魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

9 ダブルティラノ2

 まず左の頭を先に潰す。

「グゥラァ!」

 右が吼える。そして、俺に向かってダブルティラノが走り始めた。

 俺はある程度まで距離を引きつけ、右に消える。

 右の頭はキョロキョロと首を動かしているが、左の頭は動かずにジッとしている。

 やっぱり、左の方が厄介そうだ。

 俺はダブルティラノの後方に姿を現し、両手を前に出す。

「光の矢よ!」

 手の先にある魔法陣から光で創られた矢が飛び出す。その速さのあまり、光の矢は線に見える。

 左の頭が後ろ向き俺を捉えると、太く伸びた尻尾で光の矢を叩き落とす。

 これを防ぐか。ならこれは!

「鉱石よ、突き抜け!」

 俺から蒼い魔力が漏れ出ていく。

 中でつくり出す魔力の流れは、濁流の如く力強い。

 ダブルティラノの足下に魔法陣が現れる。俺が創り出したものだ。

 そして、魔法陣から大きく鋭く尖った結晶クリスタルが突き出す。

 左の頭が吼え、右の頭が慌てて体を反らすが一番大きい結晶がダブルティラノの側面を捉えて斬りつける。

 まだ!

「自然よ! 縛れ!」

 鉱石魔法の魔法陣を上書きするように、自然魔法の魔法陣が現れる。

 魔法陣から飛び出したのはもちろん結晶ではなく、太く伸びた植物の根だ。

 根は先の結晶に絡みつきながら、確実にダブルティラノの足を掴む。そして、徐々に徐々に胴へと向かってその根を張り始める。

「ぐ、グラァー!」

 右の頭が吼えるが、その声には若干の戸惑いが感じられる。左の頭は目を鋭くして俺を睨みつける。

 こ、怖くなんかないんだからね!

 俺はチャンスを逃さぬように、次の攻撃に移ろうとしたその時だ。

『グラァアアア!!!』

 今までで、一番の咆哮を左の頭が放つ。

 俺は思わず耳を塞ぐ。

 咆哮により魔力の流れが僅かに乱れる。

 ダブルティラノはその隙に拘束力の弱まった根を力尽くで千切り解く。

 やられた。あんな切り札を持ってやがったか。

 あれはただの咆哮ではなさそうだ。魔力を乱す効果があるのは確かだ。

 ダブルティラノが俺に向かって走ってくる。

 魔力を乱されるのは辛いから、一か八か防音結界を試そう。聴かなければ大丈夫な可能性はありえる。

「結界よ!」

 俺は結界魔法で、防音の結界を自身の周りに創り出す。

 周りの音が聴こえなくなる。音が聴こえないのは不利だが、魔法が使えなくなるよりはまだいい。

 俺は雷魔法を解いて、その代わりに結界魔法を発動している。

 ダブルティラノが迫る。

 きた!

「鉱石よ!」

 鉱石魔法で目の前に岩壁を創り出す。

 左の頭が口を開いた。咆哮がくる。

「******」

 咆哮は聴こえない。

 うん、魔力は乱れてない。やっぱり咆哮を聴かなければ問題ないみたいだ。

 左の頭は少し驚いたような反応を見せるが、切り替えてダブルティラノは尻尾を岩壁に打ちつける。

 しかし、岩壁は砕けない。魔力で強化したからだ。

 ダブルティラノは動揺している。尻尾に自信があったのだろう。

 反撃だ。

 俺は強化、結界を解く。

 全力で行く。

「水よ! 雷よ!」

 2つの魔法陣がダブルティラノの頭上に現れる。

 一方からは水流が、一方からは雷が落ちる。

「グラァァー!」

「まだ……氷よ」

 ダブルティラノの足下に魔法陣が現れる。

 瞬間、ダブルティラノの全身を氷結していく。まさに氷河期を直面した恐竜のようだ。

 ダブルティラノは身動きがとれなくなる。完全に氷像となった。

 最後だ。

「鉱石の拳よ」

 ダブルティラノの上に魔法陣が現れる。

「いけ!」

 魔法陣から拳の形をした岩石が放たれる。

 落下の速度が加わった岩石はダブルティラノを寸分狂わず捉えて、砕く。

 ダブルティラノとの戦闘が終了した。





 しかし、まだ森での戦いは終わらない。

 俺は前に進む。





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