魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

23 鎌鼬

 第三層に入ってから3日が経ったが、進行状況はあまりよくなかった。

 魔獣との戦闘が俺たちを疲労させ、休息を取っていると魔獣が現れ、戦闘が始まる。それの繰り返しだ。

 たび重なる戦闘は肉体よりも精神への負担が大きかった。

 そして今もなお、俺たちは魔獣の群れに追いかけられていた。

 強化魔法と雷魔法による身体強化『サンダーフォルム』で木々を縫うように走る。

 しかし、俺たちを追いかけている魔獣――ウィーゼルサイスの群れは、サンダーフォルムの速さを物ともせずに追いかけてくる。

 ウィーゼルサイスは最上級上位の魔獣で、俺よりも一回り大きく、イタチのような姿をしている。尻尾の先が鋭い鎌のようになっている。

 最上級上位では珍しく(5〜6匹の)群れで生活しているため遭遇するのは避けたかったが、そんなことは言っていられない。

「アカネ! 右を頼む」

「ガウッ」(わかった)

 ウィーゼルサイスの群れは左右に1体ずつ、後方に3体俺たちを囲うように走っている。

 俺はアカネに指示を出すと、さらなる速さをイメージする。

『サンダーブースト』

 サンダーブーストは雷魔法を付与魔法によって一時的に下半身に付与する強化方法だ。

 その速さはサンダーフォルムの数倍にまで跳ね上がる。

 サンダーフォルムで50メートルを1秒は軽いと考えると、相当な速さだとわかる。

 俺は黄色い閃光となって左にいるウィーゼルサイスに横蹴りを打ち込む。俺の足がウィーゼルサイスの右腹部に沈んでいくのがわかる。

「――チィッ!?」

 蹴り飛ばしたウィーゼルサイスはくの字に折り曲がり、近くの木にぶつかって動けずにいる。

 しかし、気は抜けない。

 後ろにいるウィーゼルサイス2体が警戒心を全開にして俺に追いつく。もう一体はアカネの方へ行ったのだろう。

 まぁ、アカネなら心配ないか。

 そんなことを考えていると、アカネがいるであろう場所に稲妻が走ったように見えた。

 そして、すぐ後に轟音が響いて、こちらにいるウィーゼルサイスの警戒心は最大値に達している。

 さすがアカネさん……。

 2体のウィーゼルサイスは深手を負っている仲間を見るや否や、尻尾の鋭い鎌を俺に向けて威嚇を露わにする。

 群れを形成するくらいだ。当然、仲間意識は高い。

「けど、それは俺たちも同じだよ。仲間、家族を守るために戦う。勝った者だけが生き残れる」

 俺は全身に魔力を張り巡らせ、背中から具現化した魔力の翼が現れる。

 翼は雄々しく、見るものを圧倒させるほどの存在感が溢れ出ていた。

 その翼はまさしく龍の翼、そのものであった。

「それが自然の掟だろ」

 翼を一度、大きく羽ばたくと爆風が巻き起こる。

 枯葉が舞い、風の流れが目で見てわかる。

 爆風に抗うウィーゼルサイスは、地に爪を立てて飛ばされまいとしている。

「転移」

 俺はウィーゼルサイス2体の真後ろに転移魔法を使い一瞬で転移する。

 目の前から敵が消えたウィーゼルサイスは、すぐに俺の気配が後ろだと気がつくと、尻尾の鎌を自在に操り俺に斬りかかる。

 俺は上に飛び、2つの鎌を軽く避けるが、鎌は軌道を変えて俺を追いかけてくる。

 魔力の翼を盾のようにして鎌を弾く。

 拘束魔法で動きを封じるか?

