魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

エピローグ 募る想い

 淡く光る木々が生い茂るこの場所は夜でも灯りがいらないほど光に満ちていて、現在が昼頃というのもあり少し眩しいくらいだ。

 鳥の鳴き声が会話に聞こえてきてしまいそうなほど穏やかな時間が流れている。

 つい先日までの日々を思えばこんな気持ちになってしまうのも自然なことだと思う。

 ここは『終わりなき森』最深層に位置する休息地セーフティーエリアと呼ばれている場所で終わりがないはずのこの森の終着地点でもある。

 この場所は魔獣が認識できないように誰かが遥か昔に魔法を施したようだ。そのため小動物が集まってくる程この森の中で最も争いがない場所になっている。

 俺は休息地の少し開けた場所で荷物(お土産)のチェックをしていた。

 そこには子供くらいの大きさをしたゴーレムが6体、木の実やら肉やらをせっせと運んでいる。関節の可動域が狭いせいかテクテクと動きがぎこちなく見える。

 このゴーレム達は迷宮のゴーレムからヒントをもらい俺が作った。断じてパクリではない。

 ゴーレムの構造は動力源と頭脳が合わさったような『魔核』と土の体で形成されている。

 魔核はゴーレムが動くイメージを乗せて俺の魔力を込めているため、簡単な指示だけすればゴーレムが勝手に動いてくれるようになっている。

 詳しくは知らないがプログラミングと少し似ているかもしれない。

 さらに付与魔法で色々な効果を付与しているためそんじょそこらのゴーレムよりハイスペックな仕上がりになっている。

 まずは防御力だ! 強化魔法はもちろん結界魔法によるダメージ分散、反射などの効果を付与してさらに機動力については風魔法、飛翔魔法を利用した移動を…………。

「……ユーリ? ユーリッ! ゆぅ〜りぃ〜」

「ん? アカネか、どうした?」

「ずっと呼んでた……気づくの遅い」

「いや、ちょっと考えごとを……ね」

 魔法関係のことになるとつい熱くなって自分の世界に旅立ってしまう……気をつけよ。

(ユーリのことだから魔法とかのことかな)

「ふーん……そうだ、服着れた」

 アカネはそう言うとその場でくるりと1度回って俺の反応を期待の眼差しで待っている。

 その仕草に庇護欲というか何というか無性に守ってあげたいという気持ちが込み上がってくる。直球的に言えば可愛すぎる!

 しかしそんな安直な言葉では主人マスターとしての俺のプライドが許さない。

 しっかりと服の感想を伝えてみせるぞ。

 実のところ服は俺が作ったためどんなものかわかっている。

 白と黒を基調としたいわゆるゴスロリというやつをイメージしたドレスで、動きやすいようにスカートの丈は短めだ。

 そして極め付けはハイニーソである! 糸魔法の技術を集結させ作り上げた最高傑作だ。

 靴もドレスに合わせた形で且つ動きやすさを実現している。

 もちろん付与魔法で全て付与済みだ。

 似合うと確信していたが、それを遥かに上回る破壊力で正直なところ着せたのがむしろ間違いだったのではと思う可愛さだ。要するに可愛すぎる!

 あれ、やっぱりこれしかないのか。

 可愛いは正義。

「すごく可愛いよ」

「……(ボフンッ)」

「ん? 大丈夫か?」

「だ、だいじょうぶ……」

 アカネは急に顔を赤くして俺に背を向ける。

 しかし頭の上でピョコピョコ動く獣耳・・と、スカートからはみ出ている白い尻尾・・がゆさゆさ左右に揺れているのが丸見えですアカネさん。

 これは喜んでいる時の仕草だ。

 何とかアカネの期待に応えられた。

「……私ちょっとあっちに行ってくる」

「わかった」

 アカネは驚く速さで走り去ってしまう。

 本当に大丈夫か? やっぱり直球過ぎたか?

「ゴー! ゴー!」(マスター! マスター!)

 ゴーレムの1体が俺の前まで来て呼びかける!

 思念魔法を付与しているため簡単な会話なら出来るようになっている。我ながら画期的だと思う。

「終わったか?」

「ゴー! ゴー!」(終わった! 終わった!)

「ご苦労さん」

 俺は残りのゴーレムも集め1体ずつ労うように頭を撫でながらついでに魔力の供給する。

 ゴーレム達は嬉しそうに「ゴー! ゴー!」と言っている。

 魔力の供給を終え俺はゴーレム達を空間魔法で創り出した空間に帰らせる。

 そして荷物(お土産)を新たな空間に収納していく。

「よし、準備できた」

 ちなみに俺の服も新調している。

 ノワールさん改め師匠の要望で和風の蒼い服を着ている。腰には師匠を帯刀している。

 これじゃ魔術師じゃなくて武士だよ……ははは。

「師匠は大丈夫ですか?」

 反応はなし。

 どうやらいつも通り寝ている。

 最近は寝ている時の方が多く、師匠曰く「魔力を食べ過ぎて眠いのじゃ」とのことらしい。

 満腹になると眠くなるあの状態がずっと続いている感じなのだろう。なんて幸せな人生いや、剣生を送られていることやら。

「アカネが戻ってきたら行くか」

 龍人の集落ドラフヘン……俺の帰るべき場所に。



 長い……決して短くはなかった。

 辛いことも苦しいことも嬉しいこともあった。

 アカネと出会えた。

 アカネと過ごすようになってからの日々はどれも忘れられないものばかりだ。

 師匠にも出会えた。

 大きな戦い……そして俺が転生した理由、わからないことも多いけど少しでも知ることができた。

 さらに知るために……それは帰ってからでもいいはずだ。

 この森で過ごした時間は俺を強くした。



「セレーナ」

 俺は腰に下げた袋から青く透き通ったストーンつけられたペンダントを取り出して握り込む。

 そして首にかける。

 左の薬指に嵌めている指輪から感じ取れる魔力の温かさに頬を少し緩める。

 早く会いたい。

 会って声を聞きたい。

 たくさん名前を呼んで、名前を呼んでもらって。

 たくさん手を繋いで。

 ずっと側にいたい。

 この気持ちを今すぐ伝えたい。



『セレーナ』





 読んで頂きありがとうございます!!
 3章に入る前に少し時間を頂きたいと思います。
 期間としては2週間ほどの予定です。
 作品のためにもご理解頂けると幸いです。
 今後とも描い転をよろしくお願いします!!

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