魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

サイドストーリー11 親心

 4周年ということで、記念になるかわかりませんがサイドストーリーを投稿します!
 久しぶりにアーテル回です!



 私は今朝からずっと心が落ち着かないでいた。

「副団長……何だか、今日はずっとそわそわしてませんか?」

 訓練場で団員の演習を監督していると、フリージアがそそっと隣にやってきて話しかけてくる。

「べ、別にそんなことはないぞ」

「んー……あっ! 今日はユーリくんが報告に帰ってくる日でしたっけ? なるほど、それで……」

 フリージアは私の顔を見ると、ニヤニヤと笑い始める。

 何だ、と私は睨みつける。

「副団長は本当にユーリくんのことになると、可愛い顔をしますよねぇー」

「……私をからかっているのか?」

「いやいや、そんなわけないですよぉー、副団長は相変わらず親バ……子供も思いだなぁ――って痛い!? な、何で叩くんですかぁー!」

「今、親バカって言おうとしただろ?」

「い、いえ、そんなことはありませんよ?」

 フリージアは口笛を吹いて惚ける。

 こいつのお調子者ぶりも相変わらずだな。

「そうだ! 副団長、最近ずっと働き詰めでしたし、ユーリくんも帰ってくることですから、ここは私に任せて今日はお休みを取られてはどうですか?」

「何だ、突然」

「いつも副団長にはお世話になっていますし、愛するユーリくんが帰ってくるときくらい、ゆっくり親子団欒を楽しんでほしいという純粋な思いですよ!」

 フリージアは妙に目をキラキラとさせ、私良い部下ですよね? みたいな顔をしている気がするが、親切心なのは本当なのかもしれない……

「お前――――私と交代して演習をサボろうと思ってないよな?」

「(ビクッ)……な、何をおっしゃいまするのですか! 私は副団長のことを思って、申し出ておりますのでしてね」

「喋り方が変になっているぞ」

「あは、あは、あははははー」

 フリージアは笑って誤魔化そうとしている。

 こいつの考えていることは大体わかるんだ。

 親切心で、仕事を変わるようなやつじゃない。

 ……少しお灸を据えてやるか。

 私は殺気をやや込めてフリージアを睨む。

「ひっ! す、すみませんでした! 本当はほんの少しだけ思いました!」

「いや、謝らなくていいぞ。お前の気持ちはよーく伝わったからな」

「と、ということは……」

「安心していいぞ、ユーリが帰ってくるのは日没前だ。それまでお前のことは私がみっちりしごいてやるからな」

 フリージアが膝から崩れ落ちる。そしてブツブツと「もう終わりだ……私は終わった……」などと呟いている。

 終わりじゃないぞ、フリージア。

 楽しい特訓が始まるんだぞ。

「ふふふ」

「ふ、副団長が笑った……いやぁぁああ――グフッ」

 逃げ出そうとしたフリージアの首根っこを掴み、逃さない。

 さぁ、何から始めようか?

「た、助けてぇぇえええ!」

 訓練場にはフリージアの絶叫が日没まで響き続けた。



 ***



 フリージアの特訓に付き合っていたら少し遅くなってしまった。

 私は急いで広場中央にあるじじ様の家まで向かう。

 ユーリの調査報告はいつも長の家で行われる。

 私が丁度、長の家である巨樹にたどり着くと、その扉が開かれた。

「それじゃ、また来ます」

 扉からは私の背に、もうすぐ届きそうなほど背が伸びた愛しい息子ユーリが出てきた。

「あ、母さん!」

「ユーリ!」

 私は駆け出して、ユーリを思いっきり抱きしめた。

「えっ? ど、どうしたの? 母さん」

「いや、何でもない。ユーリに会えたのが嬉しくて、つい抱きしめてしまった」

「はは、大袈裟だよ。この間も会ったよ?」

「それは、5日も前のことだ」

 母というのは毎日我が子の顔を見ていたいものなんだ。

 ユーリは照れた顔で「母さん、みんなに見られてるから」と、私の腕からささっと逃れる。

 私は腕の中から離れてしまった温もりに寂しく感じつつも、ユーリを困らせてはいけないなと自重した。

「今日は、まだ時間はあるのか?」

「うん、セレーナもラルージュさんお義母さんのところに行ってるから、もう少しこっちにいるよ」

「そうか……夕飯はまだ食べてないか?」

「食べてないよ」

「よし、それなら家に帰って一緒に食べよう! うん、それがいい!」

「ふふ、そうだね」

 頬が緩む。

 ユーリと一緒にご飯が食べれる。

 私はそれだけで嬉しくて、幸せなんだ。

「ユーリが食べたいもの、何でも作ってあげるからな。何が食べたい?」

「そうだなぁ……」

 そんな他愛無い会話をしながら私たちは家に帰った。


「母さん、サラダはこっちに置いておくよ」

「ああ、ありがとう」

 久しぶりにユーリと二人で台所に立ち、料理を作る。

 座っていていいと言ったのに、ユーリは手伝いたいと言ってくれた。

 まだユーリが小さい頃は私が一から料理を教えていたのに、気がつけば私の隣で一緒に料理をしている。

 子供の成長は早い。

 ユーリは転生者で、特別なところもあるかもしれないが、それでも私の子供なのは変わらない。

 子供が今までできなかったことが、できるようになったとき自分のことのように嬉しくなる。

 ユーリが私の子となってくれたから、私はその喜びを知ることができた。

「ユーリ、私の子になってくれてありがとう」

 隣にいたユーリに、ポツリと私は言葉をこぼす。

「どうしたの、急に……俺の方こそ、母さんが俺の母さんになってくれてありがとう」

 ユーリは照れたように笑って、そのまま料理をテーブルへ運びに行く。

 胸がじんわりと温かくなる。

 私のことを母親だと思っていてくれるとわかってはいても、ユーリが言葉にしてくれたことが嬉しい。

「よし、食べよう」

「うん」

「「いただきます」」

 テーブルに広がる様々な料理。

 ユーリがどれから食べようか、次は何を食べようかと悩ましそうな嬉しそうな表情で食べていく。

 こんなに大きくなっても食べているときの表情は変わらないのだなと、つい笑ってしまう。

「顔に何かついてる?」

「何もついてないよ」

 そっか、と言ってユーリは気にせず食べ続ける。

「母さん」

「ん?」

「めっちゃ美味しい!」

「ふふ、そうか」

 ユーリと過ごす時間が、私にとっては何にも変え難い大切な時間だ。

 この幸せな時がずっと続くのであれば、他に何もいらないとさえ思えてしまう。

 でも、それは私のわがままで、ユーリは私のもとから巣立っていく。

 それは仕方のないことで、だからこそ――――

 私はいつでもユーリが帰ってこられるように、この場所を守っていようとそう思う。



 読んで頂きありがとうございます!!

 初投稿から4年……ここまで書いてこれたのは読んでくださる読者様がいたからです!
 本当にありがとうございますっ!
 これからも頑張ってまいりますので、どうぞ描い転にお付き合いください!

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