男装の王太子と側近の国ー北の国リールの物語ー

ノベルバユーザー173744

アイドたちは、城門に向かいます。

先に直行したのは3人だけ。

一人、ヴァーロはランスから降り、街の入り口で物珍しげにやって来る人々ににこやかに微笑む。

「申し訳ありません。私は、ルーズリア王国リスティル国王陛下の親書を携えたラルディーン公爵ミューゼリック閣下の警護でヴァーソロミューと申します。私の部下二人とすぐに追い付いて参ります。申し訳ありませんが、こちらの街を守る方々は……?」
「……それが……」

礼儀正しく身なりも上品な青年に、集まっていた人の中で老人が、周囲を見て、小声になる。

「実は……ルーズリアの方。昨日、この国ではクーデターというか、溟海うみの向こうの大国の国王陛下を真似て遊び呆ける王太子を廃嫡にされたんですよ、陛下が」
「はぁ?シェールドの国王陛下のようにと言うと、職務放棄してどっかに行っては、異国から不法侵入してシェールドにしか生えない草花の乱獲とか、生き物を盗む馬鹿をギタンギタンに伸して、取っ捕まえて帰ってきたりですか?」
「え?女好きで浮気性の国王陛下では?」
「あぁ、女好きですが、自分に近づいて地位を得ようとする下心ある女性を、こっぴどく振ってしまう冷たい面もありますね。じゃぁ、他にはアレクは王宮から逃げ出しては国を一人で回り、生活について自分で見て歩く人間ですね。弱い立場の女性や子供、御高齢の方を大事にして、何か不自由はないか、心配しては孤児院や病院に寄付をしています。そういうことですか?」
「えぇ?いえ、王太子は元々王弟殿下の息子で、陛下にはエレメンティア姫様しかおられず、エレメンティア姫様の夫として結婚させて王太子になりました。すると、王弟殿下や王太子が豪遊をして……あ、あの、その生き物は大丈夫ですか?」

ヴァーロは微笑む。

「はい。彼はシェールドの生き物でナムグという種族。名前はランスロットです。実は、彼はこちらのサー・カイル・エニエストンのシェールドに留学していたときのパートナーです。豪遊……アレクは酒場で大暴れしていた馬鹿を見つけて殴り飛ばして追い出し、持っていた有り金全部をお店に出して、『迷惑をかけた。嫌な思いを忘れてこれで皆で楽しく飲もう‼』とかありますが……?」
「いえ、女性にプレゼントするドレスに宝石に、別荘を作れとか……結婚しているのに王妃さまであるエレメンティア姫様をないがしろに……それで、昨日は王宮で辺境伯や大臣の集まる重要な会議にいなくて、エレメンティア姫様が探したら、エレメンティア姫様のご親友と庭で……」
「……えーと、他国の高貴な身分の方に失礼ですが、馬鹿ですか?」
「答えようもありません。ですが、エレメンティア姫様は本当に賢く、お優しく、それでいて国のことを考えてくださっておられ、『王太子と別れる、私は国王陛下の娘。子供だから、私が王太子に』と。本当にお優しい姫様です」

周囲を見るとうんうんと頷いている様子から見て、王太子になったというエレメンティアの人心掌握能力というよりも国を愛して、人々を大切にしている様子が伺える。
と、向こうから空からナムグたち、それを追いかけるように、一騎の騎馬が姿を見せる。
身綺麗な盛装に、

「おい、スート。どうしたんだ?」
「見たこともない衣装だな」
「悪かったな。クズレ部隊から、王太子殿下付きの紅竜騎士団長に任命されたんだ」
「王太子……エレメンティア姫様か‼おぉ‼すごいじゃないか‼大抜擢だ」
「おめでとう‼」

周囲の声に照れつつ、長身のヴァーロに気がつくと、頭を下げる。

「申し訳ございません。王太子殿下の指示によりお客人のお越しは解っていたのですが、お迎えが遅くなりました。私は紅竜騎士団長スート・エニエストンと申します」
「ありがとうございます。ヴァーソロミュー・ギディ・フェルプスと申します。一応10日前に……」

その言葉に、スートは微妙な顔になり、

「お恥ずかしい話ですが、昨日まで、前王太子殿下の机の上に放置されておりまして……カイルが見つけて……」
「……いや、君はと言うか、エレメンティア王太子殿下も悪くないよ。前の王太子殿下の無能さがありありと……」
「本当に申し訳ございません」

情けなさそうに頭を下げる。
すると、空から降り立った4人が近づいてくる。

「団長。ミューゼリック閣下と」
「はーい、デュアンリールでーす!」
「こら、セディ。遊ばない‼」

フードを深く被った青年が、たしなめる。

「失礼いたしました。団長。アイド、セディ。任務を完了いたしました」
「良くできました」
「ヴァーロお兄ちゃん。抱っこ‼」
「ハイハイ。デュアンリールはあまえっこだねぇ」

ヴァーロは抱き上げる。

「おいおい」
「ミューゼリック閣下はお仕事がありますから、デュアンリールはお兄ちゃんと遊ぼうね?」
「うん‼」
「えと、申し訳ございません。私はスート・エニエストンと申します。ミューゼリック閣下。そして皆様、ご案内させていただきます」
「あぁ、ありがとう。では、行こうか」

ミューゼリックの声に、スートは馬を牽き歩き出したのだった。

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