男装の王太子と側近の国ー北の国リールの物語ー

ノベルバユーザー173744

アイドこと、アルドリー。

スートたちは、自分達と同年代の青年の言葉や説明に息を飲む。

自分達で一番文官として行動範囲が広いカイル以上に情報量が多く、カイルが差し出した無色の紙に、ざっと浮かび上がるのはこの世界の共通言語シェールディア文字。

「カイル。これがざっとみた、するべき国を富ませる作業工程。これは内政、財政、農工業はまとめたよ。で、外交に、国を守るスート達騎士の配置図。本当はね?もうちょっとろくなのいるなら楽なんだけど、さっき聞いたんだよね。タイム兄さんに。騎士団の人数。で、手っ取り早く、明日にでも街に小さい自衛団を作った方が安いよ。それにね?給料も」

ピーンと真っ白な紙を弾いたアイドは、ワーズに渡す。
真っ青になったのは、今まで形ばかりの騎士団……スート達除く……に渡されていた金額の多さ。

「こ、これは……あの、アイドの前で言うのはなんですが、ぼったくり、国庫を傾ける重罪……って返納してもらうの無理ですかね?」

温厚なワーズの切れる前兆……頬がひきつり、目がつり上がる。
後ろから覗き込んだスートと、タイムの弟で農業関係の仕事にワクワクしていたナイアが青ざめる。

「こ、こんなにくすねてたのか!あいつら!」
「この第一騎士団長って馬鹿の給料だけで、肥料馬車何台も買えたのに~!それに品種改良……」
「それは六槻むつきが渡した新しい種でなしにして。何なら、温室も作るから」
「温室!」

くわっ!と目を見開く。

「本当ですか?やったぁ!」

喜ぶナイアの横で、額に血管が浮き出ているワーズが止める。

「高いんですよ!高いんです!どうするんですかぁぁ!」
「ん?近くに良い材料があったんだよ。で、町の人たちに頼んで、あの町の中心部に一つと、王宮に一つ作るんだよ。町の中心部には冬の間憩いの場として過ごせるようにベンチとか、ティースペースを安価で提供。暖房の心配をしているかもだけど、ここからもう少し行ったところに地下から温泉が湧いているから、それを、ここまで流すんだよ。地下にパイプ通して。将来的にそっちにリゾート地を作ったりしても良いと思うよ。観光産業がないぶん、そういうのに手をつけるべきだね」

再び白い紙を数枚弾き、地図に設計図、温室の場所を示して見せる。

「でも、この地域は大雪で……ガラスも高いし……」
「ん?アルドリー合成樹脂知らなかったっけ?」
「シェールドの技術でしょう?こんな別大陸の北の外れに、技術を提供してもらうのにいくらかかるんですか!」
「ん?俺が作るんだけど?」
「はぁ?」

唖然とする3人に、今まで黙っていたヴァーソロミューが、

「アイドはね?16歳まで術を封印していてね?まだ封印は解けてないけど、漏れ出る術で逆に自分が疲弊するから、何かにバンバン使わせることにしたんだよ。だから、自分の名前つき。で、ここに来るまでに、小遣い稼ぎしてきたんだよね?」
「そうそう。でも、ここには滞在させてもらうし、無駄な術力をある程度まで削いじゃいたいからほぼ無償で作れるよ?」
「でも、それってなんですか?」

スートは聞く。

「うーん。カイルなら解るかな?術の展開計算式。そこら辺にあるものに触れたら、構成式が頭に浮かぶから、それを一回バラバラにして、ぎゅって圧縮?」
「圧縮?って、首傾げないで下さいよ!」

カイルは叫ぶ。

「そんなの、マルムスティーンのエリファス・レヴィさま並みの『こうしたらできたんだよ?アハハ~!』じゃあるまいし!」
「だって、出来るんだもん。来る途中に拾った石、金剛石つきだったから勿体なくてしまってたけど、金剛石のけて、残りで作ろうか?」

バッグから取り出したのは、今日聞いたばかりの、この周辺の鉱山で当たり前のように出るくず石。
しかし、アルドリーが手の平に乗せると、一瞬にして固体が液体に変化する。

「あっ!危なかった……」

言いながら、空いていた手でその液体に指を入れ、幾つかの成形された宝石になる。

「これが金剛石。最も固い石。で、よっと四角くガラスの大きさに圧縮構成」

誰もいない場所に投げた液体は何もない壁に広がり、四角いガラスのようになった。

「ざっとこんなもんかな~?あ、この金剛石!買い取るから!取り上げないで!」
「い、いえ……それは、で、アイドのものですから、どうぞ」

金銭に厳しいワーズでも、ただ拾った石から宝石が出たと言うのも信じられない上に、目の前に現れたガラスらしきものに引き寄せられるように立ちあがり、触れた。

この地域は雪が多く、ガラスでは重みが耐えきれず粉々に砕ける。
その為、明かりとり程度に城ですら用いていないのだ。

「壊れませんか?」
「ん?化学式と言うか構成式無視してるから、軽いし丈夫だよ?」
「……はぁ?この軽さ!それに透明なのに叩いても割れない!」
「えっ?ほんとか?……うわぁ……マジだ。すげぇ!」

