魔法陣を描いたら転生~龍の森出身の規格外魔術師~

黒眼鏡 洸

41 十二年

 




「魔書よ、会得している魔法を教えてくれ」

 俺は魔書を片手に呟く。はたから見たら、本に話しかけてる変人だと思われてしまうだろう。もちろん、違う。記録ログ魔書グリモアの能力である『記録』の力を使っている。

 ――――

 会得魔法

 <初級>生活(限定)

 <下級>強化(限定)

 <中級>光、闇、治癒、自然、鉱石、結界、付与、飛翔(限定)

 <上級>火、水、風、土、氷、雷

 *『(限定)』とはその階級のみでしか存在しない魔法。

 ――――

 うんうん。結構増えてるなぁー。まぁ、この4年間は修行に励んだからな……もう二度としたくないけど。

 俺は苦しかった日々を思い出し、少し泣きたくなってしまった。血反吐が出るまで続けるというのは、まさにこういうことなのだと思い知らされた。





 ***





 今は風の月32日。転生してから12年が過ぎた。

 思えば、これまで色々なことがあった。





 放課後、魔法陣を描いたことによって転生したこと。


 アーテルさんかあさんと出会ったこと。


 魔力を知ったこと。


 セレーナを守りたいと思ったこと。


 母さんの愛を知ったこと。


 稽古を頑張ったこと。


 お花摘みや、雪合戦もした。


 たくさんの人と出会い、たくさんのことを知った。

 こんなにも大切な何かが増えたのは初めてだ。
 この温かい日々いまを大事にしたい。守りたい。
 俺はそう思うようになった。





「キュウ!」 (ユーリくん!)

 セレーナがこちらへ向かって飛んでくる。セレーナはまだ、人化できていない。やはり、まだ魔力の流れが安定していないのだろう。

 セレーナの魔力は、並みの龍人では超えることのできない量だ。それを安定させることは難しい。だが、できないわけではない。セレーナも成長していくうちに、きっと人化できるだろう。

 焦らず、俺は側で見守っていようと思う。俺の大切な……

「キュウ? キュウキュ、キューウ?」 (どうしたの? じーと見て。わたしの顔に何かついてるかな?)

「あ、いや、なんでもないよ」

 セレーナがいきなり声をかけるから、少し動揺してしまった。といっても、俺が悪いのだが。

「キュウ? キュウ、キューウキュウ」 (そう? あ、そうだ! ユーリくん、魔法教えてー)

「うん、いいよ」

「キュウキューウ」 (うふふ、ありがとう)

 セレーナは最近、やっと魔法に興味をもってくれるようになったらしく、たまに俺が魔法を教えている。何故、大人ではなく俺なのかというと、俺の方が大人より魔法が詳しいからだ。

 魔法についてアレコレ調べていくうちに、いつの間にか集落一の魔法バカの称号を得てしまった。俺からしたら、これは普通のことだと思っている。

 そのことを母さんに話したら「……ユーリらしいな」と言って、大笑いされてしまった。

 そんなに可笑しいのかな? 母さんも武術に関しては大概だと思うけど……。

 組手をしているときの母さんの顔ときたら……それはもう、この世で一番生き生きしているんじゃないかと思ったくらいだよ。





 ***





 俺とセレーナは今、母さんとの稽古場としても使っている、訓練場に来ている。

「俺に続けて詠唱してね。いくよ……求めるは水」

「……キュウキュウ」 (……求めるは水)

 セレーナは俺の声を聴き逃さぬように、近くで集中している。そして、俺が発した言葉を正確に繰り返す。

 魔法は詠唱が全てというわけではないが、イメージや魔力の流れの補助という大きな役割をもつ。まだ、魔力が安定していないセレーナにとっては必須とも言えるプロセスだ。

「水よ、湧きでよ」 『ウォーター』

「キュウ、キュキューウ」 (水よ、湧きでよ)
『キューウ』 (『ウォーター』)

 俺の突き出した手の先に魔法陣が現れ、そこから水が創り出される。蛇口を全開に開いたくらいの水の量だ。魔法を止め、セレーナの魔法を魔眼の力で視る。

 セレーナは両手を前に出して、「でろーでろー」といった表情をしている。願いは届かず、魔法陣は現れてはくれないらしい。もちろん、誰かが意地悪をしているわけではなく、魔力の流れがハッキリしていないためだ。

 魔眼の力によって俺は魔力の流れを視覚することができる。セレーナが流している魔力を視ることで、その改善点を見つけていく。

「セレーナ、もっと川の流れを意識するんだ。緩やかに、ときには激しく流れる水をイメージしてみて」

「キュウ!」 (うんっ!)

 セレーナの魔力に変化が表れる。先ほどまで一定だった魔力の流れに複雑さが生まれ、蒼い流れは次第に魔法陣を宙に描き出す。

「そう! その調子っ!」

『キューウ』 (『ウォーター』)

 セレーナが再び言葉を発すると、それと同時に魔法陣も完成した。そしてそこから水が創り出させる。魔法陣の大きさも、創り出された水の量も俺より小さく少ないが、とても大きな成果だ。

「キュウキュウ! キュウキューウ!」 (やったやったぁー! できたよ、ユーリくん!)

「うんっ! おめでとう、セレーナ!」

 抱きつくセレーナを優しく受け止め、頭を撫でてあげる。こんな無邪気なところも可愛いと思ってしまう。

 でも、本当によく頑張ったよ。水魔法が最適性だったこともあると思うけど、それでも諦めず練習したもんね。

『うふふっありがとぉー』

 ん? 今のは……。一瞬、女の子の声が聞こえてきたような。まぁ、いいか。

「キュウ?」 (どうしたの?)

「ううん、なんでもないよ。それより、まだ練習は続ける?」

「キュウっ!」 (うんっ!)

「よしっ! そうこなくっちゃ!」

 俺とセレーナはまだまだ、魔法の特訓に精を出すのであった。





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