男装の王太子と側近の国ー北の国リールの物語ー

ノベルバユーザー173744

国王陛下がわざわざご挨拶です。

「まずはご挨拶を……」
「いえ、お父様。後でご挨拶をとのことです」
「いや……ご迷惑ばかりでは申し訳ない。ここから通り抜け、エレメンティアの棟に向かうか……」

呆気に取られる二人の前で、ちょいちょいっと指を動かすと、壁に寄り、石を一ヶ所押すとぼこっと入っていき隠し扉が開く。

「お、お父様?何で?」
「えっと……昔からあってね?うん」
「うんってお父様‼私の部屋ですよ⁉何で行けるんですか?」

ちなみに、国王は結婚が遅く、待望の子供がエレメンティアである。
小さい頃から国王の第一子として別棟に住まい、忙しい両親に代わり乳母に育てられていたのだが……。
と、国王は、

「だってだな⁉表では国王国王と追いかけ回され、エレメンティアの顔が見れんじゃないか‼待望の可愛い可愛いエレメンティアを‼寝ているときでいいから見ていたい‼ではないか‼だから、わざわざここが私たちの部屋だから、行ける部屋にと思ったのだ‼」
「……普通の王の子供が住まう部屋ではなく、あの部屋と言うのは……」
「エレメンティアの顔を見る為だ‼うんうん……そなたは可愛い子だ‼」

カイルは遠い目をする。
ここにも親馬鹿がいた……。
前に滞在した国の国王も変人だったが、馬鹿親だった……あ、親馬鹿だったである。

「陛下。急いでください。陛下がいないと大騒ぎになっては困ります」
「解った解った」

そのままで行こうとする国王に、ランプに灯をともし、扉を閉ざすと国王親子の後ろをついていく。
ちなみにランスもスルッと身軽にすり抜けて入っている。
ランプを国王に手渡し、そのあとを追いかける。

単純な作りでない石造りの城の隠し通路はある程度の広さがある。
そして……。

『空気が綺麗だ……』

ランスは呟く。

「風が流れているな。でも、この風は……」
「良く解るな。これは、定期的のこの城の周囲を走る風が吹く。その風が抜けるのだ」
「はぁ……あの怪音はこれでしたか……」
「ジェームスは知らぬよ。代々国王が伝えられるのだ」
「はぁ……これが化物城の謂れですか。良いことです」

このレーンの城は他国では魔物城とも呼ばれている。
白い魔物がいるとも……それがこれだったのかと思ったのである。

「よし、到着」
「ちょ、お待ちください‼陛下」

からくりを操作し、無造作に開けようとした国王の前に割り込んだ。

「……誰?」

扉の向こうから響いてきた声に、頭を抱えたくなりそうになりながら、

「申し訳ございません。カイルです。すぐに姿を見せますので、剣だけはお下げください」

と答え、すぐに姿を見せる。

「申し訳ございません。皆様。この国の王……ジェラード陛下でございます」

現れたジェラードが丁寧に頭を下げる。

「ようこそ、お越し戴いた。私がこの国の王ジェラード。ヴァーソロミューさま、ミューゼリックお久しぶりです」
「おや、いい具合に年を重ねたじゃないか。リーはまだ20歳くらいだよ?」
「リーと一緒にしないでください、ヴァーロさま。リーはもう、年止まってるじゃないですか。私はそれなりですよ」

けらけらと笑う二人に、周囲は硬直する。
一人ため息をついたミューゼリックは、答える。

「カイル、アイド、セディ、王太子殿下にデュアン。ジェラード陛下は、私の長兄のリスティルより3才年上で、共にこの大陸の大乱を収めた英雄のお一人だ。兄の親友でもある。で、兄同様……」
「あぁ、私も昔のリーのように自由にしたかったのだが、弟が……愚弟が国を滅ぼすと思って……もう嫌だ‼旅に出たい‼」
「た、旅‼」
「一応エレメンティアには黙っておったが、私はしばらく大戦後旅に出ておって、シェールドで騎士のくらいを得ておったのだ。王位も放棄しようと思っていたのだが、ジェームスが全く以て愚弟で……親父と母上が可愛がりすぎたのだな、遅くの子供で。いかぬと思い、戻って王位についたのだ。シェールドでは女王もおられるが、この地ではそなたも可哀想だろうと、一縷の望みを……」
「お父様‼そんな望みをサラに持つ方がおかしいです。きっぱり捨ててください‼私の一年を返してください‼」