スートもナイアもポコポコ叩く。

「だからね?町の活気のためにも、町の人たちに手伝ってもらって、町を変えていくんだよ。で、自警団も。自警団に町の温室を管理してもらって、女性も入れるようにすれば花を植えたり、温室のティースペースで仕事もできる。ティースペースの収入や、国から支援金としてぶっ潰した所から横流し。それに、エレメンティア殿下にもっとお金渡してあげようよ。もう、あんなに可愛いのに、質素でシンプル・イズ・ベストって……可哀想すぎる。さーやや六槻と変わらないのに」

完全なるシスコン、アイドは嘆く。

「この金剛石、蒼記に渡して、献上するから、ね?」
「蒼記……?」
「あ、セディだよ。執務室で軟禁中の俺の弟。手先が器用だから、大丈夫」

先程のことを見せられた3人は、あれ以上の物をみるのかと遠い目になる。
その横で、カイルは、

「アーサー殿下……セディは手先が器用で、楽器演奏や装飾品を自分で作られるんだ。天性の芸術肌。逆にアイドは天才肌の戦闘特化型。でも、アイドは政治家としても執政者としても、あのシエラシール卿に叩き込まれているから、これでもらくらくですよ」
「う~ん。16で戻ってから、俺の部屋にへーかの書類とか書類とか……置いてあるんだよね。その上居所不明になることもしょっちゅうで、シエラ父さんが見つけてはぶん殴って連れ戻して、で、脱走するから、待ってても仕方ないと、18からはほとんどしてるよ。向こうの量に比べたら楽勝」
「へーかって」
「実父。でも、2歳から育ててくれたのはシエラ父さんとシュウ伯父さんだから。最初は一応アレク父さんって何とか言ってたんだけど、父さんって言うか、公ではへーかだから、へーかで良いかと思って。それに、今度3歳になる双子の妹弟は、俺のこと『パパ』って呼ぶんだよね。まぁ、セイラさんも子育てに向いてないから、ルゥが母親代わりしてて、本当は結婚前にと思ったけど、ルゥ、子育てもあるのと、俺達、特にさーやの家庭教師として半分後宮に住んでたし……」

ため息をつく。

「俺は、蒼記と騎士の館に入ったから、本当にほとんど任せちゃって、必死に2年で卒業したら、『パパ~!』だよ。目眩がしたよ。兄さん覚えてるよね?」

カイルは目をそらす。

「えっと、へーかが自分がパパだと言い聞かせようとしたら、お二人がギャンギャン泣き叫び、ルエンディードさまとセイラさまに回し蹴りと、急所攻撃に首を絞め、面白がったセイラさまの母上が一緒になって、『実験台』にしてらっしゃいました。えぇ。で、余りにも泣くので、エドワード殿下が、アヴェラート先代陛下の遺影を示して『あの方が二人のパパだよ?』と繰り返してました」
「それがどうして俺がパパ!」
「似てるからでしょ。妹姫うり二つ。恐るべし!あのお二人から、どうやったらこの顔がって、諸先輩方がおっしゃってました。レイ・ディーア姫も、遺伝子組み換えレベルです」
「何気に失礼だよね、カイル兄さん」
「あのへーかとセイラさまの間に、この顔が生まれている自体が奇跡ですよ!」
「俺は父方の祖父に似たの!隔世遺伝!蒼記は母方の祖父。さーやは父方の祖母、アーデルハイトは俺寄り。で、可哀想なのは……アルトゥール……顔だけへーかに似ちゃって……」

嘆く。

「性格は蒼記をもっとのんびりした感じなのに、顔だけ!まだ、似るならセイラさんの方がましだった!」
「アイドも何気に失礼だよね」

アハハ~!

ヴァーソロミューは笑う。

「4人で出掛けているのを一応様子を見てたら、『お嬢さんはパパに似たんですね。えっと……坊っちゃんはキリッとした眼差しで……』って言われてて、吊り目も似ちゃったんだよね?」
「アルトゥールがぐれずに真っ直ぐ育ってくれたら、お兄ちゃんは嬉しいです……と、はい、全部書き込み終了。あとはそれぞれの大臣とかには引き継がず、陛下と殿下にこれとこれ、書き込んでもらう決裁書はこっち、で、王弟夫婦には口出しさせないこと。で、外交は……スート兄さんとカイル兄さんの義父どの……クリストフ・エニエストン卿がと聞いたことがあるから、ミュー兄さんとの交渉をお任せしてもらえるかな?」

スートとカイルは顔を見合わせる。

「あ、親父は……一応会議に顔を出してるだけで、そういった役目を嫌がるんだ」
「そう。陛下の幼馴染みで、近すぎると権力を王弟殿下に取り上げられたから」
「できる人を潰すのが馬鹿だよ。で、できる人を表舞台に戻さないのはもっと馬鹿。義理とはいえ息子なら、父親にそういうべきだよ。うちのへーかは、政務より外の方が生き生きしてるからね……もう諦めた」

アイドは立ち上がる。

「はい。まずは、ミュー兄さんとの交渉をお願いしておいて、俺は動かないと。タイム兄さんとナイア兄さんについてきてもらうよ。森の様子と、石をあれこれするから」

と、扉が開き、ミューゼリックとフィアが顔を覗かせる。

「あ、僕も着いていくよ」
「あれ?フィア兄さん、眠れた?」
「うん、それに、シエラ兄様が今度は六槻ちゃんとデュアンと寝てるから。僕も、この国見てみたいしね」

一眠りしてスッキリしたらしい。

「じゃぁ、行こうか、兄さん」

アイドは歩き出したのだった。

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