魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

33 その日の夜

 俺たちは先ほどいた1階の長机でナータさんから簡単な説明を受け、それからリリーの家に帰ることにした。

 冒険者登録試験の日程は明後日となった。

 俺としては今すぐにでも試験を受けられたのだが、試験官は現役の冒険者にお願いしているらしく、その冒険者が街に戻ってくるのが明後日らしい。

 素材の換金については後日とのことで詳しい金額、日時はわからなかった。

 俺たちは行き同様、帰りも転移魔法で帰る。転移魔法は便利なので皆さんにも覚えてほしい。

 町でご飯が食べたいという意見も出たが、結局のところお金がないのは変わらないため帰ることにした。

 今更だけど、中級魔獣の素材でも売ればよかったのかもしれないが、流れ的に買い取りをお願いできなかった。

 残念そうなセレーナを見て、お金を早く手に入れてお店でご飯を食べに来ようと俺は心に誓った。



 ***



 その日の夜。

 俺は集落へ定期報告を済ませて、自室のベッドで横になっていた。

 町に入れたのはよかったけど、ギルド支部長サンサイさんに目をつけられたのは計算外だ。

 もう少し行動を控えた方がいいのか?

 いや、今更な感じがする。

 それならサンサイさんからお願いされた龍の調査を終えるまで誤魔化して、調査を終えたら次の街へ行くのがいいと思う。

 龍の調査は俺たちの目的である龍帝国とつながっている可能性もある。

 町での調査が終わる頃にはお金も知識も手に入るだろう。

 長と母さんは軽く自信をなくすレベルで心配していたけど、きっと大丈夫だ。

 俺が根拠のない自信を漲らせていると、部屋に近づく魔力がある。

 セレーナだ。

 こんな時間にどうしたのだろうか?

 ドアが少し開き、そこから顔を覗かせるセレーナ。

 俺が起き上がると、セレーナと目が合った。

「入ってもいい?」

「いいよ」

 セレーナは嬉しそうにしながら部屋の中に入り俺の隣に座る。

「何かあった?」

「ううん。何もないんだけどね、最近ユーリくんとゆっくりお話しできてなかったから、お話ししたくて……ダメかな?」

「ダメなわけないよ。俺だってセレーナと話したい」

 セレーナはわかりやすくニコニコと頬をほころばせる。尻尾があったらきっと大きく揺れていることだろう。

 そういえば最近、調査のことやリリーのことに注意が集中しすぎていたかもしれない。

 やっと好きな人と一緒にいられるというのに。

「町、すごかったね」

「うん、大きな建物がたくさんあったよね」

「わたしね、集落の外って怖いところなのかなって思ってたけど、面白かったよ。大きな建物もそうだし、人がたくさんで、美味しそうな匂いもいっぱいしてたなぁ」

 感想を述べるセレーナは今日訪れた町並みを思い出して、目をキラキラとさせていた。

 きっとセレーナは俺以上に様々な刺激を受け、色々なことを吸収しているのだろう。

「でもね、わたしが楽しいとか面白いって思えるのはユーリくんが一緒にいるからなんだよ?」

 ロウソクの灯りしかない薄暗い部屋の中だけど、セレーナの頬が少し赤く染まっているのがわかった。

 心臓が跳ね上がる。

 今すぐ抱き締めたい、そんな衝動が理性というストッパーを壊しにかかる。

 抑えきれない感情を何とか制御しようと咄嗟にベッドを掴もうとした手が、セレーナの手を握ってしまう。

 あ。

 しかし、一度掴んだ手を離すのは嫌だと思った。

 だから手を握り続けた。

 すると、セレーナは手のひらを返して俺の手を握り返した。そして互いの指先が自然と絡み合う。

 セレーナの顔を見たいけど、見れない。

 胸の鼓動がバクバクとうるさいほどに高鳴る。

 不意に、肩に重さを感じる。

 セレーナが頭を俺の肩に預けていた。

 幸せな重さだ。

 俺はセレーナの頭を撫でた。優しく愛おしく撫でた。

「……大好き」

 聞こえるか聞こえないか、微妙なくらい小さな声でセレーナが呟く。

 でも俺にはハッキリ聞こえた。

 きっとセレーナは言葉にしたつもりはないかもしれないけど、あえて俺は答える。

「俺も大好きだよ」

 撫でていた頭がビクッと動揺するのがわかった。

 そっと頭が離れる。

 セレーナを見ると耳まで真っ赤にして、何でわかったの? って顔をしていた。

 やばい。爆発する。

 とうに思考は停止していた。

 見つめ合っていた目をゆっくりとセレーナが閉じる。

 それって……。

 聞くまでもなく、応えはわかってる。

 焦らずゆっくりと俺は顔を寄せた。

「夜分に申し訳ありません。ユーリ様、少しお聞きしたいことがあるのですが……」

 叫ばなかったのが奇跡的なくらい俺とセレーナは慌てて立ち上がり不自然なほど離れた。

「入ってもよろしいですか?」

「い、いいよ」

「失礼します」

 リリーがそっとドアを開けて部屋の中へ入る。

「あ、セレーナさんもいらっしゃったんですね」

「う、うんっ」

 そしてリリーは俺とセレーナを交互に見て、突然ボフンッという効果音がしそうなほど顔を真っ赤にさせた。

「も、申し訳ありませんっ! お邪魔しましたぁぁあああ!」

 叫びながらリリーが部屋を一瞬で出ていった。

「リリー!?」

 フォローを入れることも出来ず、俺は呆然と立ち尽くした。



 それからしばらくの間、所々でリリーの不自然な気遣いが続くのであった。



 読んで頂きありがとうございます!!

 今回はイチャイチャ回。
 だけど邪魔が入るのはお約束ですね。
 何故か昔より初々しい感じの2人ですが、これからも温かく見守ってあげて下さい。

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