魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~
34 魔力の知覚
異空間の外に出ると空は明るくなっていた。
空の淡い青の下、太陽に照らされて様々な緑は鮮やかに映える。
鳥のさえずりが穏やかな朝を知らせる。
日課の鍛錬を終え、俺は家に帰るのであった。
***
「今日はリリーの魔力コントロールを見たいと思う」
朝食を終え、今日の予定を宣言する。
俺の試験は明日。どんな試験かわからない以上準備のしようがないので、今日は弟子の修行を見ることにした。
宣言を受けたリリーは目を輝かせるも、すぐに不安な顔を見せる。
どんなことを考えているかは想像できる。
今励ますのは簡単だ。
だけどもっと有効的なことを思いついた。
みんなで家の前に移動。
俺の前には不安顔のリリー、そしてやる気満々のセレーナ。少し離れた位置からアカネがつまらなそうに俺たちを見ている。
「……セレーナさん?」
「わたしも一緒にやりたいなぁ……ダメ?」
セレーナが(天然の)小悪魔的上目遣いで聞いてくる。
昨日の夜のこともあり、効果は抜群。
ユーリは魅了(小)になった。
「しょうがない。それじゃセレーナが手本になってあげてね」
「はーい」
「よ、よろしくお願いしますっ」
嬉しそうに返事をするセレーナ、対してリリーは緊張で声が震えている。
「以前、魔力を意識する練習を続けるように言ったけど、どうかな? 魔力を感じられるようになった?」
「はい、すごく集中できているときだけですが、魔力を感じられるようになりました」
うんうん、と俺は頷きながら弟子が魔術の道へ一歩目を踏み出したことを喜ぶ。
リリーが弟子となったその日に俺は魔力を知覚する練習をリリーに教えた。
やることは簡単で、俺が時々魔力を放出するのを感じ取るというものだ。
人は大なり小なり魔力を感じ取る力を持っている。感じ取りやすさは素質によって変わってくるけど、どうやらリリーは見込みありのようだ。
俺? 俺は『龍神の加護』と『魔眼』があるので、赤ん坊の時からバリバリ視えてますよ。そこ、チートとか言わない!
「よし、それじゃまず自分の魔力に意識を向けてみよう」
「はーい」
「はいっ」
2人が目を閉じた。
セレーナは自然体で、世界と一体化しているかのように見える。とてもいい状態だ。
逆にリリーは唸って、全身が強張っている。
「セレーナいい感じ。リリーはもう少しリラックス」
「……」
「は、はいっ」
セレーナの方が上手くできるのは当然と言えば当然なことで、経験値的なものもそうだけど龍人という種族的な要因は大きい。
人族のリリーより龍人族のセレーナの方が魔力の感じやすさ、魔力量は比べるまでもなく高いし多いのだ。
「セレーナ、魔力はどれくらい感じ取れてる?」
「……手が届きそうで届かない。どんどん広く深くなっちゃう」
セレーナの潜在的な魔力量は俺より上だ。母さんとの修行で、魔力の使い方までは習得したみたいだけど、魔力全体を掌握するのはまだ難しいそうだ。
贅沢な悩みだけど、魔力量が多いっていうのも苦労するんだよね。
「うん、セレーナは休憩。ちょっと休んでて」
「はーい」
俺は鉱石魔法を使い、セレーナのとなりに椅子代わりの石ブロックを創り出す。
「ユーリくん、ありがとう」
セレーナに頷いて、それから俺はリリーに向き直す。
「……ユーリ様、申し訳ありません。僕にはやはり才能が……」
俯いているリリー。表情は見えないが、きっと悔しさで顔を歪めているだろう。
「それはリリーが決めることじゃない。リリー、お前の師匠は誰だ?」
「ユーリ様……?」
顔を上げ、言葉の意味を求めるようにリリーは俺の目をじっと見つめる。
「リリー、よく聞くんだ。魔術師にとって一番大切なのは才能じゃない」
才能があるに越したことはない。だけど、それが一番じゃない。
リリーの真剣な表情を見て、改めて魔術師として大切なものをリリーは持っていると確信できた。
「魔術師にとって一番大切なのは『想いの強さ』だ」
「想いの強さ……」
「想いは何でもいい。何かを想い、それを魔法によって実現しようとする力が魔術師には大切なんだ」
リリーの目にはもう不安はない。
想いがそこにはある。
「もう一度やってみよう」
「はい!」
「次は俺も力を貸すから」
「え?」
リリーの肩に手を置く。
「それじゃ行くぞ」
「な、何をするんですか!?」
慌てふためくリリーを押さえつけながら、俺はリリーに魔力を流し通す。
「わ、わ、わ……な、何ですかコレぇぇえええ!?」
「これが魔力だよ」
本来、他の魔力は反発し合うもの――アカネの吸血など例外はある――だけど、『龍神の加護』のおかげか俺の魔力は性質変化が得意だ。
その特殊性を活かして、少し強引だがリリーに魔力の動きを感じさせる。
そうすることで一から魔力を感じ取るよりも早く、魔力を感じ取る感覚を体に覚えさせようという作戦だ。
それなら練習もせず最初からそれをやればいいという話になるが、知覚もできない状態でこれをやってしまうと感覚が麻痺してしまう可能性があった。
そのため知覚する練習も無駄ではないというわけだ。
「と、こんな感じかな」
リリーの肩から手を離し、改めて反応を伺う。
「す、すごい……ですっ」
頬を赤らめ、肩を上下させてリリーは興奮した様子だった。
「だ、大丈夫?」
ちょっとやり過ぎたか?
