魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

19 お昼と2次試験

 振り返るとセレーナが手を振っていた。

 よく見ると反対の手には少し重そうに大きなカゴを持っている。多分、お弁当かな?

 セレーナが俺に向かって駆け出す。

「そこ転びやすいから――」

 走らなくていいよ、と言い切る前にセレーナがつまずいて転びそうになる。その拍子にカゴも前へ飛ぶ。

 俺は転移魔法を使い、瞬きをするよりも速くセレーナのもとへ転移して転びそうな体を受け止めた。

 もちろんカゴもしっかり掴んだよ。

「危なかったね」

「ありがとう、ユーリくん。あ! お弁当! ……大丈夫かな」

 やっぱりお弁当だった。

「大丈夫だと思うけど」

 俺は左手で掴んでいるカゴを軽く上げて見せる。

「よかったぁ〜」

 セレーナはホッとした顔を見せてから自分がずっと寄りかかっていたことに気がついたのか、顔を赤くして立ち直す。

 そして俺からカゴを受け取り、仕切り直すように一度後ろを向いてから再び振り返る。

「ユーリくん、お昼ごはんにしよ?」

「うん」

 上目遣いで放たれたその一言に俺は食い気味で答えるのであった。

 ***

 何もない訓練場にお決まりのように大きめの布を敷きお弁当を展げる。

 そして、これもまたお決まりのように俺が座ると左隣にセレーナ、右隣にアカネが座る。

 最近はこうして外でお昼ごはんを食べることが多くなった。

 セレーナが花畑の件から、色々あったけどやっぱりみんなでお昼ごはんを食べると楽しいよね、ということで続いている。

 ここだけの話、セレーナはアカネと仲良くなりたいというところが大きい。

 まぁアカネの方も嫌々というわけではなく、俺以外の話を聞くことがいい刺激になってるみたいだ。

「本当に驚いたんだよ! ユーリくんがいきなり武龍団に入団して、そして新しくできた調査班の班長になっちゃうんだもん!」

 セレーナは腕を振って驚いているのか、嬉しいのか、怒っているのかよくわからない表情でとにかく興奮しているご様子。

「俺も突然だったから、な?」

 俺はアカネの方を見る。

 アカネはセレーナの作った、揚げた芋に赤砂糖の蜜を絡めたお菓子(いわゆる大学芋)に夢中になっていた。

 あー、それ美味しいよね。見た目赤いから最初辛いのかなって思ってたけど、実は甘いんだよね。

 セレーナが俺の耳に口を寄せてこっそりと話す。

「アカネちゃん、甘芋あまいもが気に入ったみたいだね。また作ってくるね」

「うん」

 俺とセレーナは顔を見合わせて笑顔になる。

「あ、そう言えばユーリくんに聞こうと思ってたことがあるんだけどね。調査班って具体的に何をするところなの?」

 俺はお弁当に向かって伸ばしていた手を止める。

「えーと……」

 マズイ。恐れていた質問が来てしまった。

 そう、俺はセレーナに調査班の詳しい話を、そもそも外の世界に行こうとしていたことを話していなかった。

 どうしよう。下手に誤魔化すのは得策とは言えないし、正直に話すには心の準備ができていないぞ。

 俺はセレーナを外の世界に連れて行くことを悩んでいる。

 いや、どちらかと言えば連れて行かない方がいいと思っている。

 調査班が設立された今、俺は転移魔法を使えばいつでも帰って来られるんだ。

 それならセレーナを外の世界に連れて行って危険に巻き込む可能性をつくるより、集落で待っていてもらう方がいいと思う。

 ただ、セレーナにこのことを話せばきっと一緒に行くと言い出すだろう。

 それを説得するのは心苦しい。

 根本的に武龍団ではないセレーナを連れて行けるのかと言われれば、多少無理はあるが連れて行ける。

 班員の選抜を任されているというのはそういうことで、そして班長には正式入団は無理でも臨時入団を許可する権限がある。最近知ったんだけどね。

 まぁ、班長成り立ての俺がそんなことしてもいいのかなって感じではあるんだけど……。

 俺を見るセレーナの目が段々と鋭くなっているような気がする。

 早く答えないと。

 その時、アカネが俺の袖を引っ張ってくる。

「来てる」

「あ、もうそんな時間か」

 受験者の人たちが戻ってきたのだ。

「ごめん、セレーナ。その話はまた今度ちゃんと話すから! お昼ご馳走さま!」

「絶対だよ! 試験頑張ってね。いってらっしゃい!」

 手を振るセレーナに俺も振り返して受験者のもとへ駆け足で行く。

 セレーナに悪いなと思いつつも、少し安堵している自分がいる。

 早く覚悟を決めよう。

 それに……いや、今は試験に集中しよう。

 俺は頭を振って、次の試験へと思考を切り替えるのであった。

 ***

 2次試験はざっくり言えば「鬼ごっこ」だ。

 鬼は俺のゴーレム3体。

 ゴーレムから一撃でも攻撃を食らえば失格となる。ただし、ガードはセーフだ。

 時間制限内(砂時計を用意)に逃げ切れれば2次試験は合格。

 もちろん龍化は禁止で、魔法は使用可となっている。

 ちなみに俺はゴーレムと視覚を共有できるので、判定は簡単にできる。

 そして2次試験は始まった。

 スタートと同時に様子を伺っていた受験者3名がゴーレムの速攻で脱落する。残り8名。

「嘘だろ……」

 脱落した受験者は腹を抱えたままそう呟きを残して倒れた。

 嘘だろ、と言いたかったのは俺の方だった。

 あの速攻を見切れないとなると、この試験何名残るか……。

 他の受験者はその光景を見て直ぐにゴーレムとの距離を取る。

 訓練場に緊張が走る。

  しかしそんなことはお構いなしと、ゴーレムたちは自身に近い受験者へと効率よく最短ルートを使って追いかける。

 試験から約1時間ほど経ち砂時計が終わりを告げた。

「2次試験合格者は……第一班所属ワンスさん、第二班所属アールさん、ソーンさん」

 第一班はシュタルクおとうさんの班で、第二班は母さんの班だ。

 母さんの班から2人残ってくれた。ちょっと嬉しいね。

 受験者の3人は肩で息をして俺の言葉を聞いている。

 うん、1回休憩を挟んだ方がいいかも。

「ここで1度休憩を取りたいと思います。休憩後、最終試験を行います」

 以上です、と言うと3人はその場にへたり込む。

 あれ、予想以上に疲れてた?

 最終試験は大丈夫かな……。

 そんな不安を感じつつ俺は訓練場の空を見上げるのであった。



 読んで頂きありがとうございます!!

 試験の話が予定よりも長くなっていますが、お付き合い下さい!
 次で試験の話は終わると思います。

コメント

  • 黒眼鏡 洸

    クズ小説ばかり様
     コメントありがとうございます!!
     一方的な想いは本人がどう想っていても偏ってしまう。それに気がつける人は少ないのかなと思います。
     それでも通じ合える部分がユーリたちにはあると思うので、これからも見守って頂けたら幸いです。

    0
  • 葛餅太郎

    人の心配をしてるようで相手の意見も聞かずに勝手に決めてしまう。それは優しさなのだろうか?そこに愛はあるのだろうか?どうしても自分勝手なズルい奴に思えてしまう(‥;)ちょっと切ないなー

    2
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