俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第二十九回 一方その頃(嫌味)

「ダァン」という音と共に、机の上においてあった皿が飛び上がり、地面に落ち、割れた。
銀色のロングヘアー、それに似合わない緑色の清楚なリボン。
彼女は豪華な、彼女自身の部屋にて座り込み、その隅では彼女の信じる者がニールと呼ばれる地球ではビールという名称の酒を飲んでいる。
シアンとロスだった。

「お前、どうして私をあの空間から助け出せた」

ロナワールたちの思惑通り、シアンは一か月強休み、ロスもそれに付き添い続けていた。
シアンは力なく、威厳も何もない疲れた目死んだ目でロスに向かって話しかけた。
ロスも大変疲れているようで、地面にぺたんと座っている。

「あぁ、あの転移は妖術っす」
「妖術に転移などあったのか!?」
「いや、進化」
「ああ、あれか」

妖術を持っていると、魔法が妖術に進化し、妖術と対抗できるようになることがある。
これはとても稀なのだが、今回はそれが起きたらしい。
もちろんこれは道具を使って強制的に進化させたのがたまたま転移だったという偶然なのだが。
ちなみにロスはグロッセスの作りだした「妖族」と呼ばれる天性的に妖術が使える種族だ。
大魔王達とはまた一味違い、この場合高性能な妖術は使えない。

「転移はよく使ってた、それに大魔王の方も疲れてたようっすから」
「ほう、しかし私は抜けなかったぞ?」
「あの一撃で限界でしょう、抜け出す魔力などありやしたっけ?」

それは、ない、とシアンは即答する。
確かにあの時は自分の実力を考えずに怒りに任せて突っ走ってしまった。それも今ここで負け犬になっている原因でもあるだろう。
これは認めるべきだ。それに今回は後方で見ているはずのロスまでもを巻き込んでしまった。

「まあ、俺が出ていったのも本当は罰せられる事項なんっすけどね」
「罰を、受けるしかないのか?」

「みんなーボスからの伝言だよ~」

鍵がかけられているはずの部屋をすり抜けて出てきたのはピンクのツインテールの女の子。生涯ボス一筋だというのは組織の者全員が知る事である。
そしてあの時リーゼルト一行を襲い、国王の黒魔法をロックしたのも彼女である。
ちなみに彼女はシアンと相性が最も悪い。

「アリヤッ……何しに来た」

シアンは威圧しようとしたものの、体力が全くないため力なくそう言った。
ロスは別にアリヤに思うところはなく、アリヤもロスのことを気に入っている。

「もー失礼だね、さっき言ったよね?ボスからので、ん、ご、んって」
「くっ……要件はさっさと言え!」

声が擦れながらもなんとかシアンはアリヤを威圧しながら叫ぶ。
もちろん日ごろボスの威圧に触れ続けているアリヤが動じることはないのだが。

「察してってば! ボスがお怒りだよ!」

アリヤはシアンには話が通じないとみて、ロスに詳細を話した。
詳しくはこうだ。
シアンの戦況を聞いたボスがまたか、と最初はそれほど動じてはいなかったのだが、詳しい映像をアリヤが見せると頭に怒りマークを浮かべてアリヤに珍しく威圧をかけてシアンを呼んで来いと叫んだというのが全貌であった。
きっと兵力の使い方や戦闘の仕方に問題があったのだろうとアリヤは仮想を立てる。

そしてロスは同じことをシアンに伝えると、シアンの顔はさあっと青くなり、アリヤと共にこの部屋を出ていくのだった。
ちなみにロスは正しいことをしたため、呼ばれることはなかった。

冒険者が捕獲され、組織の者達も多数捕獲され、宮廷魔法士までもが捕獲される。
一歩間違えたら国王からの信頼も途絶えるかもしれない。
落ち着いたロスは、戦況をまとめるとボスが怒る原因がよくわかった。

「こりゃまたシアンさん苦戦するなあ、さすがにクビは無いと思うがな」

残された最後の一滴のニールを飲み干し、ロスは瓶を適当に放り投げ、そう笑った。
シアンがロスを頼っている。
それは間違いないのだが、ロスはシアンのことを頼っていない。立場のためだ。
グロッセスはどちらかというと軽蔑されている側で、そんな彼女が作り出した種族であるロスはどうしても立場を安定することができなかった。
そのストッパーがシアンなのだ。つまり信頼はしていなく、表面的な物だ。

「ま、関係ねえか」

先日ロスには新しい任務が入った。
リーゼルト達を組織に通せ、というものだった。

――――――――――――――――――――――――☆

「なにを、しちゃったのかなあ?」
「ひっ……わ、分かっている、分かっているのだ……」

ボスの事務室では、少年が眼から威圧をたっぷりと放出し、シアンに向かって言う。
如何やら彼がボスで間違いはないだろう。
ただ、部屋はわざと黒くされていて、その表情と顔、服装さえも見えなかった。

「もしもこれで国王からの信頼を失ったらどうするの?結局僕が尻拭いだよね」
「そ、それは」
「分かってるとか言ってるけど、分かってないよね?」

ボスの威圧に当てられ続け、シアンは徐々に耐えきれなくなり、顔を下げてしまう。
彼はきっとシアンが生涯で頭を下げる相手の最初で最後の一人目だろう。

そしてボスの怒りの方向はロスの仮想通りであった。
いくら膨大な組織でも国王からの信頼というのは根を支えるために重要なものだ。
それを失う危機をあろうことか大賢者が犯してしまったのだ。

「もういい、君は僕が一定の期間封印するよ」
「い、嫌だ……そ、それではロスが、ロスが立っていられないぞ?」

「……貴様ごときが」

ボスが人差し指をシアンに向けると、シアンは後方まで吹き飛ばされ、ドアに打ち付けられる。

「僕に条件を言えると思ってるの?ロスの立場は僕が命を懸けて守る。君は心配しなくてもいいよ、安心して封印されてくれない?邪魔なんだ。ああそうだ。ロスには新しい任務を任せているから、暇になる心配はないよ、君といるよりも忙しくなるね」
「私が……いなくなったら……彼は……」

ロスが本当に自分と結ばれていることを信じているシアンを見て、ボスは卑下するように鼻で笑った。

「彼が本当に君につながれていると思うのかな?全然、違うよ」

ボスがゆっくりと掌をシアンに向けると、シアンの周りを青い結晶が纏い、固まり、シアンは恐怖の表情のまま封印された。
ボスの脳内で、機械の音が響いた。

【配送場所を指定してください:神界、精霊界、洞窟、魔界】

神界とは、神が住む世界の事。精霊界とは、精霊が住む世界の事。洞窟は不明。魔界は魔物や魔神、邪神などがとどまっている場所だ。
しばらく考えボスは答えを出す。

「ふうん、ちょっと増えたか、でも今回は「神界」」

ボスがそういうと、シアンを封印した結晶は跡も残さず消え去った。

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