でも、魔力の状態を見る限り特に変わったところはないし……。
「大丈夫ですっ! でも、大丈夫じゃないです!」
「どういうこと!?」
「自分でやってみてもいいですか!」
「う、うん」
リリーの後ろからやる気という炎が燃え上がっているように見えた。
この目の輝きを見ると、なんだか昔の自分を思い出す。
魔法の書物を読んでは森で試すの繰り返し。でも、それが楽しくて仕方がなかった。新たな魔法を、魔術というものを知る度にワクワクが溢れ出る。
リリーもきっと今、そんな気持ちなのだろう。
「ユーリ様! 魔力が! 自分の魔力がわかりますっ!」
いつも気を遣っていて、どこか固かったリリーが子供らしく無邪気にはしゃぐ姿を見たら思わず頬が緩んだ。
「ユーリ様、ありがとうございますっ」
「うん」
喜びが伝染するようにセレーナも笑顔になる。ムスッとしていたアカネも、よく見れば優しい表情になっていた。
「よし、この調子で魔力を動かして、具現化できるようにしよう!」
「え? 具現化って……えっ? それって古代魔術の話ですよね……? 無理ですよ! 冗談ですよね?」
「簡単だって、ほら」
「え、え、えぇぇえええ!?」
結局、魔力切れ直前までやったが魔力を動かせるようにまるまでで精一杯だった。
しかし、ユーリたちは知らない。
人族の魔術師が数年かけて魔力を動かせるようになるということを……。
リリーが一日で魔力を動かせるようになったという異常さを理解するものは、この場にはいないのであった。
読んで頂きありがとうございます!!
今回はリリーの修行回にしました。
弟子にしたのに何もやってなかったので……。
物語を進行しつつ、時々修行回も書けたらと思います。
空の淡い青の下、太陽に照らされて様々な緑は鮮やかに映える。
鳥のさえずりが穏やかな朝を知らせる。
日課の鍛錬を終え、俺は家に帰るのであった。
***
「今日はリリーの魔力コントロールを見たいと思う」
朝食を終え、今日の予定を宣言する。
俺の試験は明日。どんな試験かわからない以上準備のしようがないので、今日は弟子の修行を見ることにした。
宣言を受けたリリーは目を輝かせるも、すぐに不安な顔を見せる。
どんなことを考えているかは想像できる。
今励ますのは簡単だ。
だけどもっと有効的なことを思いついた。
みんなで家の前に移動。
俺の前には不安顔のリリー、そしてやる気満々のセレーナ。少し離れた位置からアカネがつまらなそうに俺たちを見ている。
「……セレーナさん?」
「わたしも一緒にやりたいなぁ……ダメ?」
セレーナが(天然の)小悪魔的上目遣いで聞いてくる。
昨日の夜のこともあり、効果は抜群。
ユーリは魅了(小)になった。
「しょうがない。それじゃセレーナが手本になってあげてね」
「はーい」
「よ、よろしくお願いしますっ」
嬉しそうに返事をするセレーナ、対してリリーは緊張で声が震えている。
「以前、魔力を意識する練習を続けるように言ったけど、どうかな? 魔力を感じられるようになった?」
「はい、すごく集中できているときだけですが、魔力を感じられるようになりました」
うんうん、と俺は頷きながら弟子が魔術の道へ一歩目を踏み出したことを喜ぶ。
リリーが弟子となったその日に俺は魔力を知覚する練習をリリーに教えた。
やることは簡単で、俺が時々魔力を放出するのを感じ取るというものだ。
人は大なり小なり魔力を感じ取る力を持っている。感じ取りやすさは素質によって変わってくるけど、どうやらリリーは見込みありのようだ。
俺? 俺は『龍神の加護』と『魔眼』があるので、赤ん坊の時からバリバリ視えてますよ。そこ、チートとか言わない!