 いや、最上級上位を2体同時に拘束するのは得策じゃない。

 拘束魔法は拘束する対象が増えるほど、拘束力が弱まるという欠点がある。

 なら――

「雷よ!」

 俺は下にいるウィーゼルサイスに向かって雷魔法を放つ。雷はクモの巣のように広がり、ウィーゼルサイスを襲う。

『チィイ!?』

 ダメージはそこそこ、隙ができた今がチャンス。

 反撃によって怯んだ隙を俺は狙う。

「風よ切り裂け、氷よ穿て」

 2つの魔法陣はウィーゼルサイスへ標準を合わせると、無数の風の刃と氷の弾丸を乱射し始める。

 ウィーゼルサイスはなすすべもなく、肉を削がれ、貫かれて力尽きる。

 俺は魔力の翼を消し、地に降り立つ。

 その時、背後に気配を感じる。

「チィッ!」

 振り向くと、動けずにいたはずのウィーゼルサイスが俺に向けて鎌を振り下ろそうとしていた。

 俺は反射的に半身をずらして避けようとするが、しかし……

 避けきれない――

「ガウッ」(光よ貫け)

 俺の後ろから飛んできた光の槍が、ウィーゼルサイスの胴を貫く。

 目の先まで迫っていた鎌は俺に届かず、力をなくして地に落ちる。

 ウィーゼルサイスの気配は完全に消えていた。

 俺の影から完全に体を出したアカネは、背を伸ばしてリラックスしていた。

「ありがとう、アカネ」

「ガウッ」(油断しすぎ)

「面目無いです……」

「ガウガウ?」(ユーリ疲れてる?)

 確かに戦闘続きで疲労は溜まってるかもしれないけど、まだ動けるし戦える。

 魔力も十分にあるし、調子が悪いわけでもない。

「ガウ……」(その……)

「ん?」

 珍しくアカネがもじもじと落ち着きがないように見える。

 どこか体調が悪いのか? それとも……

「トイレ?」

「ガウッ!」(違うっ!)

「あ、ごめん」

(ユーリは本当にデリカシーないというか……)

「ガウ……ガウガウ?」(じゃなくて……もふもふする?)

 アカネは茜色の瞳をうるうるとさせ、上目遣いが愛らしくて仕方がない。

 え、まさかアカネからそんな提案が……

「いいのか?」

「ガウッ、ガウガウ……ガウ」(うん、私はユーリの使い魔……だから)

 なんだか、今なら強力な魔法が使えそうな気がする。

「アカネ、ちょっと待ってて」

「ガウッ?」(うん?)

 俺はしゃがみ込み、地面に手を当てる。

「求めるは聖域。癒しをもたらす領域よ、今ここに」
『サンクチュアリー』

 たった今、会得した魔法――聖域魔法だ。

 魔法の流れから感じ取れる情報としては、ひとまず治癒と結界の複合魔法ということ。

 そして、聖域を創り出し、その中にいるものを癒す魔法だということだ。

 今の実力だと、リラックス効果と微力な回復しか望めないだろう。まぁ、今はそれで十二分だ。





「アカネをもふるのも久しぶりな気がするな」

「ガウ」(うん)

 俺たちは魔獣もびっくりするほど、森の中だというのにくつろいでいた。

 心なしか座っている枯葉も、柔らかな感触に変わっている気がする。

 アカネのふわふわな毛を頭から尻尾にかけて、ゆっくりと撫でる。

 トリミングなど一切していないというのに、このもふもふ感!

 あー癒される。何もかも忘れて永遠にもふもふしていたい。

「ガウガウ」(それはダメ)

「あ、声に出てた?」

「ガウッ」(うん)

「でも、アカネのおかげで元気でてきた」

「……ガウ」(……よかった)

 アカネの尻尾が揺れてる。

 嬉しいことでもあったのかな?

 ま、今はゆっくり休もう。

 俺たちは次の戦いに備えて休息をとる。





 はっきりとしないが、かなり先の方に強い気配が感じられる。

 そこへ辿り着くのに、どれくらいかかるかはわからないが、戦わなければならない……そんな気がした。

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