魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~
5 逃走少女
「はぁ、はぁ、はぁ……」
セレーナはその場にへたり込み肩を上下させている。
ちょっとやりすぎた感は否めないがミッションはクリアだ。
「セレーナ、今の状態で魔法を使ってみて」
「へ?」
俺の意図がつかめていないセレーナは気の抜けた声を返したが、むしろそのくらいの方がちょうどいい。
それでも素直に詠唱を始めてくれるセレーナは本当に良い子だ。お嫁さんにしたいくらいに……って俺たち婚約してるよ。
そうだ、結婚式……。
「求めるは水。水よ槍となりて貫け」
『ウォーターランス』
そんなことを考えているうちにセレーナは詠唱を終え蒼い流動体が空に魔方陣を描く。
一筆書きの要領で描かれる魔方陣は複雑な幾何学模様をしていて、そこに一種の芸術性みたいなものを感じてしまうのは魔法好きだからなのだろうか。
魔方陣に込められた魔力がその力を発揮する。
セレーナほどの大きさをした魔方陣から放たれた水の槍は的となっていた木に目掛けて一直線に突き進む。
水の槍は見事に木を貫き風穴をあける。
「できた……できたよっ! ユーリくん!」
余程嬉しかったのかセレーナは子供のようにはしゃいで俺に抱きつく。
満面の笑みを見せるセレーナにつられて俺も笑顔になるが、ここは先生としてビシッと言わなくてはならない。
俺はセレーナの両肩を掴みしぶしぶ自身から離す。
セレーナはきょとんっとした顔で俺を見る。
――セレーナごめん。
心を鬼にして俺は言い放つ。
「甘い! 百発百中するまで特訓だ!」
「えっ!?」
「もたもたしない! さっきの感覚を忘れないうちにもう1度やるんだ!」
「ゆ、ユーリくん?」
「返事は?」
「は、はいっ」
セレーナは慌てて次の木に向かって詠唱を始める。
これはセレーナのためなんだ。だからめげずに頑張ってくれ。
「もっと集中!」
「はいっ!」
特訓は日が落ちるまで行われたが本気でセレーナが泣きそうになったため中断した。
その後帰り道でセレーナが口を利いてくれなくてめっちゃ焦ったが、必死に謝り明日一日セレーナと過ごすという約束をすることで許してくれた。
***
森を抜け集落に戻ってきた俺とセレーナは自然と歩く速度を落とし話しながら帰り道を進む。
すっかり夜を迎えた集落は小さな火がいたるところで灯され、柔らかな光が集落全体を明るく照らしていた。
集落には昼とはまた違う活気に満ち溢れていた。
広場に近づくほど賑やかさは増して笑い声があちらこちらに聞こえる。
集落は毎日がお祭りのような楽しさと高揚感でいっぱいだ。
この空気をアカネにも感じて欲しい。
セレーナと話していても頭の片隅ではアカネのことを考えていた。
集落のこと、みんなのこと、そしてセレーナのことをアカネには知って欲しい。
俺との繋がりだけでなく、俺以外の人との繋がりがアカネをより強くしてくれる。
俺がそうだったように。
広場から少し離れた通りをセレーナと歩いていた俺はその足を止める。
立ち止まったことでセレーナも足を止め、察してくれたセレーナは俺の言葉を待っていてくれる。
まずはセレーナにアカネをちゃんと紹介する。
そのためには影に隠れている少女に出てきてもらわなきゃならない。
(アカネ。外に出てきてくれないか?)