「よし、それじゃまず自分の魔力に意識を向けてみよう」
「はーい」
「はいっ」
2人が目を閉じた。
セレーナは自然体で、世界と一体化しているかのように見える。とてもいい状態だ。
逆にリリーは唸って、全身が強張っている。
「セレーナいい感じ。リリーはもう少しリラックス」
「……」
「は、はいっ」
セレーナの方が上手くできるのは当然と言えば当然なことで、経験値的なものもそうだけど龍人という種族的な要因は大きい。
人族のリリーより龍人族のセレーナの方が魔力の感じやすさ、魔力量は比べるまでもなく高いし多いのだ。
「セレーナ、魔力はどれくらい感じ取れてる?」
「……手が届きそうで届かない。どんどん広く深くなっちゃう」
セレーナの潜在的な魔力量は俺より上だ。母さんとの修行で、魔力の使い方までは習得したみたいだけど、魔力全体を掌握するのはまだ難しいそうだ。
贅沢な悩みだけど、魔力量が多いっていうのも苦労するんだよね。
「うん、セレーナは休憩。ちょっと休んでて」
「はーい」
俺は鉱石魔法を使い、セレーナのとなりに椅子代わりの石ブロックを創り出す。
「ユーリくん、ありがとう」
セレーナに頷いて、それから俺はリリーに向き直す。
「……ユーリ様、申し訳ありません。僕にはやはり才能が……」
俯いているリリー。表情は見えないが、きっと悔しさで顔を歪めているだろう。
「それはリリーが決めることじゃない。リリー、お前の師匠は誰だ?」
「ユーリ様……?」
顔を上げ、言葉の意味を求めるようにリリーは俺の目をじっと見つめる。
「リリー、よく聞くんだ。魔術師にとって一番大切なのは才能じゃない」
才能があるに越したことはない。だけど、それが一番じゃない。
リリーの真剣な表情を見て、改めて魔術師として大切なものをリリーは持っていると確信できた。
「魔術師にとって一番大切なのは『想いの強さ』だ」
「想いの強さ……」
「想いは何でもいい。何かを想い、それを魔法によって実現しようとする力が魔術師には大切なんだ」
リリーの目にはもう不安はない。
想いがそこにはある。
「もう一度やってみよう」
「はい!」
「次は俺も力を貸すから」
「え?」
リリーの肩に手を置く。
「それじゃ行くぞ」
「な、何をするんですか!?」
慌てふためくリリーを押さえつけながら、俺はリリーに魔力を流し通す。
「わ、わ、わ……な、何ですかコレぇぇえええ!?」
「これが魔力だよ」
本来、他の魔力は反発し合うもの――アカネの吸血など例外はある――だけど、『龍神の加護』のおかげか俺の魔力は性質変化が得意だ。
その特殊性を活かして、少し強引だがリリーに魔力の動きを感じさせる。
そうすることで一から魔力を感じ取るよりも早く、魔力を感じ取る感覚を体に覚えさせようという作戦だ。
それなら練習もせず最初からそれをやればいいという話になるが、知覚もできない状態でこれをやってしまうと感覚が麻痺してしまう可能性があった。
そのため知覚する練習も無駄ではないというわけだ。
「と、こんな感じかな」
リリーの肩から手を離し、改めて反応を伺う。
「す、すごい……ですっ」
頬を赤らめ、肩を上下させてリリーは興奮した様子だった。
「だ、大丈夫?」
ちょっとやり過ぎたか?
でも、魔力の状態を見る限り特に変わったところはないし……。
「大丈夫ですっ! でも、大丈夫じゃないです!」
「どういうこと!?」
「自分でやってみてもいいですか!」
「う、うん」
リリーの後ろからやる気という炎が燃え上がっているように見えた。
この目の輝きを見ると、なんだか昔の自分を思い出す。
魔法の書物を読んでは森で試すの繰り返し。でも、それが楽しくて仕方がなかった。新たな魔法を、魔術というものを知る度にワクワクが溢れ出る。
リリーもきっと今、そんな気持ちなのだろう。
「ユーリ様! 魔力が! 自分の魔力がわかりますっ!」
いつも気を遣っていて、どこか固かったリリーが子供らしく無邪気にはしゃぐ姿を見たら思わず頬が緩んだ。
「ユーリ様、ありがとうございますっ」
「うん」
喜びが伝染するようにセレーナも笑顔になる。ムスッとしていたアカネも、よく見れば優しい表情になっていた。
「よし、この調子で魔力を動かして、具現化できるようにしよう!」
「え? 具現化って……えっ? それって古代魔術の話ですよね……? 無理ですよ! 冗談ですよね?」
「簡単だって、ほら」
「え、え、えぇぇえええ!?」
結局、魔力切れ直前までやったが魔力を動かせるようにまるまでで精一杯だった。
しかし、ユーリたちは知らない。
人族の魔術師が数年かけて魔力を動かせるようになるということを……。
リリーが一日で魔力を動かせるようになったという異常さを理解するものは、この場にはいないのであった。
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