エレメンティアは訴えるがその後ろで悲惨そうに、

「私の3年も……返してほしい」
「可哀想に……」
「って、思ってないでしょ‼アーサー殿下‼」

食って掛かるカイルに、ジェラードは、

「あぁ、やはり、シェールドの双子の王太子殿下であられたか……兄殿下は、お祖父様に良く似ておられる」
「はじめてお目にかかります。ジェラード陛下。私はアルドリーと申します。来春二十歳になります」
「そうであられたか……本当に、そのお姿では余り外には出られませんな……それに……」
「はじめてお目にかかります。私はアーサーと申します」
「おや?殿下は余り現国王陛下にも似ていらっしゃいませんな?」
「母方の祖父に似ていると言われます。良く知ってらっしゃるのですね?」

アーサーと本名を名乗ったセディはキョトンとする。
すると楽しげに、

「小さい頃の陛下の教育係をしておりましたから。あの悪餓鬼、相変わらずのようで」
「えぇぇ‼アレクさんの?」
「父上とは……?」
「無理です。カズールのシエラシール卿に僕たち育ててもらったので、シエラシール卿が父さんで、アレクさんか陛下と呼んでます」
「公では陛下で大丈夫ですし……それに私は余り表に出ないようにしています。住まいも別なので余り会いません」

アルドリー……アイドの言葉に、エレメンティアは、

「え?軟禁?」
「いえ、俺はこの顔なので、目立つんです。髪も切りたいのに切らせてもらえないから余計に目立って……」
「まぁ……ブラックと言うよりも、夜の空……ブルーゴールドストーン?」
「ブルーゴールドストーン?どんな石ですか?」
「えっ?この辺りじゃ当たり前に出る石で……魔除けに持つんです。これです」

ピアスのみ身に付けていたエレメンティアは示す。

「失礼して近づきますね?」

数歩近づき、じっくりと見たアイドは思い出したようにテーブルの上に置いていたものを取ってきて戻ると、差し出す。

「すみません。これ、この石は?」
「これは鉱山のくず石です。ただ固いだけで、他の石の質を下げるので、捨てているんです」
「えぇぇ‼本気ですか?これ、グランディアでは金剛石と言われて、最高強度の宝石ですよ⁉」
「はぁ?」

キョトンとする周囲に、身に付けていた指輪を見せる。
石にはもったいないほど違和感のある傷が着いていた。

「これは、ブルーサファイアです。金剛石の次に固い石です。金剛石は他の石の加工にも使えますし、金剛石のカットにもくず石で用いられます。この着いている石で、カットすれば小さくなるとはいえ、かなり純度の高い石ですから良い値段しますよ⁉金剛石はシェールドではとれないんです」
「えぇぇ‼」
「鉱山の権利は?誰ですか?」
「はい……わ、私ですが……」

恐る恐る手を上げるエレメンティア。
アイドは、

「エレメンティアさま、私は次の王として、貴方と……この国と友好な関係を望みます。この金剛石のことは、調査をミューゼリックさまから頼むことになるかと思いますが、確認され次第取引をと思っています。よろしくお願いいたします」

と優雅に頭を下げた。

「へ、は、はい‼よろしくお願いいたします‼私も共に調査に参加いたします‼私の名義とはいえ元は国のもの。国民に分配すべき財産です。ちゃんと管理を致します……その前に、屑石と思い、今まで調べもせずに放置していた自らが情けないです……」

項垂れるエレメンティアに、首をかしげ微笑む。

「貴女は頑張っていると思うよ?貴女は先程のサラと言う男よりも賢く、そして国を愛されている。それだけでも貴女は素晴らしい」
「あ、ありがとうございます‼」

深々と頭を下げたエレメンティアは、長身の青年と目が合い、頬を赤く染めた。
アイドは、化粧ひとつせずに絶世の美貌の持ち主である。
珍しいその姿に、父王は、

「おやおや、エレメンティアは美的感覚はマトモらしい」
「陛下‼あの王太子殿下は婚約者がいらっしゃるのですよ?」
「良いではないか。年の近いしかも賢い青年に憧れても、良いことだ」

カイルがたしなめても、嬉しそうににこにことその様子を見つめていたのだった。

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