男装の王太子と側近の国ー北の国リールの物語ー

ノベルバユーザー173744

美貌の他国の王太子と柄の悪いハニードラゴン

「今日は、本当は六槻ちゃんと寝てたんだよ~?なのに、何で暑苦しい男を滅多うち~?」

ブーブーと長い髪を束ね、三つ編みにしながらフィアは拗ねる。

「フィア兄さん……眠たいのは解るけど、カイル兄さんたちって後輩でしょ?」
「鬱陶しい、暑苦しいのはいらない~‼」
「フィア?突然空間移動して来てるんだから、挨拶しなきゃ……上司命令」

こちらはアイドの髪を編んでいたヴァーロの一言に、はっとしたフィアは大きく溜め息をつき、

「……初めてお目にかかります。私は、マルムスティーン侯爵の第2子リュシオン・フィルティリーアと申します。年は、28です。よろしくお願いいたします」

優雅に頭を下げる。

「……え?に、にじゅう……」

スートとタイムは唖然とする。
その顔に憮然としつつ、

「本当に、昨年16の月に28だから‼確か、スートどのより3才上‼ついでに僕の一族は長命で、ある一定の年齢を過ぎると、成長が緩やかになるんだよ。ちなみに、僕の母さまとアイドの父親が姉弟。アイドの母方の曾祖父さまと僕の父方のお祖父さまが兄弟。シエラ兄さまは僕の父さまの従兄弟。僕の父さまの両親と、兄さまの両親が兄弟姉妹同士だから」
「えっと……シエラシール卿はお母様に似ているのですか?」

タイムはその説明で、フィアの母がシェールドの王の姉と理解したらしい。
フィアは真顔で、

「僕は父さまに似たんだよ?もし、母さまに似たら、アル……アイドやアイドの妹姫に似ちゃうもん」
「はぁぁ‼」

ぎょっとする二人にアイドは、照れつつ、

「俺……何故か両親に全く似てなくて……父方の祖父母の良いところを貰ったみたいで……エリー伯母さまにも似てるので……」
「あ、アイドの二つ下の妹姫の方が似てるかな?」
「じゃぁ……弟の……」
「あ、蒼記……セディは母方の祖父に似ています。俺たちには16才下の双子の弟と妹がいて、弟が父に似ています」

長身だが、絶世の美貌の青年は微笑む。

「妹が俺に似ていて、恋人と下の双子を連れて出掛けていると時々お子さんですかって言われます」
「可愛いんでしょうね……」
「えぇ。ねがいのぞみは、俺と恋人が育てているようなものなので……」

デレデレ……まだ19歳のはずが、父親の顔になっている。
真顔で、フィアは、

「こっちの陛下がねぇ?全く子育てしなくて、その上、正妃さまが破壊魔神なんだよね……毎日殴りあいの大喧嘩で、今回は、びえびえ双子殿下を家の姉さまが連れて帰って面倒見ているよ」
「はぁぁ……本当にルゥには申し訳なくて……それに、俺も忙しくて……嫌われてたらどうしよう……フィア兄さん……」
「いやいや、姉さまがアイド嫌いにならないから。姉さまこそアイドに嫌われたらって言ってるよ?」
「そんな訳ないよ‼ルゥは俺のわがままで結婚できなくなって……でも、大好きだったし……」
「と言うか、姉さま王位継承権あるから、一般に降嫁出来ないでしょ?だからマルムスティーン侯爵家の当主になるか一般に降嫁か、どうするか父さまに聞かれた時に、『冒険者になる‼』って言われて、父さまサメザメ泣いたみたいだもん」

フィアの一言に、カイルは遠い目をする。

「ルエンディードさまって、そんなに行動派だったんですか?」
「そうだよ。普段着でおらぁぁって蹴りしてるだけじゃないんだよ‼僕よりも姉さまの方が王位継承権あるぶん、危険だったんだからね‼」
「って言いながら、ハニードラゴン団長の方が突撃特攻団長で有名じゃないですか……」
「もうやめたもん‼僕には六槻ちゃんと兄さまたちがいるもーん」
「そう言えば、ご婚約おめでとうございます、先輩」

カイルの一言に、無表情かムッとした顔が多かったフィアがテレテレと言うよりもフワフワとした顔になる。

「ありがとう~あのね?あのね?アイドが姉さまと結婚してから、結婚するの~招待するね~」
「そう言えば、ルー団長やカイ先輩が結婚したそうで……」
「あ、カイ兄さまの奥さんはね?アイドの義理の叔母さんに当たるんだよ。あのカイ兄さまがプロポーズしたんだって」
「えっ?あのボケの⁉」
「綾ちゃんって言うんだ……」
「あ、ここです」

訓練所を示す。
実は追い払った役立たずが集まっていて、一触即発状態だったらしく、

「スート団長‼」
「おう、どうした?俺は、王太子殿下の命令で客人を案内していたのだがな……」

中に入っていくと、昨日叩きのめした青年たちがボロボロの状態でも険しい顔で迫っている。
じっくりと周囲を見回したフィアは、振り返る。

「……団長‼」
「何だい?」

長身のヴァーロは微笑む。

「団長。僕……お願いがあるのですが?構いませんか?」
「内容次第だね」
「団長?ここを見たところ、スート団長やタイム副団長の正装と同じ衣装の団員はいませんよね?」
「あ、申し訳ございません。部下たちは交代で食事を取る為と交代で街に……。それと、殿下の傍には我々がと言うことでしたので……」
「申し訳ございません」

二人は申し訳無さそうである。

「あぁ、それは解るよ。先程から街に向かう君たちの部下を見ていたし、それに、ここではない訓練所で特訓でしょう?」
「よくお分かりで……」
「……でも、ここにいるのって……何?訓練は?」

ヴァーロは微笑む。

「役立たずの上に腕に自信もないのかな?なまくらの剣でこの国を守れるのかなぁ?」
「あ、団長‼俺……私にさせてください‼」

ニッコリと前に進み出たのは端正な青年。
黒髪と瞳の美貌の人物。

「あ、アイドだけってダメだよ~。僕が兄弟子だよ~?でもって、どんだけなまくらになったかカイル……鍛えてあげるから、ね?」
「……ここの一団よりも、先輩とアイドの方が怖いです……」
「はい、行ってらっしゃい‼」

ヴァーロの一言に、一気に部隊の中に飛び込んでいったアイドの一振りに、唖然とする。
ただ、左腕で凪ぎ払っただけで、十数人が吹っ飛んで行くのだ。

「アイド~?僕のも残しておいてね~?それにカイル?僕より少ないと、特訓‼」
「わぁぁ~‼行きます~‼」
「ついでに、スート団長やタイム副団長も僕より少ないとか体力ないと、特訓だよ~?」
「どはぁぁ‼行ってきます‼」

顔色を変えた3人は飛び込んでいったのだった。

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