くことしかできなかった。

 リーゼルトに何か感情を抱いているというのは彩も否定はできないだろう。しかしそれが恋なのかと問われることがあるのなら、分からないと答えるだろう。
 鈍い。
 そう表しても間違いではないほど鈍いのだから。
 勿論、リーゼルトも鈍いの中に入るほどの者なのだが。

「とりあえず男などのことは放っておいて、今日はもう寝るぞ!!」

「財布もホクホクだしのう……ZZZ」

「まぁーたこいつは寝るのだけは早い」

 宿に戻った彩とユリウスは、何よりも先に寝ることにした。
 今回でランクアップはさすがに無理だったがFランクでも戦闘系の依頼はある。

 それに、ギルドから認められている場合ひとつ飛ばしも可能なのだが……さすがに今でそこまではありえないと思い、やめることにした。
 ゆっくり、リーゼルトが現れるのを待つ、それが彩に残された最後の道だ。

「はぁ……恋心が全くないと言われるのなら、それは違うと思うんだがな」

 少しくらいならあることくらい、彩は自分でも自覚がある。
 ベッドの中に潜って、リーゼルトの顔を浮かべてみると顔がぼん、と紅潮した。

「はれぇ……思ってるよりやばい?」

 これ以上言葉に出してしまったらプライドが消えてしまう。

 考えないようにして、彩は眠りについた。

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