月夜に提灯、一花咲かせ

樫吾春樹

捌輪目 白金言花

今年も残り一ヶ月となった師走。仕事も増えて来て、コンテストも大詰めである。
「今日も疲れたー!」
この時期では珍しいらしく、午前中のうちに仕事が終わり帰宅。そして僕は、布団に倒れこんで少しの間微睡む。だが、メールの受信音が鳴り目を覚ました。
「編集の小野さんからか」
僕の担当編集者の小野雅司おのまさしさん。彼から、進捗確認のメールだった。書いた分を添付し、送り返す。そして、そのまま小説の続きを書き始める。僕は下書きまでをノートに書き、清書はパソコンで打ち込むという形にしている。その方が僕にとっては、慣れていてやりやすいからである。
「さてと、お昼にしようかな」
冷蔵庫の中にあるもので、有り合わせのものを作り始める。作り終え机に運ぶと、再びメールの音が鳴った。今度は誰だ。そんなことを思いながら、受信ボックスを開く。川瀬翔太かわせしょうた。その文字を見て、僕は嫌な気分になる。
「あいつは、まだ引きずってんのか。いい加減にしてくれよ……」
それは、元彼からメールだった。やり直してほしいだの、まだ好きだの。そういった内容が書き綴られていた。仕事もまともにせずに、僕に奢られて気づけば半年が過ぎた。流石に僕とて我慢の限界で、ついには別れを告げた。自分でも、よく半年以上付き合ったなと思った。恋は盲目と言うが、初めの方はそういう風には見えてなかったんだろう。
「はあ…… さてと、仕事しないとな」
メールを削除し、代わりにパソコンで執筆を始める。小野さんに送ったのとは別に、新しい小説のプロットを書き出していく。ネタはいくらあっても足りない。その中から、自分が良さそうと思うものをまとめていく。そうしていると、自然と僕の指が動く。
それから気づけば数時間が経ち、時刻は十八時。
「もうこんな時間か。そろそろご飯を食べて風呂に入らないと、明日も早いからな」
執筆する手を止め、僕は夕食の準備を始めた。昼間の残り物だが、僕にはそれで十分だ。
ここで、暮らし始めてから半年。いまだに慣れないことは多いし、一人だから寂しいと感じることもある。だが、裕人さんに支えられたりしてなんとかやってこれている。これから先も、この仕事を続けられればと思う。
「お風呂ー。久しぶりにお湯に浸かりたいかな」
湯船にお湯を張り、肩まで浸かる。これから始まる多忙な年末に向け、しっかりと体を休めなければ途中で倒れてしまう。そうなると、先輩達に迷惑がかかる。それだけは、避けたい。
お風呂に浸かりながら、明日はどこだったかなと僕はぼんやり考えながら、体を休めるのだった。

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