月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

参輪目 菫

裕人先輩と初めて出会ったのは、今から二年前のこと。秋雨が冷たい日だった。
元々、僕と先輩は同じ趣味でネット上で会話し、同じ事で遊んだりもした。何度も会話しているうちに「実際に会ってみよう」という話も出てきた。気も合うし、何より僕自身が会ってみたいと思っていた。
そして迎えた約束の日。とは言うものの、その日は古いパソコンを譲り受けることが、主な内容だった。だが、この事がきっかけで互いの距離は縮まったのは言うまでもない。メールに外食、他にも二人で様々な場所へと遊びに行った。
様々な所へ行ったうちの一つに、出かけた先で一緒に月食を見た事もある。見に行った車の中で僕は裕人さんと、曇りだした空を見上げてた。
「月、見えなくなっちゃいましたね」
「見えなくなったね」
彼はそう言い肩を抱き寄せ、僕はそっと頭を預ける。慣れていないのか、少しぎこちない感じで撫でてきて落ち着かない感じでもあった。
「どうしたんですか? なんか、落ち着かないんですか?」
「そりゃ、こんな可愛い子が隣にいて頭を預けてくれてるし。そんなんで、落ち着くわけがないさ」
「え? か、可愛いって、僕がですか?」
「そうだよ。まこちゃん可愛い」
「うー。そんな事、ないです……」
恥ずかしさで顔から火が出そうになる。赤くなってるのを自分でもわかっていて、裕人さんに顔を埋めた。
「まこちゃん、照れてる。よしよし」
「誰のせいですか……」
軽くぺしぺしと叩いて抗議し、恥ずかしさを紛らわす。そんな僕の事を撫でながら、茶化してくる。
「まこちゃん、顔上げてくれる?」
上から声が降ってきて「何ですか?」という感じで、彼から離れ視線を合わせる。そして、考える間も無くそのまま顔が近づき、唇が触れ合った。その事に驚き動けないでいると、そっと頭を撫でられた。
「ごめん。可愛らしくて、我慢できなかった。嫌だった?」
「いえ…… その…… 嫌じゃないです」
なかなか治まらない高まりのせいか、小さな声でぎこちない言葉を僕は返す。まさかとは思った。未婚とはいえど、いれば娘ほど年が離れている僕の事をとは思わなかった。
「こんな歳になって言うことじゃないかもしれないが、初めてなんだ」
「え、そうなんですか?」
「うん。好きな人とかは流石にいたけどね。こうやってキスするのは初めて」
恥ずかしそうに、言葉を紡ぐ裕人さん。なぜか僕も恥ずかしくなって、向けてた視線を逸らす。鼓動が五月蝿い。聞こえてしまうのではないかというくらいに。
「まこちゃん」
そう呼ばれながら、抱き寄せられる。僕は温もりを感じながら、何か言おうとしている彼の言葉を待った。耳元に息がかかるほどの顔の近さに、先程のことを思い出してしまう。その間も鼓動は全く治る気配を感じられず、むしろ余計に早くなるばかりだった。そうして少しの間沈黙が続いたが、彼がそれを破った。
「好きだよ、まこちゃん」

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