魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

44 六柱龍の神殿2

 わたし達は今、六柱龍の神殿という場所の中にいる。

 六柱龍というのは、この世界を創った6体の龍のこと。

 昔話の中のお話だと思っていたけど、神殿があるなんてビックリしちゃった。

 神殿の中はすごく綺麗で素敵だと思う。

 こういうのを確か彫刻とかって言うんだっけ?

 ユーリくんが神殿の中を明るくしてくれなかったら、よく見えなかったと思うし、やっぱりユーリくんはすごい!

「下へ降りてみよう」

「うん!」

 どこまでもユーリくんについて行くよ!

 わたしがユーリくんに返事をすると、続けてリリーちゃんとアカネちゃんも返事をした。

「はいっ」

「んっ」

 階段はとても長かった。幅はひと4人分くらいあったけど、ユーリくんを先頭にわたし、リリーちゃん、アカネちゃんの順に進んだ。

 下へ下へと進むごとになぜか緊張してくる。

 下には何かがあるような気がする。

 ユーリくんも何か感じているかな?

 わたしはユーリくんの背中を見つめながら、そんなことを考えていた。

 すると、急にユーリくんが止まった。

 考え事をしていたわたしは見事、ユーリくんにぶつかってしまう。

「わっ」

「大丈夫?」

「うん、ごめんね」

 考え事をしながら歩いちゃダメだね。気をつけなきゃ。

「どうしたの?」

「祭壇だよ」

 ユーリくんが指差す方を見ると、そこにはわたしの背の、倍の倍の倍くらいありそうな大きな石碑があった。

 階段を下り切り、石碑の前まで近づく。

「大きいですね。10トルメくらいはありそうですね」

「……何か書いてある」

『龍神の光を授かりしもの訪れるとき、光を求める龍の子に、六柱の灯が照らし導くだろう……』

 ユーリくんが石碑に刻まれた文字を読み上げた直後、わたしは白い光に呑まれた。





「あれ? みんな?」

 周りを見渡しても、ユーリくん、アカネちゃん、リリーちゃんはいない。

 一瞬だけ気を失った気がするけど、その間にみんながいなくなっちゃった……。

 この場所はさっきまでいた場所と変わらないと思うけど……いや、石碑がなくなってる。その代わりに、石碑があった奥に新たな通路ができていた。

「あの奥にみんな行っちゃったのかな?」

 ユーリくんはわたしを置いて先には行かないと思うけど、何かあったのかもしれない。

 どうしよう……。

 今のわたしは不安な気持ちでいっぱいだった。

 ユーリくんが側にいない。

 それだけで胸が苦しくなるほど不安で仕方がない。

 そうだ、指輪っ。

 左の薬指に嵌めている指輪からユーリくんの魔力は感じる。

 ユーリくんは無事。でも、どこにいるかわからない……。


『こちら……て……』


「誰っ!?」

 周囲を見渡しても誰もいない。なのに、声が聞こえる。

『こちらに、来て……』

 次はハッキリと聞こえた。

 女の人の声?

 新たな通路の方から、その声は聞こえる。

 奥に誰かいる。

「ユーリくん……」

 不安だ。怖い。

 どうすればいいのかわからない。

『こちらに来てください』

 大きな声ではないけど、その声は美しく力強かった。

 わたしは無意識のうちに一歩を踏み出していた。

 わたし……。

 なぜか奥に行かなければならないような気がした。

 わたしは恐る恐る奥の通路へと進む。

 通路の入口には右に3本、左に3本、計6本の彫刻された柱が並んでいた。

 こんなの無かったよね?

 ますます不安になりつつも、わたしはその柱を通り過ぎて更に奥へと進んだ。

 通路は一直線に続いていて、道幅も広い。しかし、かなり長いようで先の方は見えない。

 そう言えば、ユーリくんがいないのに明るい。

 ユーリくんもこの通路を歩いているのかな?

 そんな期待を抱きつつ、わたしは駆け出した。



 通路を抜けると、光が大量に差し込んできた。

 まぶしいっ。

 少しして目が慣れてくると、目の前は広間だとわかった。

「ユーリくんは……」

 広間を見渡したとき、その人が真っ先に目に入った。

 すごく綺麗な人だ……。

 淡い青色の集落の服に似た美しい服を着た女の人。地面ぎりぎりまで伸びた長い髪は、服と違って深い青色をしていた。

 顔はお面のようなものをしていてわからない。

 だけど、不思議と怖い感じはしなかった。

『こちらに来てください』

 その声を聞いて、この人がわたしを呼んだのだとわかった。

 わたしは目の前にいるその人の方へ近づく。

『初めまして。私は六柱龍が一柱、水の柱龍クヴェルと申します』

「あ、えーと、わたしはセレーナと申しますっ」

『緊張しなくても良いですよ』

「は、はい……」

 丁寧な挨拶と、尊厳さのある雰囲気で私は緊張してぎこちなくなってしまう。

 水の柱龍クヴェルさん……水の柱龍……水の柱龍…………。

「えっ!?」

 み、水の柱龍って、昔話に出てくるあの六柱龍の!?

『ふふ、驚きましたか?」

「あ、申し訳ありませんっ!」

 わたしはすぐさま膝をつき、頭を下げる。

 わたし、すごい人に出会っちゃったよっ。

『気にしなくても良いのですよ、龍の子。顔を見せてください』

 わたしはそう言われて、恐る恐る顔を上げた。

『あなたは力を求めてここに来たのでしょう?』

 ちから……?

『大切なものを守る力が欲しいとあなたは願っている』

 大切なもの……あっ、そうだ! ユーリくん!

「お話の途中に申し訳ありません! クヴェル様、ユーリくん……人族の少年を見かけませんでしたか? わたし、逸れてしまったようで……」

『その少年たちなら大丈夫ですよ。あなたのすぐ側にいます』

 わたしは周りを見る。けれど、どこにもユーリくんたちはいない。

 どこに……。

 クヴェル様の顔を見る。

 ユーリくんたちはいない。でも、クヴェル様が嘘を言っているようには思えなかった。

『あなたに力を授けたら、すぐに会えますよ』

 わたしはクヴェル様の言葉を信じることにした。

「あの……力ってなんですか?」

『簡潔にお答えするならば、私の加護を与えるということです』

「えぇっ、クヴェル様の加護を、わたしが!? ど、どうしてですか?」

『あなたにはその資格があり、そしてそれを望んだからです』

 わたしが望んでいた……。

 自分ではよくわかっていなかったけど、確かにわたしは心の中で力が欲しいと思っていたのかもしれない。

 ユーリくんに守られるだけじゃなくて、ユーリくんの隣に立って、ユーリくんを守れるくらいの力が欲しいと。

 ユーリくんが遠くに行ってしまわないように、わたしが強くなってどこまでもついて行きたい。

 自分に正直になれば、想いや願いは溢れ出てしまいそうだった。

 わたしは怖いんだ。

 ユーリくんがまたいなくなってしまうことが怖い。

 わたしが無力で、何もできないことで、ユーリくんを失いたくない。

 ずっとユーリくんの側にいたい。

 それには――――


『クヴェル様、わたしに力をください』


 ――――力が必要だ。





『セレーナ、あなたに力を授けます』

 それは簡単に、しかし確実にわたしの中に宿った。

 わたしは『水柱龍の加護』を授かった。



 読んで頂きありがとうございます!!

 更新が遅くなり、申し訳ありません……。
 リアルの方が忙しくて……しかし、一旦落ち着いたのでまた更新頑張りますっ!

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品