魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

10 木漏れ日の中で

 森に入ってから2週間くらいが過ぎた。

 相変わらず魔獣の数は減らない。むしろ増えているようにも感じる。

 ゴールも見えない。

 ここはどこなんだよぉー!





 ***





 新しい魔法を覚えた。

 その名も『切断魔法』だ!

 単純に言えば、物を断ち切る魔法ということだ。

 しかし、この魔法の便利なところは触れた物を簡単に切れることだ。

 木の幹はもちろん、石も、魔獣さえもだ。

 ただ、まだ初級なので限界はあるが大体のものは切れる。

 森の中を進むのに、かなり役立つ。魔力のコスパもいい感じだ!

 俺は切断魔法を有効に使い森を突き進む。出くわした魔獣は適当にあしらっていく。

 一々、相手にしているとキリがない。

「切断」

 俺は目の前の邪魔な枝を切断魔法で切りながら、次の枝へと飛び移る。

 ここら辺で一休みしよう。

「飛翔」

 俺は飛翔魔法で飛び、木の上部に生い茂る枝を切断魔法で切っていく。

 少しでも光を入れるためと、上空を見えるようにするためだ。

 俺は地面に降りて、それなりに太い木にもたれ掛かる。この森で俺が唯一好きな時間だ。

 不思議なくらい時間が緩やかに進んでいる気がする。それは俺が必死になって、走っているからかもしれない。

 俺は首に下げているペンダントを手に取る。

「セレーナ……」

 どんなに辛くても大丈夫。

 セレーナのくれたお守りがあるから。

『早くこの森を抜けよう』

 俺は深く深く、そう心の中で呟いた。





 ***





 そろそろ行くか。

 俺はそう思って立ち上がる。

 そのとき、少し先の方で気配を捉える。魔獣の気配だ。

 でも、おかしい……この辺りにしては魔力が弱々しい。負傷しているのか? それなら、無視して行けばいい。

 俺は先の方にいるであろう魔獣は無視し、この場を去ろうとする。

 トタ……トタ……。

 酷く弱い足音。

 それが森の現実。

 強くなければ、生き抜くことは厳しい世界。

 何故だかは分からないが、俺は気になって気配の先をチラリと見てしまう。

 俺はそいつと目が合う。

 ウルフ系の子供だ。

 白色だったであろう毛並みは汚れているし、ボサボサだ。何より肉付きが悪過ぎる。

 酷く細い体はやっとのことで立っているように見える。

 だが、眼だけは違う。

 その茜色に染まっている眼は真っ直ぐに、一直線に晒すことなく俺の眼を見ている。

 俺は正直、その眼に何かを感じてしまった。

 感じざるを得なかった。

 そいつは、あるわけもない力を使って牙を剥く。

 俺に警戒しているのだろう。

 こんな森で、よくここまで生き残れたと思う。

 その生命力に、俺は純粋に敬意を感じた。

 だからというわけではないが、俺は腰に下げている袋から干し肉をそいつに向かって投げる。

「同情なんて烏滸おこがましいかもしれない。だけど……生き抜けよ」

 ただの気まぐれだ。

 これは本当の優しさではない。

 俺はまだ警戒しているそいつの眼を、もう一度確認するように見てからゆっくりと動き出す。

 そして、踏み出す足は徐々に速くなっていく。





 俺は俺のために走る。

 生き抜くために、大切な人に会うために。





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