長い沈黙の後アカネはいつもの短い返事をして俺の影から出てくる。
セレーナに向き合っている俺の背を盾にアカネは顔を覗かせその茜色の双眼でセレーナをじっと見ている。
「セレーナにアカネをちゃんと紹介したい」
「うん」
その優しい返事を皮切りに俺はアカネと出会った時のことから今までの出来事をセレーナに話した。
そしてアカネが俺の使い魔であると共に大切な家族だということを伝える。
「そっか、そっかぁ……アカネちゃん。ユーリくんの側にいてくれて、ユーリくんを守ってくれてありがとう」
セレーナは慈愛に満ちた物柔らかな表情でアカネに微笑みかける。
何となくわかっていた。セレーナならそう言ってくれると思っていた。
それでもそのセレーナの温かさが自分のことのように嬉しい。セレーナのそんなところが好きなんだ。
アカネはというと少し驚いたような表情をしていた。
まさか感謝されるとは思っていなかったのだろう。
「……ユーリを守るのは当たり前。だから礼はいらない」
「それでもありがとうだよ。そうだ、わたしの名前を言ってなかったね。わたしはセレーナ。アカネちゃん、よろしくお願いします」
「……私はアカネ。よろしくは、まだしない――」
そう言ってアカネは近くの屋根の上に跳び乗り、走り去ってしまう。
「アカネ!」
「わたしはいいから行ってあげて」
「ごめん!」
俺は軽い踏み込みで跳び上がり静かに屋根の上に降りる。
その一瞬の動作にセレーナは驚いて目を見開いていた。
「ユーリくん……すごい」
全力で走ると屋根を壊しかねないため踏み込む瞬間に足の裏に魔力の足場を創り出す。
俺はさらに加速してアカネを追いかける。
修行の1つとしてアカネと鬼ごっこをしたことを思い出す。
転移魔法を使って追いかけたことがあったが、俺が転移してくるタイミングを直感だけで読み絶妙に避けられてしまうためちょっとした工夫が必要だったりする。
2つ先の屋根の上にアカネの背が見える。
ちょっと本気だすか。
次の足を踏み込むと同時に集落全体規模の魔方陣を二重に展開する。
「捕まえた」
「……反則」
俺に体を抱え込まれた逃走少女は早々に逃げることを諦めた。
確かに逃れられない規模の転移魔法の魔方陣を、俺の転移とアカネを転移させる二重展開ときたら反則と言いたくなるのも頷ける。それも一瞬で、という話だ。
まぁ俺の分は小さくてもよかったけど同じ範囲の方が展開が楽だし早い。
「何とでも言っていいけど逃げたのはアカネだぞ」
「……」
俺はアカネを下ろし巨樹が聳え立つ広場を向いて座る。
アカネも同じように俺の隣に座った。
読んで頂きありがとうございます!!
途中で切られていますがお許しください。
作者の勝手な都合です……。
次話までしばしお待ち下さいっ。
セレーナはその場にへたり込み肩を上下させている。
ちょっとやりすぎた感は否めないがミッションはクリアだ。
「セレーナ、今の状態で魔法を使ってみて」
「へ?」
俺の意図がつかめていないセレーナは気の抜けた声を返したが、むしろそのくらいの方がちょうどいい。
それでも素直に詠唱を始めてくれるセレーナは本当に良い子だ。お嫁さんにしたいくらいに……って俺たち婚約してるよ。
そうだ、結婚式……。
「求めるは水。水よ槍となりて貫け」
『ウォーターランス』
そんなことを考えているうちにセレーナは詠唱を終え蒼い流動体が空に魔方陣を描く。
一筆書きの要領で描かれる魔方陣は複雑な幾何学模様をしていて、そこに一種の芸術性みたいなものを感じてしまうのは魔法好きだからなのだろうか。
魔方陣に込められた魔力がその力を発揮する。
セレーナほどの大きさをした魔方陣から放たれた水の槍は的となっていた木に目掛けて一直線に突き進む。
水の槍は見事に木を貫き風穴をあける。
「できた……できたよっ! ユーリくん!」
余程嬉しかったのかセレーナは子供のようにはしゃいで俺に抱きつく。
満面の笑みを見せるセレーナにつられて俺も笑顔になるが、ここは先生としてビシッと言わなくてはならない。
俺はセレーナの両肩を掴みしぶしぶ自身から離す。
セレーナはきょとんっとした顔で俺を見る。
――セレーナごめん。
心を鬼にして俺は言い放つ。
「甘い! 百発百中するまで特訓だ!」
「えっ!?」
「もたもたしない! さっきの感覚を忘れないうちにもう1度やるんだ!」
