魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

63 王女様の依頼(前)

 市長の声かけでソファーに座る。

 俺を真ん中に左側にセレーナ、右側にリリーが座っている。反対側には王女様、一人用ソファーに市長が座った。

 先ほどから王女様の後ろに立っている執事風の男性……いや、もう執事で確定として、その執事が俺のことをじっと見ている。

 わかりやすいくらい見ているので、これは声をかけた方がいいのか?

 そんなことを考えていると、王女様がそのことに気がつき「スチュワード」と少し低めの声で呼ぶ。

 スチュワードと呼ばれた執事は「失礼いたしました」と頭を下げて、俺から視線を外した。

 謝罪一つにも一挙一動に無駄がなく、洗練されているなと思う。これがプロの執事。

「家臣が失礼いたしました。この者は私の側付をしているスチュワードと申します。先日のユーリ様のお使いになった魔法に感服したようでして、お会いできるのを楽しみにしていたのです」

「失礼ながら殿下、楽しみにされていたのは殿下であったと思いますが……」

「静かにしていなさい、スチュワード」

 王女様がそう言うと、スチュワードさんは口を閉じて無表情になる。王女様は「失礼しました」と言ってニコッと笑う。

「もちろん、私もユーリ様にお会いしたと思っておりました。ユーリ様はとても優秀な魔術師とお聞きしました」

「いえ、魔術研究が趣味みたいなものなので、自分よりすごい人は他にもいると思いますよ」

(ユーリ様、いないと思います)

 ん? リリーの視線が俺に向いてる。何か呆れに近いような表情をしているんだけども……。

 リリーとは反対にいるセレーナはどうやら俺が褒められて嬉しいのか、上機嫌になっていた。ずっと笑顔だ。

 それからしばらく他愛無い会話が続く。

 王女様は思っていたよりもずっと気さくな方だった。時折見せる少女らしい顔がより好感を持てる。

 勝手なイメージで、王族という人たちはもっと偉そうな人なのかと思っていたけど、実際は違うのかもしれない。

 少なくともエプレ王女様は民に慕われる素敵な人だ。

「ユーリ様」

 王女様が真剣な表情になる。

「今日、お呼びしたもう一つの目的をお話ししてもよろしいでしょうか?」

 和気あいあいとした空気から一転、王女様は緊張感を持って俺に問いかける。

「はい」

 短く、はっきりと応える。

「まず始めに、ユーリ様に助けて頂いたご恩を何もお返しできていないまま、お話しさせて頂くことをお許しください」

 俺は王女様の謝罪を真っ直ぐに受け止める。

 正直に言えば、そんなに謝る必要はないし気を遣わられるようなこともしてない。

 だけど、王女様の気持ちも何となくわかるから、しっかり聞こうと思った。

 俺は、俺が思っているよりも王女様の、この人の力になってあげたいと思っているのかもしれない。

「私たちを襲った賊の裏に、ある組織が関わっていることがわかりました。その名を「魔皇教団まおうきょうだん」と言います」

 魔皇教団……聞いたことがない。

「魔皇教団については?」

 俺は首を横に振る。

 ご説明します、と王女様は話を続けた。

 魔皇教団とは「魔皇」という存在を信仰する宗教団体である。

 その教団によると、魔皇とは圧倒的な魔力とあらゆる魔法を使いこなす存在であり、魔皇がこの世に現れたとき世界は生まれ変わるのだと言う。

 魔皇教団はその魔皇とやらを迎えるために活動しているというのが表向きの活動だ。

 その本質は魔術師至上主義に基づく、選民思想の集団である。

 魔皇教団に属する全員が魔術師であり、今回の賊もその魔皇教団の手のものであった。

 今までは目立った動きがなかった組織だったのだが、近年活動が活発化し始めている。

 今回の騒動に関して、その意図はまだはかりかねているが、よくない動きなのは確からしい。

「この都市に出入りしていた冒険者のテーレ・・・という男も魔皇教団に関係していたのではないかと睨んでいる」

 苦虫を潰したような表情で市長が言う。

 テーレか。確かにあり得そうな話ではある。

「ユーリ様にはこの魔皇教団の調査をお願いしたいのです」

 魔皇教団。

 この組織については直接的には俺に関係ないかもしれない。

 龍帝国の調査がある中、魔皇教団の調査は寄り道になってしまうと思う。

 だけど、俺は力になりたいと思っている……。

 俺は迷っていた。

 王女様の依頼を受けるべきか、否か。

 そんな時だった。

〈その少女の力になりたいのではないのか?〉



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