魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

3 飛翔と強化

 今更だけど、空飛んだらよかったよね?

 そんな単純なことにも気づけないほどに、俺は動揺していたらしい。

 さっき、前とか何とか思った気がするけど、まぁいいか。上はセーフだよね。うん。

「飛翔」

 飛翔魔法。魔力が続く限り空を自由に、翔けるように飛べる魔法だ。この魔法は強化魔法と似て、使い勝手のいい魔法の一つだ。

 足の下に魔法陣が現れ、俺の体を通り抜けていく。俺は軽くしゃがみ込んでから、上方向へ跳ねる。体は地に戻ることなく、そのまま空へと向けて上昇を始めた。

 うん、問題なく使える。

 木の高さを越えたあたりで魔力の流れが不安定になる。

 んっ!? 何だこれ。こんなこと今までなかったのに。

「あ、やばっ」

 魔法を使うには魔力、魔力の流れ、魔法陣の3つが重要だ。そもそも、この3つが揃わなければ魔法は発動できない。しかし、魔法を発動できても魔力、魔力の流れを維持していなければ意味がない。

 ただし、持続型の魔法に限った話だが。

 俺は地に向かって落下する。このままだと怪我は免れない。

 地面まであと数メートルというところで、魔力の感覚が戻り始める。俺は即座に風魔法をクッションのように発動させた。

 この一連の動作を行うのにかかる時間は数秒。何度も風魔法を使ってきたからこその賜物だと言える。

「せ、セーフ」

 何とか着地に成功した。もし、地面近くでも魔力が戻らなかったら、どうなっていたことか……。まぁ、結果オーライだ。

 それにしても、空での移動は無理か。ますます辛い状況になってきたなぁ。

 俺は大きくタメ息をすることで気持ちを切り替える。結局は、前に進むしか道はないということだ。

 気がつけば、辺りは先ほどよりも暗くなっている。完全に暗くなる前に、どこか身を休められる場所を見つけたい。

「少し急ぐか……強化」

 俺は強化魔法を使い、全身を強化する。この状態ならば、30分はかかる道も数分で移動が可能だ。それに森で鍛えた歩行もある。森は俺にとってハンデにならない。

 道を駆けていると、次第に森が深くなっていくような気がする。ついには道という道はなくなり、完全に森の中だ。

 俺はビルの2、3階の高さはありそうな木々の枝を伝ったり、飛び移ったりして森の把握に努める。しかし、予想以上にこの森は広大らしい。集落近くにある森よりも、遥かに上回りそうな広さだ。

 表層地帯とは勝手が違うな。木の実も全く見つからない。

 食料が見つからない。それは直ちに解決しないといけない問題というわけではないが、いずれは直面することになる。早めに見つけておいて損はない。

 水は最悪、魔法でどうにか出来る。あまり美味しいとは言えないが……本当に、ただの水。無味とはこのことを言うのかと知った。

 味をつけることは可能なのか……今度、試してみよう。

 そして、今もっとも見つけたいのが休息を取るための場所だ。

「どうしたもんかな」

 出来れば洞窟とか、身を隠せる方がいいんだけど。

 ここは森だ。魔獣が近くにいないという保証はどこにもない。洞窟ならば見つかりにくい。それと結界魔法を使えば二重で安心感は増す。安心感があると、ないとでは大きく違う。

 良さそうな場所が見つからなかった場合は木の上で過ごすか。結界を張れば、少しくらいは休めるはずだ。

 だが結界魔法も便利ではない。結界を張っている間は魔力を流し続ける必要があるからだ。そのため、熟睡することはできない。

 まぁ、熟睡できなくても修行で身につけた休息術があるから大丈夫だけどね。

 休息術とは警戒心を解くことなく、意識を半分残しながら仮眠をとる術だ。これができると心身の回復速度が違う。

 治癒魔法を使えば確かに身体は癒せるが精神までは癒せない。魔力、魔法を使う上で精神は密接な関係をもつ。精神状態によって魔力、魔法の安定は左右されると言っても過言ではない。

 そもそも魔力とは魂から流れ出るエネルギーだと考えられている。魂と精神はほぼ等しい。だからこそ休息は魔術師にとって必要不可欠な行為なのだ。

 休息が必要なのは他のことにも言えることではあるが。

「魔力は全く減っている感じはないし、もう少し強化を強めて移動するか」





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