「ゆ、ユーリくん?」
「返事は?」
「は、はいっ」
セレーナは慌てて次の木に向かって詠唱を始める。
これはセレーナのためなんだ。だからめげずに頑張ってくれ。
「もっと集中!」
「はいっ!」
特訓は日が落ちるまで行われたが本気でセレーナが泣きそうになったため中断した。
その後帰り道でセレーナが口を利いてくれなくてめっちゃ焦ったが、必死に謝り明日一日セレーナと過ごすという約束をすることで許してくれた。
***
森を抜け集落に戻ってきた俺とセレーナは自然と歩く速度を落とし話しながら帰り道を進む。
すっかり夜を迎えた集落は小さな火がいたるところで灯され、柔らかな光が集落全体を明るく照らしていた。
集落には昼とはまた違う活気に満ち溢れていた。
広場に近づくほど賑やかさは増して笑い声があちらこちらに聞こえる。
集落は毎日がお祭りのような楽しさと高揚感でいっぱいだ。
この空気をアカネにも感じて欲しい。
セレーナと話していても頭の片隅ではアカネのことを考えていた。
集落のこと、みんなのこと、そしてセレーナのことをアカネには知って欲しい。
俺との繋がりだけでなく、俺以外の人との繋がりがアカネをより強くしてくれる。
俺がそうだったように。
広場から少し離れた通りをセレーナと歩いていた俺はその足を止める。
立ち止まったことでセレーナも足を止め、察してくれたセレーナは俺の言葉を待っていてくれる。
まずはセレーナにアカネをちゃんと紹介する。
そのためには影に隠れている少女に出てきてもらわなきゃならない。
(アカネ。外に出てきてくれないか?)
長い沈黙の後アカネはいつもの短い返事をして俺の影から出てくる。
セレーナに向き合っている俺の背を盾にアカネは顔を覗かせその茜色の双眼でセレーナをじっと見ている。
「セレーナにアカネをちゃんと紹介したい」
「うん」
その優しい返事を皮切りに俺はアカネと出会った時のことから今までの出来事をセレーナに話した。
そしてアカネが俺の使い魔であると共に大切な家族だということを伝える。
「そっか、そっかぁ……アカネちゃん。ユーリくんの側にいてくれて、ユーリくんを守ってくれてありがとう」
セレーナは慈愛に満ちた物柔らかな表情でアカネに微笑みかける。
何となくわかっていた。セレーナならそう言ってくれると思っていた。
それでもそのセレーナの温かさが自分のことのように嬉しい。セレーナのそんなところが好きなんだ。
アカネはというと少し驚いたような表情をしていた。
まさか感謝されるとは思っていなかったのだろう。
「……ユーリを守るのは当たり前。だから礼はいらない」
「それでもありがとうだよ。そうだ、わたしの名前を言ってなかったね。わたしはセレーナ。アカネちゃん、よろしくお願いします」
「……私はアカネ。よろしくは、まだしない――」
そう言ってアカネは近くの屋根の上に跳び乗り、走り去ってしまう。
「アカネ!」
「わたしはいいから行ってあげて」
「ごめん!」
俺は軽い踏み込みで跳び上がり静かに屋根の上に降りる。
その一瞬の動作にセレーナは驚いて目を見開いていた。
「ユーリくん……すごい」
全力で走ると屋根を壊しかねないため踏み込む瞬間に足の裏に魔力の足場を創り出す。
俺はさらに加速してアカネを追いかける。
修行の1つとしてアカネと鬼ごっこをしたことを思い出す。
転移魔法を使って追いかけたことがあったが、俺が転移してくるタイミングを直感だけで読み絶妙に避けられてしまうためちょっとした工夫が必要だったりする。
2つ先の屋根の上にアカネの背が見える。
ちょっと本気だすか。
次の足を踏み込むと同時に集落全体規模の魔方陣を二重に展開する。
「捕まえた」
「……反則」
俺に体を抱え込まれた逃走少女は早々に逃げることを諦めた。
確かに逃れられない規模の転移魔法の魔方陣を、俺の転移とアカネを転移させる二重展開ときたら反則と言いたくなるのも頷ける。それも一瞬で、という話だ。
まぁ俺の分は小さくてもよかったけど同じ範囲の方が展開が楽だし早い。
「何とでも言っていいけど逃げたのはアカネだぞ」
「……」
俺はアカネを下ろし巨樹が聳え立つ広場を向いて座る。
アカネも同じように俺の隣に座った。
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