月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

拾陸輪目 麦藁菊

今月中旬、桜前線が東京からスタートしたという。「もうすでにそんな時期になるのか」とか思いながら、暖かさと肌寒さが混じった外を歩く。今日は小学校の同窓会が行われるため、地元に帰ってきている。本当なら、今日は仕事のはずだったんだが、運良く休みをもらえたために参加することにした。
「みんな、どうなってるかな? 元気だと良いな」
そう呟きながら、集合場所に着いた。時間の十分前。まだ幹事しか来てないようで、僕は彼と会話しながら他のメンバーを待った。この十年、辿ってきた軌跡。その断片を少しだけ、幹事の彼に話した。
「へえ。秋永さんは、そんなことをしてきたんだな」
「うん、そっちは?」
「俺は電気工事の資格取って、今は電車関係のところで仕事してるよ」
「僕と同じ、現場職なんだね」
「そうなるな。でも、現場職で女性は珍しいな」
「そうだね、僕のところでは見たこと無いかな」
会話に花を咲かせながら待ってると、寒くなってきたから中に入ろうと言われたので後に続くことにした。予約してある席に着き、残りのメンバーが来るのを待った。今日はどうやら十人ほど集まる予定だとか。そして、担任だった先生も来るとのこと。
「まだ来ないね、もう一人の幹事」
「さっき連絡したときは、まだ家だって言ってたからな」
「早く来ないと、みんな来ちゃうよね」
「そうだな」
そんなことを言っていると、もう一人の幹事がやって来た。
「ごめん、遅れちゃった」
「大丈夫だよ、まだみんな来てないし」
「秋永さんが一番乗りだったんだぜ」
「そうなんだね。秋永さんは、元気だった?」
「うん、元気だったよ」
「そっかそっか。よかったね、今日お休みになって」
「運良くそうなったからよかったよ」
三人で話をしていると、ポツリポツリと参加者がやって来た。
「それでは、同窓会を始めたいと思います。本日はお疲れさまでした。乾杯!」
それぞれがグラスを掲げて、乾杯していく。それを皮切りに、これまでの出来事を話していく。中学や高校のこと。大学や会社のこと。恋人の話や、結婚したという話も聞こえてくる。写真もたくさん撮った。この十年、みんな変わってきたがこうして集まると、昔を思い出せるくらいには全員が変わってなかった。懐かしさと、不参加の人達がいるという一抹の寂しさを抱きながら、酔いを楽しんだ。
「えー。そろそろ予約終了の時間ですので、最後に集合写真を撮ってから外に出ましょう」
店員に写真を撮ってもらい、思い思いに外に出ていく。「あっという間だったな」と思いながら、僕は幹事達と一緒に最後に店を出た。人数分を会計したあと、二次会をカラオケでやる話が出たが、僕は次の日が仕事のために参加できない。
「ごめんね、明日も早くてね」
「仕方ないさ、現場だもんな」
「そうなんだよね…… 誘ってくれてありがとうね。また次の時には、行けるようにしたいかな」
「わかった。たまには連絡してくれよ?」
「うん。それじゃあ、またね」
二次会に行く人達を見送り、僕は迎えに来てもらってる人が待つ場所へと向かった。見慣れた、親のシルバーの軽自動車。待たせたことを謝りながら、助手席へと乗り込んだ。
車に揺られながら思い出を振り替えると、十年間は長いようであっという間だったかもしれない。たくさんの悲しみや苦しみがあった。だが、その分。いや、それ以上に楽しいことや嬉しいこともあった。


「また十年後」


そう約束して、それぞれがそれぞれの場所へ戻った同窓会。再会する頃には、僕はどうなっているのだろうか。皆、今よりずっと大人になっているのだろう。それでも、僕は思うだろう。
「あの頃と変わってないな」

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