俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第十一回 藍はまさしく最強、なのだが

右目にまかれていた包帯が少し解け、風になびく。
彼女の手からは黒の盾が多重にかけられていた。
彼女の名は―――――――――――――?

「……礼を言うぞ、エアン」
「ふん、礼を言われるまでもない、体力はすでに回復した」

ロナワールの前に立ちはだかったのは、以前対峙したエアンだった。
彼女によると、森で体力を回復させ、こうなることを予想し戻ってきたのだ。
唯一予想から外れたのは、シアンの発言だった。
はるか後方で、エアンはシアンの会話も、ロナワールの答えも、全てを聞いていたのだ。

「エアン!貴様も裏切るというのか!」
「黙れっ」

キャラ作りなどせずに、そのままの話し方で大賢者:シアンはそう言った。
それを耳に入れないように、エアンは防いだ。

「裏切ったのはどっちだ……命など、物ともせずに!!!」
「っつ……レイアの……ことは……」

必死に声を抑えながら、エアンは叫んだ。強くかみしめた唇から一筋血が零れた。
シアンは手を拳にし、喉から絞り出すかの声でそう言う。

「それすらも、キャラ作りだろう」
「はは……はははは!!!ここまでだエアン、貴様ももういらない!!」

シアンをにらみながらそう言ったエアンに、シアンは虫けらでも見るかのような目でそう叫ぶ。
エアンは動じなかった。
むしろ自らの魔力でシアンを圧倒させようとした。

「はぁ……」

しかし、後ろでため息の音がする。
それは決して大きな声ではなかったが、良く響いた。

「レイアのことは、オレが責任を持つ。戦わないでくれ、お願いだ。此処でだけは……」

そうあたまを下げたのは、ロナワールだった。
シアンはさすがにそれには驚いたようで、戸惑いながら一歩下がった。
エアンは警戒を解かずに後ろを振り向いた。

「どうやるんだよ、レイアは、もう死んだじゃないか!!」

『生命復帰』

そう叫んだエアンに向かって小さくうなずき、ロナワールは詠唱をした。
それは優しく渦を巻き、ゆっくりとレイアに向っていった。
そしてそれはレイアの体に吸い込まれ、やがて消えていった。

「……シ……アン……様……?」

むくりと起き上がったレイアは呆然と立ちすくんでいるシアンに向かった。

「やめろレイア!そいつには近づくな!」
「だま、れ、エアン、は、裏切り、もの。」

ふらふらとしているものの、レイアはエアンに振り向きもせず、シアンに向かおうとする。
ロナワールと藍、エアンには見えていた。
レイアの胸のあたりにある黒い渦巻きを。

「レイアは、操られているのか」
「あぁ、恐らくそうだな」
「私も良くは分からないわ。けれどあれが彼女の心を操っていることは事実ね」

冷静を装って、藍もロナワールもそうつぶやいた。
エアンはすでに怒りが爆発しそうな状態で、拳にした手からはすでに爪で傷がつけられ、血を流している。
いくらなんとも、レイアは仲間だった・・・。その姿は、見ていられない。
そしてロナワールにとっても、元部下であって、たくさんの思い出があったことに変わりはなかった。

『浄化……』

小さな声で、後ろからそうつぶやいたフェーラの声。
そう、彼女の得意は治療で、妖術を破壊したりする魔法も持っている。
妖術とは魔法とは違い、人を惑わすために作られた術。
大昔、悪の神と呼ばれた者がそれを創ったのだという。
浄化をかけられ、レイアの胸の黒い渦巻きは薄れていった。フェーラがもう一度浄化をかけると、それは完全に消えてなくなった。

「なぜ……」

手を胸に当てて、肩を震わせる藍。彼女の眼からは、憎しみが溢れていた。

「なぜ、お前が!お前がその術を持っているの!何故なのよ!」

残された全力で、藍は叫んだ。
シアンも、この場にいる全員が怯んでいる。

「許さない……私を、私の人生を奪った……その術を……」

体力は全くないはずなのに。
藍の周りを強力な魔力が渦巻いた。
恐らくロナワールをも超えてしまうだろうか。シアンを越すにはいとも簡単と感じるようなものだった。

「あぁぁぁああああああ!!」

詠唱も何もせずに、その魔力を藍はぶっ放す。
とんでもない量で、その一粒一粒が強大な威力を持つ渦巻きと礫は。
目に留まらない速さでシアンに向かっていった。

その魔力が拡散し、消えてなくなったころ、そこには傷だらけで何とか立っているシアンが居た。

「う、そだ、まさか、私を超える、者が。……でな、おす……」

途切れ途切れにそう言ってシアンは消えていった。
残されたのは決して少量とはいえないであろう血の湖であった。

ふと、レイアの意識が元に戻った。

「はれ?私何を?確か……って、戦いは!?」
「レイア、戦いは終わった。お前のシアンは、お前を置いて逃げていった」

エアンにそう告げられ、レイアの顔色は若干暗くなるものの、すぐに吹っ切れたようだった。
もともとシアンとは友好な関係ではなかったため、別に良かったのだ。
なぜ裏切ったか。
それはまだ、告げることはできない……。

本陣のテントに皆は戻る。
後ろからゆっくりと付いて行くロナワールは、何か考え事をしていた。

―――――――――――――――――――――☆

「くっそぉ!!」

敵陣のテントでは、シアンが机を叩いて、悔しそうにまた座った。
満身創痍だったその体も、今では治療されすっかり癒えている。
それをアキルーテは端っこで冷ややかな目をして見つめている。それはシアンを上司として、ではなく下等な人間として認識しているという目であった。

「アキルーテ!貴様も何か知恵を出せ!」
「シアン様、これは貴女の独断です。貴女が責任を取るべきです。ご覧ください、兵士達の傷の具合や損傷、いろいろなことからして、また攻める、というのは今からではできる状況ではありません」
「くっそぉ!」

端っこから一歩出て、アキルーテは無表情、無感情でシアンに現状をそのまま伝えた。
アキルーテが戦力となる準隊長ということもあり、下手に手を出せば「ボス」がどう動くかもわからないため、シアンも下手に手は出せない。
もう一度机を叩き、シアンは悶絶した。
アキルーテはまた冷ややかな目で見つめたまま、イヤホンらしきものを取り出した。
魔法で作られたイヤホン、と言った方がちかいだろうが、これの名称は決まっていない。

「……今ボスから連絡が来ました。この場での損傷及び責任はシアン様のみに加算されるらしいです。ということなので、私はこれにて失礼いたします」
「待て。アキルーテ、お前、今なんと言った」

イヤホンを耳から外し、アキルーテはそう告げるとテントから出ようとするが、直前でシアンに呼び止められる。
アキルーテは振り返りもせずに、立ち止まったまま次の言葉を待った。

「私だけに荷だわせるというのか?」
「ボスの命令に、間違いは絶対にございません。私の命を懸けて証明して見せましょう。」

明らかに分かるように舌打ちをし、シアンはまた手を額に乗せ、何か悩んでいた。
アキルーテはその様子を一瞥し、振り返らないまま歩いていった。
残されたシアンが全ての責任を持って、何が起こるのかはまだ分からない。

(ざまぁねえな)

ただ、アキルーテの心の中にはその気持ちがあったのであった。
逆に言うと、それ以外なにも感じられなかったのだ。
すでに自分が「計画」の中に入ってしまっているということも――――――――。

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