俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第三十回 いろいろとあり得ない

あくびをしながら藍は自室の引き戸を開ける。朝の五時だ。フェーラはまだ此処には居なく、今の藍は一人だ。
あの後王都に行くことをロナワールにも話、拒否されると思ったが真顔で「良いよ?」と言われてしまった。
自分の敵討ちに行くのに拒否することはないだろうと考えて改めて思った。
引き戸の先には洗面所があり、その部屋さえも地球に居たときの藍の家よりも大きい。
何故こんなに早くから起きたかと言うと、今日王都に行くつもりだからだ。

「んー……ぷはっ、ああ!」

冷水を思い切り顔にぶっかけ、眠気が吹っ切れた藍は歯磨きをして、洗面所を出る。
実は水の属性を持つ者は意外にも少なく、水は貴重な物だ。
しかし遠慮なく使える此処はかなり裕福だと言えるだろう。

「ランさん、おはようございます。最上階にてお集まりください!」

別れのあいさつやこれからの計画を立てるためだろう、ちなみにロナワールは徹夜で資料やなどを終わらせ、最上階に座って寝ているらしい。
これは強制的に起こすしかない、と藍はゲスの笑みを浮かべる。
フェーラに連れられ、最上階に向かって階段を上がりそこにあるたったひとつの部屋のドアを開ける。

そこにはメンバー全員がそろっていた。
そしてロナワールは寝ていた。

「起きなさい」
「うっ」

真顔で藍はロナワールの足を思い切り踏み、ロナワールが痛みで起きたところで爆笑が起きる。
しばらく悶えた後、話し合いと言う名のふざける会は始まった。

「まず王都へ行くのだけれど……王都ってどこ?」

「人間たちのいる場所の地形は中心地が丸い土地になっていますので、その周りを囲って第二砦がトセガイ町です。第一砦はニュドセアと言う大都市です。王都はフェリラーと言う名前です」
「地形を言ってどうするの……」

まわりくどい言い方をわざとしているのは気付いたが、その意図は分からない。
そんな言い方をしている本人フェーラは、実際ただ多く説明したかっただけなのだが。
藍は呆れ、ロナワールは苦笑いをする。サタンはその意図が分かっているようで、サランはその地形を知っているため興味がなさそうだ。エアンは興味津々に聞いている。

「そして王都の城はあそこに見えます」
「えぇ!? 近っ!?」

フェーラが指をさすと、戦の時には瘴気や霧で見えなかった金色に光る城の先の部分が見えた。
眼を強化したら薄っすらとその内部まで見える。
余りにも旅の仕様がない状況に藍は呆れ、エアンも苦笑い以外なにもできないようだ。

「旅っぽくないわね……お金とかは援助しなくていいわよ?」
「え、いいのかよ」
「だってもっと旅らしくなくなるじゃない!?」

全く分かってくれないロナワールに藍は飛び上がってしまう。
フェーラも思っていることが同じなようで、この大魔王城の微妙な位置に驚いていた。
サランもエアンも藍の考えに賛成らしい。

「それで、荷物を」
「こちらで準備万端でございます」
「早っ!?マジで旅の仕様がない……」

魔王軍の手の速さに驚く藍だった。さらに深く話を聞くと負荷にならないように懸命にいるものいらないものを分け、上級メイド全員で頑張っていたのだという。しかも徹夜で。
同じく徹夜で資料をやっていたロナワールなのだが……メイドたちは褒められるもののなぜかロナワールは褒める気になれない。
ざまあと言うことなのだろうか。

「行き先は組織ね……でもどこ? まさか」
「私……気配オーラ、分かる……魂の匂い……」
「え」
「ラン、まだ初心者だなあ、サランさんは位置がわかると言ってるんだよ」

エアンが遊びで笑いながらそういう。藍も遊びだとわかったうえで彼女に威圧をかける。もちろん「超」弱気で。
サランはそれを一瞥し、無音で立った。

「私……行ったことある……魂奪われた……」
「うん、それは後程しっかりと聞いてあげるわ。今は行きましょう……あら」

無意識にポケットを探ると、そこには日本のメモ帳とボールペンがあった。
恐らくそれは召喚されたときに偶然入れていたものだろう。
サランとエアンはドアを開けようとして、藍の方を向いた。そして驚いた。

「そんな真っ白な紙見たことがないな。それどうする気だ?」
「商人になれそうだと思ったのよ」
「まあ商人は犯罪履歴がなければなれるからな」

身分は証明しなくても良い、商人になるためには犯罪履歴がないか確かめるだけでよいのだ。
どう確かめるかと言うと向こうが丁寧に魔警団や白警団に確かめ、名前と顔を見せて「そのような者はいない」という認定をもらうだけでいいのだ。
ちなみに嘘か本当か確かめる薬を飲ませたうえでのことなので、白警団などが騙すことはない。
藍たちは魔王軍なため、魔王軍を軽蔑している人間たちはさすがに通してくれるとは思えないため冒険者よりも簡単な仕事なのだ。

「これくらい高価なものがあれば、結構長い間は暮らせるわよね?」
「あぁ、組織に行くまでは持つだろう」
「そうね、その後には私の「友達」に会えるといいわね」

立ち話も嫌だったためとりあえず外を出……るのが面倒くさかったため全員で窓から飛び降りる。
この入り方と出方は最近流行り始めている。
特に駄目なことでもないためロナワールも何か発言はしていない。

「ああ、あのもう一人の転生者か?」
「どちらかというと転移じゃないかしら」

地面に足を付けた藍とエアンはまた話の続きをし始める。
何処から取り出したのか、フェーラは藍、エアン、サランの三人分の荷物を持って立っている。
ロナワールと藍の位置は丁度平行。
それを見たフェーラとサタンは目を輝かせる。

「ランさんロナワール様、告白はちゃんとしましょう♪」
「そうよランちゃん~♪ロナワール様も~♪」

そう言って二人はロナワールと藍の距離を近づけた。

エアンとサランも興味があるのか、止めようとはしなかった。逆に楽しんでいるようにも見える。

―――――――しかし彼らはまだ知らない、この事実も計画のうちだということを。

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