魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

20 踏み出す一歩

 俺は何かに取り憑かれたように起き上がる。

 ベッドから出て、窓まで歩く。外はまだ暗い。

 いつも通りと言われれば確かにそうなのだが、今日は少し違う。

 俺は自分で作ったローブを羽織る。

 黒を基調としたローブには、袖口や所々に青白いラインが施されている。耐久性が高く、俺のお気に入りの一品だ。

 外へ出た俺は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 酸素が血液に乗って体中を巡るのと同時に、体の隅々まで魔力が行き渡る。

 やがて、クリアになっていく思考はやるべきことを教えてくれる。

 体から魔力を少しづつ放出していく。

 魔力は体の一部だと言う考え方がある。

 俺もそうだと思う。

 身体の疲れ、精神の状態、環境の変化で魔力は少なからず影響を受ける。時として、強い心が魔力を強くすることもある。

 精神を集中させる。

 魔力から伝わる情報を正確に読み取る。

 これを極めることで、魔力は本当の意味で自分の一部になっていく。

 集中力が極限までに至ると、自分の存在が周りと一体化するような感覚になる。

 この状態で使う魔法は魔力の流れが自然で、息をするように意識せず魔法が発動できる。

「ふぅ……!」

 十数の魔法陣が俺を囲うように展開される。

 火と水が踊れば、風が走り、地も動き出す。光と闇が生まれ、青い稲妻が姿を見せると、氷の氷柱が突き出る。

 俺を中心に世界が創り出されていくような、そんな錯覚を感じる。しかし、魔法は止まらない。

 魔法によって生えた草木は太く伸びて、蔓が手足のように動く。岩石の拳が地面を突き破る。重力が変化して、俺の周りにあるものが浮かび始める。

「……よし、こんなもんかな」

 日が見え始めた頃、俺は朝の鍛錬を終える。

 荒れた地面を魔法で整え家に戻ると、アカネが待っていた。

「ガウ?」(大丈夫?)

「大丈夫だよ。鍛錬をしないと落ち着かないだけ」

(ユーリは魔法バカ……)

 あれ、なんか悪口を言われたような気が……まぁいいか。

 俺はローブを脱いで、壁に掛ける。

「朝ご飯にしよう」

「ガウッ」(うん)

 俺は袖をまくりながら台所へと向かう。

 空間魔法の『アイテムボックス』から新鮮な魔獣の肉をいくつか取り出すと、テキパキと切断魔法で肉をさばいていく。

 鉱石魔法で串を創り出し、ブロック状の肉を刺していく。

 あとは塩(みたいなもの)とコショウ(みたいなもの)で味をつけ、火魔法で程よく焼くだけだ。

 ***

「アカネぇーできたぞ」

「ガウッ!」(うん!)

 アカネは肉が大好物だ。

 種族的には血を吸えば食事をする必要はないが、アカネは食べることが好きらしい。

 俺が食べるものは何でも食べたがる。

 あ、他にも俺のすることをよく真似ているような気がする。

 まぁ、深く考える必要はないか。アカネを待たせてるし、ご飯を早く食べよう。

「いただきます」

「ガウッ」(いただきます)

 俺は串の肉にかぶりつく。

 うんっ、うまい!

 噛みちぎるという感覚がないほどに肉は柔らかく、噛みしめるたびに口の中に甘い肉汁が広がる。

 牛肉のような肉らしさと、豚肉のような甘さを感じられる。

「ガウッ!」(うまい!)

「そうだな!」

 アカネの嬉しそうな姿を見ていると、ついつい俺も嬉しくなってしまう。

 俺たちは朝のひと時をゆるやかに過ごした。

 これからはしばらくの間、厳しい日々が続く。そう思うと今の時間が恋しいとすら感じた……。





 ***





 よし、準備は出来た。

 俺は大きな荷物はアイテムボックスの中に入れ、緊急時に使うものだけを小さなバックに入れて持つことにする。

 アカネを見る。アカネも俺を見ていたようで、俺が聞くよりも先に大丈夫だと目で言われた。

「ん、じゃあ行きますか!」

「ガウッ」(うん)

 踏み込む先は森の『第三層』だ。

 未開の地、強力な魔獣、知らない世界がそこにある。

 不思議だ。怖いと感じるかと思っていたが、今はワクワクしている。

 俺の力がどこまで通じるのか。この先に何が待っているのか。

 ゴールが待っているかはわからない。

 でも、あと少し……そんな気がする。

 待っていてくれセレーナ。

 俺は必ず戻ってみせる。





 最強の魔術師となって――――

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