魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

25 草原と子供

 転移した先は森の最北。

 ここから更に北へ進めば森を抜ける。森を抜ければそこは外の世界だ。

 集落からわざわざここまで歩く必要はないので転移をしてショートカットだ。

 転移魔法の特性として1度来たことがあるところでないと転移ができない。

 森から出たことがない俺はここまでが限界地点というわけだ。

 そしてここから未知の世界への冒険が始まる。

「わぁー何だかドキドキするね!」

「しない」

「するよー、ねっ? ユーリくん!」

「しないよね、ユーリ」

 何、その二択!?

 正直、ドキドキする。けどそれをそのまま言えばアカネの機嫌が悪くなることは経験則から言って目に見えている。

 かと言って、セレーナに対して嘘はつきたくないし……。

「俺はワクワクしてる」

「そうだね、ワクワクもするね!」

「……それなら少しわかる」

 何という情けない回答だったけど、険悪なムードは回避できた。

 これ、俺の精神が先にやられそうだ。なんか不安になってきた……。

 そんなことを考えながら北へ向かって森を進む。

 一歩一歩進むたびに目の前に広がる光が強くなっていく。

 ついに森を抜けた。

「これが森の外」

「わぁー……草原?」

「……何もない」

 3人が今思っていることは多分一緒だった。

 思ってたのと違う……。

 何だろう、うーん、もっとファンタジーって感じがあると思うんだよね。

 山あり谷あり、不思議な生物が闊歩しているような世界とか。

 それに空にはドラゴンが飛んでいて……あ、そうか。俺はこの世界で一番ファンタジーな場所にいたってことか?

 龍人の集落なんて、冒険の終盤に行くような場所じゃない?

 まぁいっか。

 不思議な生物も、終わりなき森であんなに魔獣を倒したし、今更驚くようなやつはそんなにいないだろう。

 外の世界は雑草の生い茂る草原でした。



 ***



「うわぁーこんなにたくさんの薬草が! あ、ここにも! あ、そこのやつもそうですね! 危険ですけど『龍の森』近くは薬草の種類も豊富です!」

 興奮した様子で独り言を喋っている7〜8歳くらいの子供。

 身につけている布のローブはボロボロで、その中に着ている服も決して良いものとは言えない。

 子供は無我夢中で薬草を採取していく。

 左手で薬草を掴み、右手に持つ鎌で刈る。刈った薬草を側に置いている袋へ詰め込む。

 そうやって子供は袋いっぱいになるまで薬草を集めるのであった。

「ふぅ〜、そろそろ帰りますか。薬草も袋いっぱいですし、あまりここに長くいるのは危険です」

 子供がまたまた大きな声で独り言を喋っていると……。

 ギチンッ、ギチンッと金属がぶつかり合うような音が辺りに響く。

「ま、まさか――――」

「ギギギギッ」

「シザーマンティス!?」

 鎌が鋏に変わった巨大なカマキリと言ったらわかりやすいかもしれない。

 その大きさは子供に覆い被さるのが容易なほどであり、鋏で子供を真っ二つにするのは難しくないだろう。

 子供はせっかく集めた薬草が入っている袋を忘れて逃げ出す。

 いや、逃げ出すことができただけ上出来と言える。

 恐ろしい魔獣が現れたのだ。大人でも怯えて逃げられないものもいるだろう。

 子供は必死に走る。

 しかし、シザーマンティスが一歩動くだけでその距離はすぐに縮まってしまう。

 鋏を鳴らし、恐怖心を煽るシザーマンティスは余裕に溢れていた。

 嫌なことは立て続けに起こる。

 服同様、ボロボロだった靴の底がついに剥がれて子供は転倒してしまう。

 一回転した子供は仰向けになり、すぐに立ち上がることができない。

 視界の上から覗く巨大な鋏に子供はもう諦めていた。

 子供は生きるために薬草を集め、薬を作り売っていた。

 でも本当は薬売りをしたかったわけではない。

 もし叶うのなら魔法を使ってみたい。魔術師になって自分を馬鹿にする者を見返したい。

 ボロボロでも羽織り続けるローブはその憧れと夢の現れだったのだ。

「ファイアーボール」

 何気なく呟いた一言。

 しかし魔法が発動するなんて奇跡は起こらない。

 1度くらい使わせてくれてもいいだろうと、子供は涙を零した。

 その時だった。

 見れたことが奇跡的なくらいの速度で炎の塊が目の前を通り過ぎた。

 直後、魔獣が絶命する声が子供の耳に届いた。

「え?」

 何が起こったのかわからない子供は、立ち上がり魔獣がいたはずの場所を見る。

 そこには消し炭となったシザーマンティスらしきものがあった。

「え、えぇええっ!?」

 子供は呆然と立ち尽くす。

 自分を殺そうとしていた凶悪な魔獣が一瞬にして消し炭になってしまったのだ。

 少しずつ思考が動き始めると、自分の魔法があの魔獣を倒したのか? という淡い期待が生まれてくる。

 それもそのはず憧れていた魔法が、いま目の前でその力を振るったのだから。

 だがしかし、その淡い期待も残念なことに子供の力ではなく、一人の規格外な魔術師の指先一つで放たれた魔法であったことを子供はすぐに知る。

「ユーリくんはやっぱりすごいね!」

「あれくらい当たり前」

「ありがと、でもそれより……君、怪我はない?」

 子供の目には見たことがない服を着た1人の青年と、2人の少女が映っていた。



 読んで頂きありがとうございます!!

 さて、お約束展開気味に人助けしたユーリたちです。
 たぶん、ユーリたちに人助けをした感覚はないのかもしれませんが……。

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