俺にエンジョイもチートも全否定!~仕方ない、最弱で最強の俺が行ってやろう~

なぁ~やん♡

第十四回 俺の記憶喪失(下)

『スローモーション』

女の子の声は山を揺らし、木を倒れさせた。そして最も重要なのが、サテラの放った魔法がピクリとも動いていないということだ。
これは…なんというランクだったか……確かに見た覚えはあるのだが僕は思い出すことができなかった。

毎度、月での戦争が終わると、僕だけ休憩時間があった。そこで僕はたくさんの魔術、知識を勉強した。だがその中でも、そんな魔法は聞いたことがない。
他人の魔法を止め、その衝撃波で周りにまで影響を滅ぼすなど……。

女の子の表情は、まるでこの場にいるずべての人を貶めているようだった。いや、確かにそうなのだろう。
女の子は手を上げて、不敵な笑みを浮かべた。

『生物操作』『木属性精霊召喚』

!?
僕は驚きを隠しきれなかった。昔見ていた魔導書の中に記されていた魔法ランク「無ランク」そして先ほどの攻撃も多分それなのだろう。それだけならばまだ恐れるに足りない。重要なのは彼女が召喚魔術を使っていたことだ。
まず、無ランク魔法とは、どんなものでも限度がない。それを使っている限り、そのレベルは上がり続けるのだ。そして、その中でも最もランクが上がりやすく、最も強力な魔法であり、取得がとても難しいもの。そしてそれは強力すぎて魔法と呼ばない。それこそが――――――――――――――――召喚魔術。召喚された精霊などはどの子もランクは上位で、召喚した人の話を死ぬまで聞くというシステムである。
僕も欲しくて仕方がなかった。あの悲しみの世界を覆す力が欲しかった。けど、今は月も歪み、母も亡くなった。父などというものの概念はこの世界にはなく、「結婚」を知るのは一部の貴族らのみになる。

「……ど、どうして、そんなものが使える!?」
「何者なんですか?貴女」

国王は何とか驚きを押さえ、慌てたように女の子に向かって言うが、その髪の毛から落ちてきた冷汗は、彼の「驚き」と「焦り」を物語っていた。
一方のサテラは冷静に対応しているものの眉間のしわは、彼女も焦っていることを隠しきれなかった。女の子は表情を変えないものの、その笑みからは邪気が増していて、魔法技術の衰えている者はその場で立っていることすら不可能で、地面にへばりついていた。
ピ―――――――――――――――――。
そこで、また僕の脳内に機械音が響いた。
―――――――――――――――――――また貴方?いや、今回は違うかな……。
―――――――――――――――――――はぁ?てめー何俺の体乗っ取ってんだよ?
―――――――――――――――――――リーゼルト……?そう、だよね!
―――――――――――――――――――……その調子だと、お前はまた「三人目の貴方です」とでもいうつもりか?
―――――――――――――――――――間違ってはいないよ~。けど僕を呼び出したのはどうして?
―――――――――――――――――――サテラを守ってくれ。お前にしかできない!
―――――――――――――――――――へ?
―――――――――――――――――――お願いだ!俺が自分体の中に封印されている今、頼みの綱はお前しかいない!
―――――――――――――――――――……分かった!!!
―――――――――――――――――――あぁ、まかせt……。

それっきり、この体の主であろう「リーゼルト」の声は聞こえなくなった。
彼の言葉を聞いた僕は驚きでいっぱいだった。彼の記憶の中での彼は、ヤンキーでやさくれていた。なのに、何が彼を変えたというのか。

「リオン様ー!国王様ー!頑張って―!!!!」
「はい!頑張らせていただきます!」

「あぁ、精一杯な!!」

後ろからシアノンの応援。そして一度振り返って、笑顔でサテラと国王は応える。
その瞬間、僕の心はとても温かかった。今までなかったものが、心の中で満たされた。
「友達」「愛」「感情」
僕は今まで何をしていたんだろう。こんな大切なものを見逃して。
僕の目から涙が流れた。初めて家族以外の人のために泣いた。僕は声を上げない。僕は決意した。この人たちを全力で守る。
僕はありったけの体の中にある魔力をすべて右手に凝縮させた。無ランク「内臓操作」発動準備、完了。

「さぁ終わりだぁ!!!!精霊よ、奴らを叩き潰せー!」
『了解』
『はぁーい』

二人の精霊が出てくる。ひとりは緑の長髪ポニーテールの女の子。およそ15センチくらいの大きさだ。もうひとりは緑の足に届くくらいの長髪の女の子。大きさはおよそ20センチだ。

『さぁーて植物のみんなー♪レッツゴー』
『山も、花も、草も、我々と共鳴せよ!!!』

二人の声とともに、木はサテラたちへと猛スピードで発射され、山、花、草たちはみな削魂唄という人の魔力を弱め、精神も衰えさせる植物精霊上位の魔法を使った。
普通の人間ならばこの一撃は防ぐことはできないだろう。だが今のレティラーは違う。彼は負ける気がしなかったのだ。この避けることが不可能な一撃に。

お願い。僕のランクが、彼女より上でありますように――――――――――!!

『内臓操作!』

僕の全力を使って放った魔力が一直線に女の子に直撃する。サテラたちは皆目を丸くしてこちらを見ていた。
手ごたえはあった。息切れしながらも、僕は女の子がいる方を見つめた。

「うっ!!」

女の子が心臓を押さえ、うめき声をあげて倒れた。
内臓操作は、人の内臓を瞬時に縮こまらせ、力が強ければ爆破させることもできる。今回彼は全力で放った。果たして彼女は無事なのだろうか。
そして精霊もいつの間にか消えていた。恐らくその主がそれを具現化させるほどの魔力がないのだろう。

僕は忘れていた。これは……リーゼルトの…からだ……。
うっ。
リーゼルトが、出てくる。居場所がない僕は、何処へ行く?

「あ、あれ?ここ何処だ?」

「「「リーゼルト/君!!!」」」

俺に向かって三人が叫ぶ。俺は彼らに向けて微笑んだ。
俺が出てくる瞬間、俺はレティラーをとある洞窟に飛ばした。残っていた彼の力で。
だがこれは俺の体。
俺の体は持たなかった。そしてまた俺の意識はブラックアウトする。。。

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